story ~異世界編~
朝凪 渉
ep1. ロイゼル嬢は下剋上に忙しい
【ロイゼル嬢】
ロイゼル・メイラッハ・ルイス嬢といえば、この国で知らない者は誰一人とてない。
我が国、ユドリア随一の貴族家にして、Gエネルギー輸出に最も力をいれている資産家、第47代公爵ロイルド・メイラッハ・レイ の子息女、最愛の一人娘である。
そんな彼女は民からの信頼も厚く、彼女自身も、その凛とした、温かみのあるまなざしを民の生活に注いでおられる。
腰まである長い淡青色のストレートの髪をグッと上でくくり、余った横髪を三つ編みで結い上げ装飾でとめる。耳にはイヤリング。貴族としての優雅さをとどめつつ、次代を担う経営者として、フットワークの軽めの服装を。
今年は成人を迎えるということで、町では他の貴族も招いての祝宴の用意が着々と整いつつあるのだが、それに浮かれることなく、
いつものように、朝から貧しい民に食物を与えるために車を出しておられた。
・・・実は、貴族の女性が郊外を出歩くことはゆるされていないのだが。
そう、このたたずまいは「公共」での話。
とある休日。
「早く早く、今のうちに行くわよ!」
午前3時半。私の部屋の扉がサッと開いたかと思うと、もうそこには茶色の半袖にデニムの短パン、立派な町の男児。に扮装したお嬢様がこちらを見下ろしている。
「・・・おはようございます。朝から何用ですか?」
本来なら首が飛んでいるであろうこの状況は、しかし彼女の権利によって抹消される。
「今のうちに抜け出すの、またお金忘れないでよ?ちょっと遠くまで行くんだから!」
「また偵察(+支援)ですか。」
「それ以外に何があるっていうの!?」
一見、優雅なお嬢様、にみえるが、この方はある野望のために民衆を、父ですら欺いて、この家を、いや、貴族を壊滅させようとしていらっしゃる。
とんでもない話だろう。
しかし、そこには理由がなければならぬ。
彼女にはそれほどまでにする十分な理由があった。
しかし―
これを知っているのは私と、もう一人の使用人だけである。
なぜか?
我々が要戦闘要員だからである。とはいってもプロという意味ではない。
このお嬢、見た目こそ鮮烈な青の瞳、クッキリとした顔形があり、意思の強さもリーダーシップもあるように見えるが、思い込んだら一直線、「猪突猛進型」で気性の浮き沈みが激しい。運の強さは認めるが痛い目に遭うことも少なくない。
結果、コメディーも甚だしく、しっちゃかめっちゃかになって帰ってくることが多い。ところがあるのだ。
それを冷静に押しとどめ、着実に任務に戻していくのが我々の役目、といったところか。
着替え終わり、軽めの朝食をすませると時計を確認する。タイムリミットは約2時間。
「お嬢様、用意ができました。」
カーテンから月の光がもれてくる。お嬢様の笑顔がこちらを向いた。
思わず微笑み返す。
申し遅れた。私の名はルイ・ガイラス。
このロイゼル嬢に仕える執事である。
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