そのニ

 夜8時。


 僕はまたこの場所にやってきた。


 言わずもがな。


 お風呂場だ。






 でも昨日と違う点が一つ。


 僕にはとても心強い味方がいる。


 それがこのマイナスドライバー君。






 これを使えばきっと扉の鍵も開く。


 人類の叡智には人類の叡智で対抗。


 それが賢い僕のスマートなやり方だ。







 脱衣所に入るまではお手の物。


 そこから更に一歩、二歩、三歩。


 運命の扉の前へとたどり着く。







 昨日はここでガタンってなってゲームオーバー。


 でも今日は心強い味方のマイナスドライバー君がいる。






 君にかかってるよ。






 思った通り扉にはロックが。


 マイナスドライバー君の頭をかぎの『—』の部分へ。


 ぴったりとハメてからゆっくりと全体を回転させる。









 カチカチカチカチ……。






 もう少し。もう少しだ!










 カチカチカチカチ……カチッ!











 勝利の音が鳴る。


 昨日僕の行く手を阻んだ宿敵。


 厄介だったあいつは。


 僕のマイナスドライバー君の前にひれ伏した。





 安全も守れないタコが! 一生寝てな!





 心の中で捨て台詞を吐いて。


 僕はついにこの夢の扉に手をかけた。









 さあ行くぞ。


 ついに開けるぞ。








 1、2、3——!












 姉と目が合う。


 でも裸は見えない。


 お風呂淵に全身を上手く隠し。


 湯船から顔だけをひょっこり出していた。








「何やってんのお前」



「覗きに来た」



「は? キモ、死ねよ」



「それより姉よ。なぜわかった」



「普通にカチカチ聞こえてたし。てかマジキモい」








 死ね1回。キモいが2回。


 胸がときめくようなその罵倒。


 今日もうちの姉はめちゃくちゃ可愛かった。

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