ボッチの俺は逃げたいが、車椅子なので無理でした。〜毒舌人見知りの、両足ギプスハッピー(?)ライフ〜

野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中

俺の退路は塞がれた。

第1話 陰キャな俺の小さな願いは、何の容赦もなくぶった切られた



 足を怪我した。

 何かとってもアホな理由で。



 視線を落とせば、痛々しくも包帯でぐるぐる巻きになった自身の足が見えている。

 しかもこれが、情けない事に両足共にだ。


(なんだコレ、両足真っ白とかコントか何かか)


 心の中でそんな風にツッコムが、誰からの返答もない。

 ……当たり前か。

 だって言ったの、心の中でなんだから。



 勝手にせり上がってくるため息を吐きながら、車椅子に座った俺は学校を見上げる。


 梅雨も明けたっていうのに、何だか白い半袖の制服シャツがジメッと肌に張り付いて気持ち悪い。

 少しでもマシになるかと首元をつまんでパタパタとしてみたが、あまり意味は無いような気がする。

 

 これはきっと、場所が悪い。

 なんてったって、炎天下の校門前だし。


「……行きたくないなぁ」


 はぁと憂鬱さを吐き出しながら、俺はそう呟いた。

 今度は口に出したけど、やっぱり誰も聞いていなかった。




 世の中には、人と一緒に何かをするのが得意な人間というモノが一定数存在している。

 しかしそれは、あくまでも『一定数』だ。

 一定数である限り、そうではない人間というのも必ず存在し、そして俺は紛れもなく後者である。


 クラスでは基本話さない。

 「あ、いたの?」と言われるのならまだ易しい。

 場合によっては「えっと……誰クンだっけ?」とか言われたりする。

 

 でも別に気にしていない。

 俺は自分が根暗なやつだと知っているし、俺だって相手の事は大して気にしていないのだから、相手だって俺の事を気にしないのはある意味正しい。


 別に強がりとかじゃない。

 ほんと、別にそんなんじゃない。



 そんな俺だから、授業以外では大体寝たフリか読むフリだ。

 そんな生活にまさか楽しみを見いだせる筈なんて無く、そもそも俺にとって学校なんて憂鬱な場所でしかないのは当たり前だろう。

 

 その上今日は、両足骨折&慣れない車椅子だ。

 憂鬱は更に募る。


 本当は、今日学校に来たくなかった。

 しかし今日で休んで一週間だ、いつまでも休んでいる訳にはいかないし、何より医者から「ゴー」が出てしまっている。


 それに俺は小心者だ。

 まさか親に「もう一日」と言う事なんて出来る筈もなく、結局ここまで来るしか無かった。



 目の前には今、薄クリーム色のドアがある。

 座っていて視線が低いからなのだろうか。

 見慣れた筈のドアなのに、いつも以上に圧迫感があるように思えた。



 思わずゴクリと唾を飲み込む。


 このドアを開ければきっと、陰キャの俺のこのちょっと仰々しい姿がクラスメイトにさらされる。

 そう思えば、今にも幻聴が聞こえてきそうだ。


「えー……何アレ」

「もしかして、目立ちたい系?」

「センス無いわー」


 そんな、誰とも分からない人間の呆れと蔑みと嘲笑が脳内を駆け巡り、俺は慌てて首を振る。


 そうでなくとも、ここに来るまでの間に周りの奇異の目に晒されてきて、そのお陰で妙にHPが目減りしている。

 その上に更にマイナス思考を重ねて自分のHPを荒削りとか、自滅にも程がある。


 それに、だ。


「……どっちかというと、一瞬だけこっち見て、その後は何事も無かったかのように会話に戻る可能性の方が高いって」


 寧ろその方が良い。

 それはそれでちょっと悲しくはあるんだけれど、どうせ心配や激励の声を掛けられる事がないのなら、嘲笑われるよりはずっと良い。


 そんな風に思いながら、目の前の扉へと手をかけた。

 もう一度だけ、憂鬱を肺の奥から吐き出して、それからグッと手に力を入れる。



 ガラッと音を立て、扉が開いた。


 天気が良いからか、教室内が妙に眩しい。

 目を閉じなければならない程ではないものの、そんな陽の光に思わず目を細めてしまう。



 少し逆行気味になっていたが、クラスメイトたちの顔はよく見えた。


 登校して来くる友達を探す様な視線がこちらの向けられたからだ。

 一拍遅れてそう気付き、いつもの事だと跳ねた心臓を沈めにかかる。



 扉を開けてそういう人たちと目が合うことは、特に珍しい事じゃない。

 そしてそういう目達は入ってきたのが目当ての人物でないと分かると、大抵すぐに興味を失って引けていく。

 それが俺の日常だ。


 きっと今日も、そうなるだろう。

 だから心配する必要はない。

 そう思えば、安堵する。


 決して望んで得たわけなどではなかったその日常を、今日ほど欲したことは無かっただろう。


 しかし、そんな願いはぶった切られた。


「えーっ! ちょっと何それどうしたのー?!」


 制服を指定よりも随分と着崩してバッチリメイクをした一人の少女が、何故か目を爛々と輝かせながら楽しげにこちらにやってくる。

 そんなあまりに非日常的な光景によって。


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