「私は探索者を引退します」

司弐紘

序章 終わりが始まり

「引退するって、本当ですか?」

 シャフル帝国の東の端。


 世界の屋根とも呼ばれるネガ・ロゲージョ山脈の中腹に、洞窟が発見された。

 その洞窟は何処までも続いており、いつしかその洞窟は「大迷宮」と呼ばれるようになる。


 それを発見したのが“異邦人”――マコト・イトウであった。


 マコトは「大迷宮」への前線基地として、ただの村落でしかなかったアトマイアという村を強引に発展させて、迷宮探索の基礎を確立。

 やがて多くの探索者が「大迷宮」に挑む事になる。


 マコト自身もパーティーを組んで、迷宮に挑み続けた。

 実際、その迷宮はマコトによってひらかれたも同然だ。


 自然な洞窟だと思われていた迷宮の奥には、建造物の一部としか考えられない石壁が出現し、やがては強力なモンスターも登場し始める。


 それは危険と同時に、人々に恵みをもたらした。

 財宝や、貴重な鉱石、あるいはモンスターと戦うことで手に入る報償EXPそれ自体が恵みにもなる。


 そしてマコトのパーティーは遭遇する。

 現在の最大深度のその奥で、美しきバンパイアと。


 ――迷宮の奥には、バンパイアが棲息している。


 それは、この迷宮の存在理由も、その他迷宮に関係する不思議な事も説明するかのように思えた。

 つまり迷宮探索の意欲をさらに煽る“発見”であったのだ。


 だがマコトは、バンパイアと遭遇したことでまったく逆の結論にたどり着いてしまったらしい。

 マコトはこう告げたのだ。


 ――「探索者を引退する」


 と。


 まだそのような年齢としでは無いはずだ。

 それに“異邦人”が持つ特殊なスキルもあるはず。


 引退する理由が見えない。

 そんな疑問が渦巻く中、本当にマコトはパーティを解散してしまい、アトマイアを去った。


 だが、マコトが残したものは大きい。


 その中には当然、“人材”がある。

 特にマコトに最後までつき従った少女――カリトゥ。


 彼女自身、レベル53という高位の探索者であることも魅力ではあるが、何よりもマコトをサポートし続けた知識、そして力量は探索者の全員が認めるところ。


 マコトの引退。


 それはアトマイアに大きな衝撃をもたらしたが、それは単純にマコトの消失によるものばかりでは無かった。


 消失により、生み出される混乱。

 その混乱こそが本当の衝撃をもたらしたのかも知れない。


 それを象徴するのが、マコトが残した少女カリトゥ。


 浅黒い肌に緑の瞳。


 斥候職スカウト最高位者ハイエンド


 マコトがいなくなった今、彼女は何を思うのか……

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