魔王レベル1~勇者に封印された500年後に復活を果たしたが、女神の祝福(呪い)のせいで力を使うと弱くなってしまう我は、レベルを上げて今度こそ世界を混沌に陥れようと思う~

お茶の。つづく

第1話 解ける封印、甦る魔王

 圧倒的な闇の力で世界を混沌に導いた魔王ヘキサと、世界の秩序を取り戻すために立ち上がった勇者アーレスの戦いは、封印から解放された女神レリアに授かった加護と祝福の力によって、勇者アーレスが魔王ヘキサを辛うじて封印し終結を迎え、世界は秩序と平和を取り戻し人々の顔に笑顔が戻った。


 しかしそれから500年の年月が流れ、今再び世界は混沌の闇に包まれようとしていた。



 眩しい……苦しい……。

 この何も見えず何も聞こえない白い光の空間で……永遠とも思える時間を過ごした……。

 10年か100年か……あるいは1000年か……。


 おのれ……我をこんなところに封じ込めた憎き女神レリア……そして勇者アーレス……許さぬ……我は決して貴様らを許さぬ……。


 我を閉じ込めている……忌々しい封印の器……。

 僅か、僅かな隙間でもあれば……我が闇の力でこじ開け、現世に戻ることができるというのに……。

 おのれ……おのれぇ……。

 許さぬ……許さぬ……必ず、必ず我はここから出でて、世界を混沌に陥れてやるぞ……!


 ガゴ……ゴゴゴゴゴ。

 

 ん……?

 音が聞こえた……なんだ?

 あれは亀裂……?

 この忌々しい封印の器に……我が望みし『隙間』ができたのか……!?


 く、くくく……ふはははははは!

 なんということだ、世界は我を必要としているようだ!

 残念だったな、女神レリア、勇者アーレスよ!


 今ここに貴様らが命がけで封印をした我、魔王ヘキサは復活するのだ!


 光の空間に突如現れた黒い亀裂に手を伸ばす。

 亀裂は次第に大きくなっていき、我の体は吸い込まれていく。

 そして――。


「きゃっ!?」

「ふはは……ふはははははははは! やった、やったぞ!」


 ここは間違いなく封印の器の外!

 あの忌々しい空間から解放され我は現世に甦った!


 勇者アーレスと最後に戦った魔王城ではない見知らぬ場所だが、そんなことはどうでもいい。

 見ろ、目の前へたり込んでいる小娘が、恐怖に顔を歪めてこっちを見ておるわ。

 くくく、くくくくくく。


 ……小娘?

 情けなく腰を抜かしている人間らしき者を凝視する。

 長い銀色の髪のひ弱そうな小娘がそこにいた。


「あ……ぇ、と」


 我に捧げるための生贄か?

 それともこの小娘が我を封印から解き放ったのか?

 だとすると殺してしまうのは可哀想というもの。

 放っておいても野垂れ死にそうな小娘だからな。


「我の封印を解いたのは貴様か?」

「ふ……封印」


 小娘は手にしている何か蓋のような物を見て小さく頷いた。


「ぁ……はい、多分」

「くくく、ふははは、そうかでかしたぞ小娘。我は今気分が良い。殺さずにおいてやるから、どこへなりと好きなところへ行くがよい」

「は、はぁ……でもここ私の家なんですけど」


 ふはは、何を言っておるんだこの小娘は。

 それでは逆に我がおじゃましますではないか。


 改めて辺りの様子を見てみると確かに普通の住居のように見える。

 少なくとも魔王を封印した器を守るための祠などには見えない。

 足元は台座というよりはテーブルみたいな物だ。

 我は今その上に立っている。


「えっと……あ、あなたは誰ですか?」


 小娘は立ち上がって失礼な質問をしてきた。

 我を知らぬ者がこの世におるというのか。

 しかしこいつは我の封印を解いた者だ、特別に教えてやるとしよう。


「我の名はヘキサ、貴様ら人間とこの世界に混沌を招く魔王だ!」

「ま、魔王……は、はぁそうなんですか」


 なんだこの薄い反応は。

 もっと驚き恐怖におののくのが普通の反応だろう。


「あ、でも、あれから出てきたから嘘は吐いてないのかも……?」

「何をぶつぶつ言っておる。おっとそうだ、封印から解放されたのなら、もう二度と同じ手は食わぬように封印の器を破壊しておかなければな。小娘よ封印の器はどれだ」

「そ、それです」


 小娘が指さしたのは俺の足元、そこには古めかしいティーポットとカップが並んでいる。


「おい小娘、そういう冗談はいらん」

「いえ、本当にそれから出てきたんです」


 もう一度足元を見る。

 やはり古めかしいティーポットとカップしかない。

 ちらりと小娘が手にしている物を見てみる。

 柄が同じだから足元のティーポットの蓋で間違いないだろう。


「……我、ティーポットから出てきたのか?」

「はい、物置にあったティーポットがおしゃれだったから、洗って使おうと蓋を開けたらあなたが出てきました」


 小娘は少し困惑しているようではあるが、嘘を吐いているようには見えない。

 ということは……ということはだ。


「我はあの壮絶な戦いでティーポットに封印されたのか?」

「よ、よくわかりませんが……多分おそらくきっと、そうなんじゃないかと思います」


 おのれ女神レリアに勇者アーレスめぇぇぇぇぇぇ!

 許さぬぞ、我、貴様らだけは絶対に許さんからなああああああ!

 おのれ、おのれえええええええええええええ!


 長き封印から解放された日、我は泣いた。

 今までどんなことがあろうと泣かなかった我が初めて泣いた。


「くそう! 許さぬ、絶対に許さぬぞおおおおおおおお!」

「あの、とりあえずテーブルから降りてください」

「ぬあああああああああああああああああ!」

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