スピーキー・ワウ

エリー.ファー

スピーキー・ワウ

 静かになってしまう。

 このままでは、皆、静かになってしまう。

 そのために、私の手で静かにしていく。

 寂しくなる前に、寂しくしてしまう。

 気づかれないように、手筈通り行った。

 抜かりない。

 私はこのためにすべてをこなしてきたのだ。準備は万端である。

 地球は間もなく滅亡する。そのことを私だけが知っている。気づかせてはならない。

 だから、私がすべてを綺麗にする。彼らに不安が訪れないようにするための教祖である。

 これは、神になるための準備なのだ。私が、私のためではなく、私外のために神になるという一つの行為なのだ。間違っても儀式ではない。残念なことに、これは聖なるものではない。ただし、邪悪とも言えない。

 やさしさから始まった行動は、水面を滑るようにして、消えてなくなる事象そのものである。あのようになれればどんなに美しいかと、皆が思う。それに私はなった。いや、最初からなっていたのだ。そのことをただ知らせたに過ぎない。

 私だけが知っている。

 私しか知りえないことをこの口から出す。

 それだけで、自分を超越した存在になる。いや、自分を超えることができない。だからこそ、これは私という存在が人間から出ていくための時間なのである。

 私は、私であり、自分であり、己であり、人間ではないのだ。

 神になってしまう。

 訪れることのない幸福を人々に見せてしまう。しかし、甘美なる不幸を押し付ける神である。そこからにじみ出るように見えた幸福こそが本物なのである。音の先の、時雨のような日々をわずかばかり充実させて、そこから少しずつ本物に気付けるような感覚を与えていく。

 私は信者を抱える。

 神になるのではなく、神になるように望まれる。

 私が立ち上がるのではない、立つように望まれる。

 私は最初から持っていたものをわずかばかり見せるばかりである。

 そこから始まる感動。感嘆。驚異。それらが渦を作り出す。巻きこまれた人々もまら渦になっていく。逃れることができないまま、多くの人間を引きずりこみ始める。逃げられる場所はない。魅了されていく過程を味わいながら、だからこそこれが魅力なのだと気づいていく。

 自分自身が、己が、僕が、俺が。

 消えていく。

 そして。

 皆は、私という神の一部になる感覚を味わう。

 私の指先に、爪に、髪の毛に、毛細血管の壁の一部に、皴になるという高貴なる体験を味わう。

 言葉が出ないという言葉の意味を心から理解する。

 同じ時代に生まれ、同じ感覚を持ち、同じ感動を抱えられる、この奇跡に感謝をする。

 止まらない涙を恥ながら、そのことを恥じるべきではないという私の言葉に感動し、余計に涙を流しては自分の命の尊さを知る。

 そうして、私はまた神らしい神になる。

 その存在をただ表にさらすのみである。分からない者たちは去っていくだろう。しかし、すぐさま寄ってきて何度も私を見つめる。

 やはり、気になる。

 常に頭の片隅に置いてしまう。

 何者なのか。

 一体、あれは何なのか。

 ものは試しだ。少しだけ近づいてみよう。

 そのうち、皆、綺麗に渦になる。

 疲れていただけだ。ただ、癒されたかっただけだ。興味本位だったのだ。

 それだけでいい。神に会い、魅了されるきっかけはそれだけで十分なのだ。

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