銀河帝国衰亡史~銀河を駆ける三連星~
ケントゥリオン
第一部
銀河年代史
西暦2755年、人類統一政体である地球連邦政府は、その政府機能を地球からブリタニア星系第3惑星キャメロットに移し、銀河連邦の成立を宣言する。
銀河連邦政府は、この年を銀河歴元年と定め、人類の新時代の幕開けを強く主張した。
以降、銀河連邦は外へ外へとその生存圏を拡大していき、未知の世界の開拓は人類に莫大な富をもたらした。
人類にとって正に黄金期と言える時代であり、その平和と繁栄を大いに謳歌した。
しかし、銀河歴378年に人類は新たな問題に直面する。アータイル星系が銀河連邦に対して独立宣言を出し、アータイル共和国の建国を発表した。
銀河連邦は年々支配星域を増やしているが、政府の統治機能は政治家の汚職や利権争いなどから低下の一途を辿っており、銀河系外縁部になればなるほどその管理が行き届かないという事態に陥っていた。外縁部の辺境星域に属するアータイル星系の住民はその不満を遂に爆発させて独立という挙に及んだのだ。
これにより銀河連邦は史上初の本格的な戦乱を経験する事になるのだが、連邦市民の反応は冷めたものだった。辺境の一星系が反乱を起こしたくらいで連邦政府が揺らぐはずがないと考えたためだ。しかし、その認識はすぐに打ち崩される。連邦軍の討伐隊はアータイル共和国軍の反撃に会って壊滅。
この知らせに議会と軍は騒然とした。
すぐに情報統制を布いて市民に連邦軍敗北の報を知られないようにしようとするも、時すでに遅くアータイル軍によって銀河系全域に公表された。
こうして、民衆の支持を失った時の政権ローズバルト政権は閣僚総辞職という事態を巻き起こす。
連邦軍大敗北の報を受けて、アータイル星系以外の辺境星系も次々と武力蜂起。アータイル共和国と合流して「銀河革命連合」を発足した。
銀河連邦と銀河革命連合による戦争は後に「アータイル戦争」と呼ばれ、以降5年にも渡って継続される。
銀河歴383年、アータイル戦争は銀河連邦の勝利で終結。
しかし、それは戦争前の平和な時代への回帰とは言い難かった。
戦争によって交通網は麻痺し、さらには銀河革命連合の残党が宇宙海賊となって輸送船を襲うといった事件も多発するようになった。このために警備費用や安全保障費、保険料などの出費が嵩んでいき、交通の混乱や流通の衰退を招く。
銀河歴385年、アータイル戦争にて連邦の勝利に大きく貢献した英雄アドルフ・ペンドラゴン提督は政界に転じ、連邦政府の腐敗を批判。同じく銀河連邦の未来を案ずる同志を結集して「銀河創生の会」を結成した。さらにこの年の総選挙で当選して連邦議会議員となる。
銀河歴393年、42歳となったアドルフは、幾度かの選挙を経て大統領選挙には落選してしまうものの、銀河創生の会は連邦議会与党としての地位を確立した。
そして議会内選挙にて連邦議会議長の座を手に入れた。これは銀河連邦史上最年少の議長の誕生である。
「混沌と化していく今の社会にこそ強力な指導力を持った政府が必要なのだ!」
この活気と覇気に満ちた演説を披露したアドルフを、長い長い腐敗の時代の中で生き続けていた連邦市民は熱狂的に支持した。
銀河歴395年、国民の支持を背景にアドルフは、連邦大統領ヒンデンブルクを失脚させてその後任の座に座る。連邦議会議長と連邦大統領の2つの職は、これまでに独裁制を防ぐために兼任を認めない事が慣例となっていたが、それはあくまでも慣例であり銀河連邦憲法には規定されていなかった。それをアドルフは利用して、自らの独裁政権を確立したのだ。さらに全権委任法を制定して、終身大統領を自称するようになる。
銀河歴396年、アドルフは国民投票を実施し、賛成多数により「全人類の皇帝」へと即位する。こうして銀河連邦は国号を銀河帝国と改め、400年近く続いた連邦の歴史に幕を下ろした。
アドルフが皇帝となる事を望み、彼の言うままに権力を与えてきたのは他ならぬ民衆である。皇帝となったアドルフは、今まで以上に権力を思いのままに行使して民衆の期待に応えた。政界からの汚職追放、行政効率の向上、税制改革など、その政策は多岐に渡る。
アドルフは少々強権的ではあったが、連邦時代に蔓延っていた悪習は次々と払拭されていった。しかし、アドルフの政策はこれだけでは終わらなかった。
帝国中央部と各星系の統治能力を向上させるために、政治・経済・交通などの面から重要性の高いとされる星系を「皇帝属州」に定めて、その星系の自治権を剥奪した。そして自らが任命した総督が現地の支配に当たるようになる。
銀河歴397年、連邦時代から強力な指導者による強力な統治支配を目指していたアドルフにとって、自分を批判する者、反対的な姿勢を示す者は、社会を乱す犯罪者にしか映らなかった。彼等を摘発・処罰するためにアドルフは「治安維持法」を発布。不敬罪や国家反逆罪などが法制化された。
反対勢力への全面的な弾圧のために、連邦時代からある警察組織を再編成した保安警察、政治警察の一種である秩序警察などを政治して活動を始める。これは即ち、独裁者による恐怖政治の始まりを意味していた。
こうして誕生したアドルフを始祖とする銀河帝国は、この後300年以上に渡って銀河系を支配し続ける。
しかし、帝国の支配体制が大きく揺らぐ事態が起きる。帝国を二分する内戦が始まったのだ。
事の発端は、銀河帝国第18代皇帝テオドシウス・ペンドラゴンの我が子への愛情からである。銀河歴647年に生まれた、テオドシウス帝の第一子は双子だった。人類がまだ地球に根を下ろしていた時代より帝位継承を懸けた争いを避けるため双子が生まれた場合はその片方を始末するというのが王族の暗黙の了解。しかし、テオドシウス帝は我が子を殺せず2人とも皇子として育てる事を決意した。
銀河歴667年、テオドシウス帝は病に倒れて崩御。双子の皇子の内どちらを次の皇帝とするか定めないまま崩御したため、帝国政府ではどちらを次の皇帝にするかで対立が始まった。
この対立は、単に次期皇帝をどちらにするか、という議論だけでなく、帝国貴族間で積み上げられてきた政治的確執や利害関係などが複雑に絡み合い、それがやがて武力衝突という形で爆発した。
諸侯の擁立を受けて長男リヴァエル皇子が帝位につき第19代皇帝となる。一方、次男のジェームズ皇子は諦めずに傘下の有力貴族達と共に辺境へと逃れて惑星エディンバラにて「エディンバラ貴族連合」を発足。ジェームズは兄が専有した帝位の奪還と兄を唆した奸臣の粛清を掲げ、実の兄と真っ向から対決する姿勢を見せた。
ここに銀河帝国史上初の内戦が幕を開ける。
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