52話 最悪な未来を理想の未来に。

9/24  


誰かが俺を呼ぶ声がした。


「─さい、起きてください。勇気君!」


「はっ!」


亜希菜の声が耳元で響き、俺の意識は覚醒する。体を起こすとそこは5年前の自分の部屋だった。


この部屋で目を覚ましたということは…本当に時間が戻ったってことか…?


混乱している頭を整理する。その時、


ちゅっ♡


「え?」


「えへへ、おはよ」


気づくと俺は亜希菜に唇を奪われていた。そういえば…朝からキスするなんて初めてだな…


「あ、あぁ。おはよう。」


ダメだ。今、泣いちゃダメだ。俺はスマホで日付を確認する。


『9/24』


そう、美春が死んだ日に戻っていた。まだ間に合う。未来を変えられる。


「じゃあ、先に一階に行ってます。朝ご飯冷めちゃうんで早く来てくださいね?」


「ああ。分かった。」


俺は制服に着替え、一階に降りる。リビングに行くと、そこには元気な亜希菜、咲来楽、そして─今日死んでしまう美春がいた。


ああ…ダメだ。涙が溢れてくる。美春が生きていることが嬉しい。


…だからこそ、やるんだ。美春が死ななければみんな助かる。死ぬことはない。


「おはよう」


俺は朝のあいさつを3人にした。


* * *


怖いぐらいに前と同じ一日を過ごした。お昼は亜希菜に呼ばれ、同じようにを屋上に行く。


俺はこの時に寄り道しようと誘ったから、俺は何も言わなかった。

これだけで未来は変わる。そう思っていた。だが、甘かった。


それは帰りのことだ。


「そうだ、今からドンキ○ーテに行かない?」


「いいね、行こ行こ。」


「クレープ食べましょう!」


美春がそう言い出した。俺はその瞬間、絶句する。運命というのは残酷なものだ。でも、ここでみんなを止めなければ美春が死んでしまう。


「待ってくれ!みんな…」


俺がそう言うと、3人は『どうしたの?』と言った。


「今日は、このまま帰ろう。というか、お願いだ!寄り道は今日はしないでくれ!」


「…わかったわ。じゃあ次の機会に、行きましょう。」


「そうだね、勇気君がそう言ってるんだからそれに従おう。」

 

「でも、お兄ちゃん。次は絶対に行こうね。」


「あ、ああ!」


終わった、のか…?未来を変えられたのか…?


その日の夜。


ドンキ○ーテ前で車が突っ込んだ事件が発生したとニュース速報で入った。死亡者はゼロ。つまり、未来は変えられたのだ。


「よかった…」


俺はそう呟いた。心からよかったと思った。


「……………」


だが、3人が怪訝な表情で俺を見つめていた事に俺は気付かなかった。

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