カウントダウン
これを防ぐべくガウェイン提督の指揮する帝国軍艦隊は、反転して
しかし、帝国軍艦隊の攻撃は、
それは帝国軍艦隊から見て
そして、ウェルキンの旗艦ヴァンガードと同型艦であるヴィジラントが、自らを盾にして
帝国軍艦隊の砲撃を一手に引き受けるヴィジラントをモニター越しに見ていたガウェインは、舌打ちをして旗艦ガラティーンの床を蹴る。
「相変わらずヴァンガード級の防御性能は化け物だな。ブリタニア星系の戦いでもそうだったが」
「提督、艦隊をもっと前進させて主砲による近接攻撃を仕掛けましょう。近距離からであれば命中精度も拡大に上昇します」
幕僚の進言を受けたガウェインは腕を組んで考え込む。
強力なシールドと装甲を持つヴァンガード級だが、決して無敵という事はない。それはつい先ほど証明されている。
だが、ヴァンガード級の真価は防御力だけではない。その巨艦に設けられた多数の艦砲から繰り出される圧倒的火力もだ。
下手に前進して、ヴァンガード級の砲火に晒されては艦隊の被害が無視できないものになる。ただでさえ大兵力を誇った帝国軍艦隊はギガンテス・ドーラの暴発、小惑星群の応酬、ウェルキン提督の捨て身の攻撃によって多大な損害を被っていた。
これ以上、ダメージを負うと
その時だった。
要塞中央指令室より命令文が届いた。つまりローエングリン総統の命令である。
命令文の通信を受け取った通信オペレーターはその文章を読み上げた。
「全艦隊は要塞から距離を取りつつ、敵艦隊の退路を断つ事。要塞からの脱出者の受け入れ用意を整えるように。以上です」
「……まさか、総統閣下は、」
ガウェインはローエングリンの狙いを察したが、納得はできなかった。
総統より下されたこの2つの命令が意図するものとは、要塞もろとも敵軍を殲滅する。即ち要塞を放棄するという事。
それはガウェインのみならず幕僚達もすぐに気付いた。
「提督、まさか総統閣下はニヴルヘイム要塞ごと敵軍を?」
「……まだ分からんが、我等は総統閣下の命令に従うまでだ。全艦隊に命令を通達せよ」
─────────────
帝国軍艦隊の攻勢が消極的になった。
要塞に肉薄する
その事に気付いた
「僕等は要塞に迫っているというのに、どうして敵艦隊は退き出したんだろう?」
トーマスの疑問に即答できるものは誰もいなかった。
しかし、少ししてオペレーターの1人が慌てた様子で告げた報告が、疑問の解決への糸口を開く事となる。
「ニヴルヘイム要塞内部に高エネルギー反応! これはギガンテス・ドーラです!」
「何ですって!? あの状態で発射ができるというのですか?」
「あ、いえ、それは不明ですが、ここから観測する限り、ギガンテス・ドーラのエネルギー反応は極めて不安定です。計算によると、今の状態でギガンテス・ドーラを発射しようとすると、エネルギーが暴走して要塞そのものが大爆発を起こす可能性が高いとの事です!」
「なッ!」
クリスティーナは唖然とした。敵の、ローエングリン総統の狙いは、ニヴルヘイム要塞ごと
「これで敵艦隊の動きにも得心がいったね。敵は僕等を逃がさず要塞付近の宙域に足止めするだけで良い」
「とはいえ、要塞が吹き飛べば、敵艦隊にも少なからず損害が出るでしょうに」
「クリス、今すぐ敵陣を突破してこの宙域から離れよう! じゃないと、要塞の自爆で僕等は全滅だ!」
「分かっています! ですが、」
帝国軍艦隊は、ガウェイン提督の指揮の下で陣形の組み直しが整いつつある。
これを突破しようとするのは至難の業であり、無理に押し通ろうとすると多大な犠牲いを強いる事にもなりかねない。
その時、ジュリアスのラプターEXより通信が届いた。
回線を開くと、クリス達の前に1枚の3Dディスプレイが浮かび上がり、ジュリアスの姿が映し出される。
「クリス! トム! 総統の奴、要塞ごと俺達を吹き飛ばすつもりだぞ!」
「ええ。こちらでも確認しました」
「なら話が早い! 俺達はこれから要塞に突入してギガンテス・ドーラの発射を阻止する!」
「「は?」」
トーマスとクリスティーナは、ほぼ同時に目を見開いた。
「じゅ、ジュリー、それは本気で言ってるの?」
「勿論だ! 要塞から出てきた
言いたい事だけ言ってジュリアスは通信を切ってしまう。
「ちょ、ジュリー! ……ったく、あいつはいつもいつも勝手なんだから」
そう言って溜息を吐くトーマス。
「す、すみません、トーマスさん」
この場にいないジュリアスに代わって、ペコリと頭を下げるネーナ。
「あ、いや、ネーナちゃんが謝る事じゃないよ。ネーナちゃんも大変だよね。ジュリーの傍にいると気の休まる時が無いでしょ?」
「い、いいえ! とんでもございません! ジュリアス様はいつも私に良くして下さいます。それにネーナはジュリアス様のお傍にいると、いつも楽しくて幸せな気持ちになります! 大変だなんて思った事もありません!」
ネーナの熱意に圧倒されて、トーマスはついたじろいでしまいそうになる。
「わ、分かった。分かったから。落ち着いて」
「あ! す、すみません。つい」
「いや。僕こそごめんね。ネーナちゃんがジュリーの事をすごく大切に思ってくれているのは分かっていたのに、変な事を聞いちゃって」
トーマスとネーナがそんな話をする一方で、クリスティーナはクスリと笑みを浮かべた。
「2人ともこんな状況でよく呑気にしていられますね」
「べ、別に呑気にはしてないよッ!」
「ふふふ。まあ、それは置いておくとして私達はどうしますか?」
「そりゃ勿論。ジュリーが行くなら、僕等も行くしかないだろ!」
晴れ晴れとした表情をしながらトーマスは言い切る。
「ええ。そうですね」
クリスティーナは、ヴィクトリーをニヴルヘイム要塞に強制接舷するよう指示を出す。
ニヴルヘイム要塞を守る
そのため、
─────────────
ニヴルヘイム要塞中央指令室では、既にローエングリンより避難命令が出ており、オペレータ要員のほとんどは要塞の裏側にて出港準備を進めている避難船へと向かっていた。
今、中央指令室に残っているのはローエングリン、ヒムラー、グデーリアン、そして数人のオペレーターのみである。
「総統閣下、敵兵が要塞内に侵入してきました。兵士のほとんどは避難中であり、敵はまっすぐこちらに向かっております」
グデーリアンが淡々とした口調で報告をする。
もはや放棄される事が決まった要塞に敵がいくら攻め込んで来ようとも慌てる必要は無い。そう考えている彼の態度は落ち着いたものだった。
「そうか。その中にジュリアス・シザーランドの姿はあるな?」
「はい。監視カメラで確認しました」
「ふふふ。では、シザーランドをここへ導いてやれ。他は不要だ。足止めしろ」
「仰せのままに」
グデーリアンが敬礼してローエングリンの傍を離れると、険しい表情を浮かべたヒムラーが前に出た。
「総統閣下、ここは危険です。どうか脱出なさって下さい」
「無用だ。それよりシザーランドが来たら、お前はこの場に残った者達を連れて脱出しろ」
「え? では、総統閣下はどうなさるのですか?」
「ジュリアス・シザーランドと話がある」
「それでは御一人で会われるという事でしょうか? あまりに危険ではありませんか?」
「案ずるな。何も丸腰で会うわけではない」
「ですが、」
「くどいぞ」
「……失礼致しました」
ヒムラーは一礼した後、一旦その場を離れる。
「さあ。余の下へ来るが良い、ジュリアス・シザーランド。己の運命に従う時だ」
ローエングリンはまるで妖怪のような笑みを浮かべた。
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