コリントス軌道上の戦い・再会
グラン・ガリア級宇宙空母ラヴァルが消滅した後、生き残った護衛艦隊と空母所属の
先行する1機目のセグメンタタはジュリアスの乗機である。そしてそのすぐ後ろにいるもう1機のセグメンタタにはトーマスが搭乗していた。
「あの野郎の事。どうせ1人で脱出しているはずだ。皆の仇、今日ここで打ってやる!」
ジュリアスは戦いながら、セグメンタタに内蔵されている索敵センサーをフル稼働させて脱出ポットや小型艇の捜索を血眼になって行なっていた。
因縁のあるモンモランシーをこの手で倒したい。そう強く希望したジュリアスの意思に負けて、クリスティーナはジュリアスの出撃を許可し、そんな彼を心配してトーマスも共に出撃したのだ。
そのトーマスの声が、無線通信を通してジュリアスの乗るコックポットに鳴り響く。
「ジュリー! 前に出過ぎだよ!」
「怖いならアルビオンに戻ってても良いんだぞ。俺は1人でも大丈夫だ」
いつも気に掛けてくれるトーマスには心から感謝してるし、頼もしくも思っているジュリアスだが、今の彼にとってはありがた迷惑でしかなかった。
「何言ってるんだよ。君を1人にできるはずないだろう」
「……好きにしろ」
トーマスの言葉にさっきまで怒りに満ちていたジュリアスの表情が緩む。
「そうするよ。でも、この事がネルソン提督にバレたらって思うと、ちょっと気が重いな」
「ふふ。心配するな」
「え?」
「怒られる時も俺も一緒だ」
「ジュリー……。うん。そうだね!」
ジュリアスのセグメンタタが正面に立ち塞がるシュヴァリエを撃墜した時、その爆発に姿を潜めながら接近する機体が1機が光る剣を振ってジュリアスに襲い掛かる。
「くッ! この程度で!」
咄嗟にジュリアスはビーム突撃銃を左手に持ち替えて、右手に
両機が手にしている
その時、ジュリアス機のコックピットに敵機から無線通信で敵パイロットの声が聞こえる。
「隊列を大きく離れてたった2機で敵陣の只中をうろつくとは愚かなパイロットですね! このまま撤退するつもりでしたが、ちょうど良い憂さ晴らしです!」
「ッ! その声、モンモランシーか!」
「ふん! だったら何ですか?」
「殺してやる! お前に殺された仲間達の仇!」
強引な力押しでシュヴァリエの
凄まじい殺気と怒りを目の前の敵に向けるジュリアスだが、それを一身に浴びるモンモランシーは鼻で笑う。
「子供ですね。軍人であるなら、死はいつでも覚悟しておくべきしょうに」
「違う! この戦いで死んだ奴等じゃない! あそこで、惑星ロドスでお前が捨て駒にした俺の仲間達だ!」
「ん? 惑星ロドス? 捨て駒? ……まさか君、ロドスで集めた少年兵の生き残りですか?」
ジュリアスの激しい猛攻を受け流しながら、モンモランシーは嘲弄するような笑い声を上げる。
そんな2人の会話は、トーマスの乗るセグメンタタにも無線を通して伝わっていた。
「しょ、少年兵?」
突然明かされたジュリアスの過去。そしてその内容に、トーマスは動揺せずにはいられなかった。
ジュリアス機の一太刀を避けたモンモランシーのシュヴァリエは背中のスラスターを最大主力で噴出させて一気に距離を取る。
「ふふふ。だとしたら、あなたには改めて礼を言いますよ。あなたのお仲間のおかげで平民の私が今や中将です。あなたのお仲間の死は、ちゃんと私の役に立ってくれていますよ」
「くぅッ! 貴様ッ!!」
怒りに身を任せてジュリアスはシュヴァリエの後を追おうとする。しかし、感情に流されたその戦い方はモンモランシーに対して隙を曝け出した。
「ふん。しょせんは子供ですね」
モンモランシーは笑みを浮かべ、シュヴァリエのビーム突撃銃の銃口をジュリアスのセグメンタタに向けて構えられる。
既に回避行動を取る暇は無く、このままでは確実に撃墜される。
ジュリアスがそう瞬時に察した瞬間、トーマスのセグメンタタがビームを連射しながら両機の間に割って入った。
「ジュリー、前に出過ぎだよ!」
「と、トム!?」
トム機はジュリアス機の前に立ち、ビーム突撃銃を連射させてシュヴァリエに攻撃の隙を与えない。
「く! 良い動きをするパイロットだな。……まあいい。たった2機くらい見逃すとしますか。ではロドスの坊や、またいずれ会いましょう」
迫りくるビームを巧みに避けながら、モンモランシーは脇目も振らずに宙域を離脱してしまう。
「な! 待ちやがれ! まだ、」
「ジュリー、もう止めなよ」
「……」
「事情があるのは分かった。でも、だからって、このまま深追いするのは危険だ」
「トム……。分かった。さっきは援護してくれてありがとうな」
無線から聞こえたジュリアスの元気の無い声を聞いてトーマスは安堵した。ひとまず怒りは胸の中に閉まってくれたようだ、と思ったためである。
「トム、さっきの話だけど、」
「無理に話さなくても良いよ」
「え?」
「いつか君の気持ちの整理がちゃんと着いて、気が向いたらで良いよ。君の過去に何があろうと今の僕等は親友。そうだろ?」
「トム……。ああ。そうだな!」
─────────────
連合軍護衛艦隊は壊滅。惑星コリントスの包囲網も実質的には瓦解した。
しかし、惑星包囲軍自体は4分の3が無傷で残っており、これに合流したモンモランシーはまだ戦いを諦めてはいなかった。
グラン・ガリア級宇宙空母マルシュに乗艦して新たな旗艦に定め、各地に分散配置していた連合軍艦隊を一ヶ所に集結させようとしている。
総合戦力では今だ連合軍の方が勝っており、帝国軍としてはこのまま敵が集結するのを黙って見ている事はできない。
総司令官フレイランド大将は艦隊を再編させた後、直ちに攻撃を仕掛ける旨を全艦隊に通達した。
「まあ。総司令としてはそうするだろうな」
戦艦アルビオンに帰還したジュリアスは、フレイランドの命令を聞いてそう呟いた。
「でも、敵はやっぱりコリントスの低軌道上に展開しているんだろ。という事は戦闘になったら惑星の民間人に被害が出るかもしれない」
トーマスが心配そうな声を上げる。
そんな彼の肩にジュリアスは腕を回し、無邪気な笑みをトーマスに見せる。
「その時は、また戦艦1隻を特攻させてやればいいさ!」
「……まったく君は。敵だって馬鹿じゃない。きっと対策を講じてくるさ」
「だったら、また別の手を考えれば良い」
そんな2人のやり取りを見て、指揮官席に座るクリスティーナは笑みを浮かべて安堵の息を漏らす。
「どうやら、本当にいつものジュリーに戻ってくれたようですね」
クリスティーナは誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
「ところでジュリー、次の戦いも
「……」
ジュリアスは即答はせず、表情から笑みが消える。
「やっぱり、ダメ?」
「どうしても、というなら仕方ありませんが、本音を言えばここにいて欲しいです」
「わ、分かったよ、クリス。次は大人しくしてる。約束するよ」
「んん~。ジュリーの約束はあまり当てにできないですからね。心配です」
「え~! 流石にそれは心外だぞ!」
「あなたは規則破りの常習犯なのですから、当然でしょう」
「うぅ。それを言われると辛いな」
ジュリアスが言葉を詰まらせると、トーマスがクスリと笑った。
「ジュリーも信頼を無くしたものだねぇ」
「まったくだよ。それなりの成果は上げてるんだから別に良いでしょ」
「その火消し役をするこっちの身にもなってほしいよ」
「……し、信頼できる親友が2人もいてくれて俺は幸せ者だよ!」
「ったく、調子の良い事を言って」
クリスティーナは溜息を吐く。
いつものジュリーに戻ってくれたのは嬉しい。素直にそう思うクリスティーナだが、一方でジュリーの悪い所までしっかり元通りのようですね、と頭を痛くするのだった。
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