第12話 新しい仲間を求めて

「新しい仲間を探そう! 出来れば男の!」


アルテアに戻ってきて数日が経ったある日、俺は現状を打開すべく、三人に提案を上げる


「……どうしたのかな? 突然」


「いや、うら若き乙女が男と同じの部屋にいる状況をいつまでも続けるのも良くないだろう? だから、男の仲間を増やして部屋を分けた方が良いんじゃないかな? と思ってな」


俺はこの日の為に温めていた持論を展開する。彼女達も男と一緒の部屋では安心して眠れないだろうし、少なくとも俺はよく眠れない


俺の意見を聞いた咲耶は少し考えこむと


「秀助がそうしたいなら、私は別に構わないけど……」


(よしっ!)


幸先の良い手応えを感じ、俺は心の中でガッツポーズをとる。


「本当に良いのかい? 部屋を分ければ、君はその人と二人きりになるけど、そんな状況に耐えられるのかい?」


「……あっ」


その言葉で思い出した

俺は日本でも異性は当然ながら、同性の友人すらいなかった事実を


「……」


思わず頭を抱える、確かに現状は良くない。しかし、新しい仲間と上手くやれる自信もない。現状でもそれなりに上手くやれているのだから、無理に変化させなくても良いのではないか、と


「……いや」


俺はかぶりを振って、そんな弱気な考えを追い払う。


「俺とも上手くやっていける奴がきっといるはずだ!」


「いないと思うけどね」


しかし、咲耶は俺の楽観的な望みをバッザリと切り捨てる。


「くっ! 今に見てろ! ナイスな仲間を見つけてみせるからな!」


そんな捨て台詞を残し俺は部屋から飛び出す、まだ見ぬ理想の友を追い求めて。




(と、言ったもののどうするか……)


威勢よく啖呵を切ったのは良いが、当てがあるはずもない。考えてみれば、この世界に来てからというもの咲耶達以外とまともに関わった記憶がほとんど無い。そんな俺が声をかけて仲間になってくれる人間が、果たして存在するのだろうか……?


頭に中にさっきの咲耶の台詞が響き渡る。


(……いや、俺は一人じゃない! 頼れる協力者がいる!)


弱気な心に喝を入れて、俺は協力者の元へと走り出す。



「新しいチームメンバー候補ですか?」


俺が向かったのは冒険者ギルドだ。そこで受付の人に仲間になってくれそうな人を探してもらう。


「はい、できれば男性で」


「男性ですか? それなら沢山いますけど……他に何か条件はありますか?」


「……俺と仲良くできそうな人でお願いします」


「……」


その言葉を聞いた途端、受付の人は顔をしかめる


「……難しそうですか?」


なんとなく結果はわかっていたが、それでも一縷の望みにかけて、恐る恐る尋ねる。


「……その条件はどうしても無ければ駄目ですか?」


「友達が……欲しいんです」


「……ああ」


俺の切実な願いを聞いた受付の人は憐憫の眼差しを俺に向けた。


「では、その、駄目元で候補者の方に聞いてみます。ですが、その、あまり期待しないで下さい」


「無理言ってすいません……」


歯切れの悪い受付の人の言葉を受け、恐らく駄目だろうという、諦観を抱きながら俺はその場からトボトボと歩き去る。




(万策尽きた……)


奥の手が不発に終わった事に肩を落とし、ギルドから出ようと扉を開くと外から入って来た人とぶつかってしまう。


「あっごめん、大丈夫か?」


ぶつかった結果、尻もちをついてしまったその少女に俺は手を差し伸べる。


「は、はい大丈夫です……」


その手を取って立ち上がった少女は、俺の姿をまじまじと見詰めると


「あのっ!冒険者の方ですか!」


やや前のめりになって、そう尋ねてきた。


「えっと、一応そうだけど……」


少女のただならぬ気迫に押されながらもそう答えると、彼女はすがる様な表情を浮かべて俺に抱きついてきて


「お願いします! 助けてください! 村が、私達の村が大変なんです!」


そう訴えてきた。


アルテアは街の大半が放牧場になっていて、のどかな場所だが、一応は都会に分類されており、周囲には大小様々な村が存在する。恐らく、この少女はそこから来たのだと思う。靴も泥まみれで息を切らしており、よほど急いできた事が窺えた。


俺は取り敢えず、その少女を引き剝がし


「冒険者に対する依頼なら、この冒険者ギルドに持って行った方が良いよ」


冒険者ギルドの扉を開き、案内してあげる。


「で、でも私お金持ってません」


「大丈夫! 緊急性の高い依頼なら、前金無しで受け付けて貰えるよ!」


「でも、後で高い料金を取られたりするんじゃないんですか?」


「そんな事はしないよ! 冒険者ギルドは依頼完了後に依頼人としっかり話し合って、無理の無い範囲の料金しか請求しないんだ!」


「だ、だけど、そんな安い報酬では冒険者の方が依頼を受けてくれないんじゃないんですか?」


「それも大丈夫! ギルドに依頼持ち込まれる依頼は様々で、危険な依頼に少しの報酬しか払えない人もいれば、簡単な依頼にもの凄い大金を払う人もいる。ギルドはそんな依頼と報酬を一旦全部まとめて、重要性に釣り合った報酬になる様に再分配しているんだ!」


ギルドが冒険者の報酬を現金ではなく、権利(GP)で支払っているのも、この再分配をやり易くする為である。つまりノーワーク・ノーペイの原則に縛られる事が無い、異世界だからこそできる力業である。


「そうだったんですね!」


「わかったのなら、君も今すぐギルドに依頼だ!」


「はい!」


そう言う少女の顔色はだいぶ良くなっていて、落ち着いた様子で冒険者ギルドに入って行く。


その途中、彼女が振り返り


「あの、依頼は出したら、あなたが受けてくれますか……?」


「いや、それは無理じゃないかな?」


今この時も依頼待ちの冒険者達が、掲示板の前で待機しているので俺が受ける事は不可能だろう。


「……そうですか」


「まぁ、俺なんかよりも凄い冒険者が受けてくれるよ」


どことなく気落ちした様子の少女に励ましの言葉をかける


「あのっ!ありがとうございました!」


そんな少女の言葉に後ろ手を振りながら、俺は宿への道を戻り出す。




 過酷な現実を打ちひしがれた俺が宿に戻ると


「おかえりなさい! ご飯にする? お風呂にする? それともた・わ・し?」


薄着にエプロンをした天音があざとく出迎えた。


「……」


しかし、俺はそんな天音にツッコむ元気もなく、ふらふらとした足取りで部屋の中に入る。


「もぉ~! せっかく、かわいい天音ちゃんが新妻さんごっこしてるんだから、ちゃんと答えてよ~! まぁ、どれも用意してないけどねっ!」


天音ならそうだろう。むしろ本当に用意していたらニセモノの可能性を疑っていた所だ。


そんな事を思いつつも、口に出す気力も無かったが


「質問と言えば……この前の俺の質問の答えってなんだったんだ?」


以前、聞きそびれた事を思い出したのでなんとなく尋ねてみた。


「えっ……ああ、空間創造でどうやって転移するのか、だっけ?」


「そう、それ」


俺が頷くと彼女は意地の悪い笑みを浮かべて


「どぉ~しよっかなぁ~、これは私の生命線だしなぁ~、簡単に教えるのもなぁ~まぁ、でも? 秀助がどぉ~してもって言うなら教えてあげなくもないけどぉ~?」


「じゃあ、いいです」

「ちょっちょっと! そんなに簡単に諦めて良いの! ほら! 今後の為に? 情報はしっかり集めとくべきじゃない?」


「いや、天音が嫌なら無理に聞き出そうとは思わないよ」

「嫌じゃないです! むしろ聞いて下さい!」


「あっ、はい、じゃあ、教えてください」


「よし来た! まず私の空間創造の説明からだね! 当然だけど、創造された空間は今いる空間とは違う場所にあるよね」


「まぁそうだろうな」


「私はその空間への入り口を自由に開けるんだけど、その出口もある程度自由に設定できるんだよ」


「ある程度って、エデルベルトからアルテアまでがある程度なのか?」


「まさか、単純な距離なら有視界下で100mほどだし、視覚外ならその半分くらいだよ。でもね~、じ・つ・は~人や物を出口に設定する事も出来るんだな~、まぁ私が明確に認識したものに限られるけどね~」


「ああ、なるほど俺達を出口にしたのか」


思えばダンジョンの時も王都の時も俺達の近くに現れた。あれは別に不法侵入が趣味とかじゃなくて、俺達を出口にした為、という事なのか。


俺が今までの天音の行動に納得していると


「で、秀助は今までどこ行ってたん?」


「うっ……」


天音は忘れたかった現実を突きつけてくる。


「彼は新しいチームメンバーを探していたのさ」


その質問に答えたのは、現実に打ちのめされた俺、では無く咲耶だった


「それで目ぼしい候補者は見つかったかな?」


そのまま彼女は追い打ちをかけるように尋ねてくる。


「……わかってて聞いてるだろ」


「まさか、推測は出来ても事実はわからないさ。だから、人はコミュニケーションを取るのだからね」


咲耶はわざとらしい口ぶりで、もっともらしい事をいう。


「……いなかったよ」


彼女の言い分に間違いがあるわけでもないので、俺も観念して告白する。


「へぇ~意外、このチームに入りたがる人結構いると思うけどね」


「秀助が探していたのは男性のメンバーだからね」

「あっ、じゃあ、ねぇわ」


「そっ、そんな事より天音はなんでアルテアにいるんだ?」


心の傷をえぐられ過ぎて、瀕死のダメージを受けた俺は、これ以上の追撃を防ぐべく、話題を変える。


「ふっふっふ~よくぞ聞いてくれました! なんと! アパレルショップアマツ・アルテア店を開店する事が決定したのです! 今回はその為に買い取った物件に引っ越しに来たんだよ」


「へぇ~おめでとう」


「へへっ! ありがとう! という、事で私の新しい城を一緒に見に行こうぜ!」


「まぁ、君は戻って来たばかりだから、ゆっくりしていても良いよ」


「いや一緒に行くよ、気分転換にもなるだろうし」


咲耶は俺に気を遣ってくれたが、部屋の中にいても気が滅入るだけなので同行を申し出る。


「よぅしっ!じゃあ、れっつごー!」


そんな天音の掛け声で、俺達は店舗予定地へと出発した。




 住所は暗記しているという天音の先導で俺達は歩いていたが、目的地に近づくにつれ、俺は嫌な予感を覚え、しかも、それは次第に強くなっていった。


そして、目的地に着いたとき、その予感が当たってしまった事を理解した。


「はいっ! ここが私の新しい城でーす! いやぁ築年数もそんな経ってなくて、かなり広い優良物件なのに、最近住人が引っ越したみたいでさぁ、チャンス! って思って買っちゃったんだよねぇ」


そう言って天音が指した建物は


「……私の、研究所」


エファリアの元住宅だった


「えっ! マジで! 前の住人ってエファたんなの? これってディスティニー? はっ! つまりこの中にはエファたんのスメルがたっぷり……」


「いえ、危険な物も数多くあったので、清掃は念入りに行われました」

「もうっ! シオンちゃんのいけずっ! こういうのはね、雰囲気を味わうものなんだよ!」


「どうでも良いけど下見はしたのか?」


「そーいやしてないね、あまりに良い物件だったから、早く買わなきゃ! って思ったからさ」


「してないのに買ったのかよ……まぁ、それならエファリアに案内して貰えば良いんじゃないか?」

「おっ、流石秀助! 良い事言う! という事でエファたん! 案内よろしくお願いします! それはもう隅から隅まで余すところなく!」


「……ん」


天音の言葉に静かに頷いたエファリアが建物の中をゆっくりと案内し、それに俺達も続く。





 当たり前だが家の中は家具などが綺麗に無くなっており、以前の様相を知っている立場からすれば、いささか物寂しさを感じる……


(……いや、そんな事も無いな)


冷静に考えてみれば、ここには解剖されて体内を弄くり回された記憶しかない。とてもじゃないが寂しく思う要素は欠片も無かった。


「日当たり良し、外の景色も良し、ここなら大丈夫かな~」


そんな事を考えながら歩いていると、天音は日当たりが悪く、窓が街道に面していない部屋を確認すると、何もない空間の中から家具や道具を次々と取り出していく。


「引っ越しするのにトラック要らずとか、便利だな、空間創造」


「だしょ~? っと、かんせーい!」


そう言っている間にも彼女は家具の運び込みを終わらせる。


「で、天音はこの部屋を使うのか」


「いやいや、私じゃないよ。ここに住むのは別の人さ


ささ、先生どうぞ。準備が出来ました」


彼女は虹色の裂け目を開くと、うやうやしい態度でその相手を部屋に招いてゆく。


「う、うむごくろう」


その裂け目から、やや尊大な態度で顔を出したのは


岩永さんだった。


彼女は分かれた時よりもだいぶ顔色が良くなっていて、天音との暮らしが性に合っている事が窺えた。


「岩永さん? ってか先生って……?」


しかし、わからないのは先生という呼称だ。思わずその疑問を口に出すと


「ひかえおろう! このお方を誰と心得る!」


天音がやたらと芝居がかった口調で立ちはだかる。


「このお方は王都で話題沸騰中の天才デザイナー、美咲様であるぞ!」


「最近エデルベルトを中心に新しいファッションが流行っているとは耳にしましたが、ミサキ様がデザインした物だったのですね」


天音の主張にシオンが補足をしてくれた。流石女子、流行はしっかりチェックしてるらしい。つか、別れてから二十日も経って無いと思うけど、そんな短い期間で新しい流行を作るなんて、岩永さんが凄いのか、天音が凄いのか、はたまた両方か。


「ふひっ、あんなので天才扱いなんて、異世界人チョロ過ぎワロタ、ふひひ」


岩永さんは日本にいた頃と同じ調子を取り戻している様で俺も少し安堵を覚える。


「という事で、美咲様は我がアパレルショップ・アマツ大躍進の立役者なのであ~る!」


「へぇ、凄いんだな」


デザインには詳しくないが一財産を築き上げるのは簡単な事ではないだろう。そう思い、感じたままを口にすると


「ふ、ふふん」


岩永さんは得意げに胸を張る


「まぁ、それで引切り無しに依頼が来ちゃって、ネタ切れ起こして逃げてきたんだけどね」


「うぅ……そ、それは」


「なるほど、それでアルテアに来たのか」


アルテアは農業や畜産業が盛んな街で、流行の最先端とは程遠い。デザイン性よりも機能性を重視する人間が多い街だ。数少ないオシャレさんも野暮ったいこの街を嫌い都会に旅立つ、確かにスランプに陥った天才デザイナー様の隠遁先には丁度良いかもしれない。


「まっ、それだけじゃないけどね」


「他に理由があるのか?」


あまりファッションと縁の無いこの街にアパレルショップを出すメリットは俺には思い浮かばないが


「だって、近くにいた方が良いでしょ。私達、一蓮托生なんだし」


「ああ、そっちか」


確かにグリジア教対策のラインは天音から俺達に、という事なので、近くにいた方が色々都合も良いかもしれない


「えっ?えっ?ど、どうゆう事?」


一人だけ蚊帳の外に置かれてしまった岩永さんが俺と天音を見比べて、戸惑いながら尋ねてくる。


「ふっふ~、そんな心配そうな顔しなくっても、ちゃ~んとザキザキも仲間だよっ!」


不安気な表情の岩永さんに、天音は飛びついた上で抱きしめ、なし崩し的に仲間に引きずり込む。


「そういう問題か……?」


「そういう問題なんだよ! 秀助はわかってないなぁ~」

「う、うぐぅ~」


呆れた様な仕草で俺に駄目出しをする天音に、俺は正直納得はいかなかったが


「どうでも良いけど、岩永さんを放してあげたらどうだ?」

「それだよっ!それっ!」


天音の腕を岩永さんが苦しそうにタップしだしたので、その感情を一旦棚上げにして助け船を出すと、食い気味な勢いで、よくわからない指摘をされる。


「えっ、何が?」

「まったくもうっ! いいこと? 私達は過酷な運命を共にする仲間なんだよ! それがそんな他人行儀な呼び方で良いと思ってんの?」


「そこか……でも、岩永さんも俺に馴れ馴れしく呼ばれるのは嫌だろ?」


天音の言いたい事は理解したものの、本人の意向を無視するのは良くないので、天音から解放された岩永さんに話を振る。


「い、嫌じゃない!」


「えっ、そうなの?」


その返答は意外なものだったが、まぁ本人が良いと言うのなら、良いのだろう。


「じゃあ、これからよろしくな美咲」


俺がそう言って、手を差し出すと


「……ふへへ、うん!」


彼女は笑顔で頷くと、その手を強く握った。











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