サトウの黒歴史ノート
神庭
プロローグ(11月7日)
ハチミツの空き瓶を満たす白い錠剤。
ここまで溜めるのに、本当に苦労した。
先生、ぼく最近よく眠れないんですよ。
そう話したとき、主治医の目には、たしかに俺に対する疑念がこびり付いていた。
当然である。
ひと月ほど前に事故で妻子を失くしたばかりの男が、突然そんなことを言い出したのだから。
医者は、なかなか首を縦に振らなかった。
わざと目にクマを作る程度ではだめで、俺は仕事終わりにジムへ通ったり、週末を使って旅行に行ったり、ローンを組んでバイクを買ったり、ギターを始めたりした。
前向きに残りの人生を歩んでいこうとする姿勢を、アピールしたわけだ。
結果、俺の目論見は見事成功。
無事に睡眠薬を手にすることができた。
今まで死にたいなんて考えたこともなかった俺には、どの種類の薬をどれだけ使えば確実かなんてわからない。
だから、できるだけ長い間、俺はその薬を飲まずに溜め続けた。
これだけの量を一度に飲めば、二度と目覚めないだろう。
広い瓶の口に乾いた唇を押し当てる。
智子。恵太。いま、会いに行くよ。
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