マジック・ジョンソン・レヴェルフォール・ピグニフィシェント

エリー.ファー

マジック・ジョンソン・レヴェルフォール・ピグニフィシェント

 音を紡ぐという仕事をしている。

 演奏家ではない。

 何者であるかは語らない。

 とにかく、音を紡いで自分の人生を彩っている。

 多くの人がする質問は常に的が外れている。それらが正確であるかどうかに限らず、物はというのは常に外れた場所に着地するのだ。

 時間が惜しい。そう思いながら仕事をしている。理解されない限り、私たちは自分の生き方を曲げることはできない。いずれこの仕事もなくなってしまうらしい。

 本当のことを言えば。いいか。一度だけしか言わない。

 音を紡ぐことは決して難しいものではない。司書のようなものだ。確かにこだわりとプライドを持って仕事をしている者はいるだろう。けれど、慣れれば簡単だ。

 え。

 慣れれば簡単な仕事というのは、溢れかえっていると。

 なるほど。

 細かいことはいいんだ。別に司書ではなくてもいい。たとえ話だ。失礼だったなら謝ろう。

 とにかく、音を紡ぐというのは一人の人間にできることであり、別にこの世から消えて困るような仕事ではない。

 家族を持つことのできるそれではない。

 いいか、まともな生き方をしたいのであれば選ぶべきものではない。自分の状況をよく理解しない者のための仕事と言っていい。

 嘘をつくな、だと。

 ならば、私を見てみるといい。

 大人しく生きているが、これはあくまで大人しく生きるしか道が残っていなかったためだ。自分の足音に気付いて呼吸をわずかばかり弱くするような、そんな生き方しかできない。

 綿で傷がつく。

 それがどうした。

 綿がなくとも傷がつく。

 それがどうした。

 傷をつけるために綿を持って来る。

 これが一番しっくりくる。

 傷が欲しいのだ。同情してもらえるし、そうやって幸せに近い生き方ができると本気で思っている。

 信じれば救われるのだ。

 神がいるとは思わないが、振り返れば私の影が神の役割を果たしている。この宗教はやめられないよ。音を紡がなくとも道しるべがあって、迷うことがない。常に何かに引きずられるように生きている。

 私の姿が見えるか。

 見えるわけがない。

 あくまでこれは小説だ。文字だ。いや、ショートショート、詩と言えるかもしれない。

 けれど、立ち上がってお前の前にいるものだ。音が聞こえたか。何かが刻まれる音が響いている。お前の耳にはきっと届いている。

 うめき声に近い。

 それは何かのストレスからなるものではない。歓喜なのだ。形を変えた衝撃が、状況を変えて訪れる一辺倒の休憩時間。

 時計の音を聞いたことがあるか。針が動く音ではない。世の中の心臓の音だ。あれが聞こえなくなると皆、狂ったように不安になる。

 夜の町に人がいない。

 箱の中に積み込まれた人々の顔色。

 朝の光と共にやってくるはずの希望がない。

 疲労が心に巣を作ってしまったものだから、望みを見つけられたはずの手を切ってしまう。

 分かるだろう。

 これが仕事なのだ。私の仕事は生きることなのだ。誰もがやっていたことであり、いつかは誰かが代わりにやらなければいけない仕事なのだ。

 私が狂っているように見えたか。

 お前が、昨日も、今日も、明日も、まともな顔をして生きているのは誰のおかげだ。その口から吐き出すべき名前は何だと思う。

 言ってみろ。

 もう、音は戻らない。

 もう、聞こえてこない。

 さようなら。

 私はもう仕事はしない。

 誰も私を褒めない。誰も私を認めようとしない。誰も私を評価しない。

 さようなら。

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