紗綾と潮

団子屋『からん』にて。




「う日柄もよろしい本日、お話の場においでいただき感謝申し上げまする」

「声が裏返っていますし、末尾に「る」は要りませんよ」

「す、すみません。緊張しちゃって」

「私の母上や父上よりも。ですか?」

「情けない話ですが。紗綾さんのご両親で使い果たしたのかもしれません」

「本当ですか?」

「いえ。すみません。雪那さんを前にすると思うと、どうしても緊張しちゃいまして。ただ会うだけでもそうなのに、挨拶もと思うと。口が動くのかと心配します」

「雪那が怖いですか?」

「昔は。すごく怖かったんですけど。萬咲さんに俺らを護ってくれている事実は受け入れろって言われてからは。恐怖が少しに減って、強いなって。憧れが生まれて。今は。恐怖は一切ないんですけど。何層にも迫力があるもんですから。何でしょう。気おくれというのが、合っていると思います。紗綾さんに相応しいのか。今でも自問自答し続けているのに」

「私も。自問自答し続けていますよ。潮さんに相応しいのかなって。そして、最後には隣で一緒に歩いていきたいんだから、相応しくなろうって。決意を新たにするんです」

「紗綾さん。ありがとうございます。僕も。一緒に歩いていきたいです。武兵みたいに速くなくて遅いですが」

「丁寧で、やわらかい。ですよ。潮さんの魅力。あなたの歩みで一緒に見る景色はいつだって、私の心を安らげてくれるんです」

「僕もいつだって、紗綾さんが居てくれたら、居なくても。想うだけで。心が安らいで、緩やかにやわらかく元気になれます。あなたに出会えて本当によかった。本当にありがとうございます」

「私も。ありがとうございます」

「僕こそ。ありがとうございます」

「ふふっ。じゃあ、そろそろ行きましょうか。交際を始めますよの挨拶をしに雪那の処へ」

「はい」








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