第62話 第2層?


 日本国内がピラミッドの出現で大騒動のなか、善次郎と華ちゃんはバレン南ダンジョンの第2層で床の上に敷いたブルーシートに座り昼食のハンバーガーを食べていた。二人ともヘルメットと手袋は外しているが靴は履いたままで、お互いの武器である如意棒とメイスはブルーシートの上で手の届くところに置いている。当たり前なのかもしれないが、華ちゃんのライトはヘルメットをとっても華ちゃんの頭上で輝いている。



 俺はハンバーガーを手にして、コーラを飲んでいる華ちゃんに、


「俺の如意棒の先は蜘蛛の糸に焼かれて黒ずんだんだが、先だけでなく全体的に黒ずんだような気がするんだよな。それに、少し重くなったような感じもするんだよ。振り回して振り回しづらくなったわけじゃなくて、かえって振り回しやすくなった気もするし」


 コーラを飲み込んだ華ちゃんは、


「重さの違いは今のところ感じていませんが、わたしのメイスもなんだか黒ずんでません? それにこの革の鎧も」


 華ちゃんのメイスも確かに黒ずんでる。いままで気付かなかったが、鎧も確かに黒ずんでいる。


「確かに黒ずんでるな。

 モンスターの体液が幾分かかかっているから変色するのは仕方ないけど、万遍なく黒ずんでるのは少し変だ。

 俺のラノベ知識けいけんから推察すると、モンスターを斃すことによって、武器や防具が少しずつ強くなった結果、黒ずんだとみた!」


「そんなことってあるんですか?」


「もちろん確証などなにもないが、そういうふうに思っているとなんだか楽しいだろ?」


「確かにそうですね」


 華ちゃんも少しずつダンジョンクロールの醍醐味が分かってきたのかもしれない。



「ここまで同じ部屋ばかりが続いていたけれど、どこまでこの部屋は続くんだろうな?」


「もしかしたら、際限がないかもしれませんね」


 ここまで来るあいだ、扉の付いた壁に四方を囲まれた部屋を30室ほど通り過ぎている。出会ったモンスターは最初のミミックのほか、大蜘蛛、大ムカデ、大コウモリその他だった。取り立てて強敵はいなかったため、俺は如意棒、華ちゃんは魔法とメイスで簡単にそいつらを斃している。


 華ちゃんはイヤそうな顔をしていたが、何かの役に立つかもしれないと、そいつらの死骸はアイテムボックスに回収しておいた。


 モンスターの他には、ここまでくるあいだに何個か見つけた宝箱から、金貨とスキルブックを二つ、それにナイフを1本手に入れている。金貨は第1層で見つけた大型金貨ではなく、ごく普通の金貨だったので、そのまま街で使えると思う。


 スキルブックというのは、華ちゃんの鑑定で名前が『スキルブック:~』とでたのでスキルブックと言ってはいるが、本とか紙の束といったものではなく、スマホくらいの大きさの黒いツルツルの板だった。


 それで、見つけた二つのスキルブックは『スキルブック:打撃武器』と『スキルブック:盾術』だった。メイス使いの華ちゃんにちょうどいいスキルがピンポイントで手に入ったのだが、今のところどうすればスキルブックが使えるのか分からないので、アイテムボックスに仕舞ったままだ。



 華ちゃんの鑑定では、ナイフの名まえはダガーナイフだったが、俺の持っているソードブレイカーなどよりよほど切れそうなナイフだったから、ただのナイフではないのかもしれない。



 俺もペットボトルに入ったコーラを一口飲んで、アイテムボックスに入れていたスキルブックを取り出しブルーシートの上に並べて、


「これって、どうやって使うと思う?」と、華ちゃんに聞いてみた。


「食べられそうにもありませんし、ブックと言ってもどこにも字のようなものは書いていませんし」


 華ちゃんがスキルブックを一つ手にとって首をかしげている。


「ゲームだとこういったものを使うのは、コマンドとして『使う』なんだけどな」


「『使う』ですか。

 使う、使う、……」


 そう言いながら、華ちゃんは、スキルブックを振ってみたが、もちろんなにも起こらなかった。


「仕方ないから、やっぱり収納しておくか」


 スキルブックを華ちゃんから渡してもらい、もう一つのスキルブックと一緒にアイテムボックスに仕舞っておいた。




 食事も終わり、しばらく休憩して、


「そろそろ、いこうか。

 しかし、このまま進んでも下へいく階段が見つかるとは思えないな」


「やはり、しらみ潰ししかないんでしょうね」


「いったん、最初の階段の部屋に戻ってみるか。それともこのまま真っ直ぐ進むか」


「せっかくですから、真っすぐ進みましょう」


「了解」


 そういうことで俺たちは、午前中同様、午後からもまっすぐ進んでいったが、いけどもいけども、真ん中に扉の付いた壁で四方を囲まれた部屋が続いているだけだった。


 俺は先ほど如意棒で叩き落とした、大コウモリの死骸を収納して、思いついたことを華ちゃんに話した。


「華ちゃん、そういえばトーラスって知ってるかい?」


「いえ、知りません」


「ドーナツってあるだろ?」


「はい」


「それで、ドーナツが空中に浮いていて、アリがドーナツの上にくっついていたとする」


「はい」


「アリは最初右だか左に歩いていくんだが結局一周して元の場所に戻ってくる。次にアリは下に向かって歩いていくんだがそのうちドーナツを縦に一周して元の場所に戻ってるんだ。昔のゲームのマップはみんなそうだったんだがな」


「それ、わかります。

 このダンジョンも、ずーっと真っすぐ進んでいるとそのうち反対側から元の場所に出てしまう」


「階段のあった部屋に近づけば、少なくとも俺のマップでわかるだろう。実際の所どうなのかはわからないし、どこまでもこういった部屋が続いているかもしれないし」


「もし、振り出しに戻ったらどうします?」


「そうしたら、一度上に戻ってちゃんと探検してもいいかもしれないな。上の階に第3層に続く階段があるかもしれないし、この層のことを俺たちは第2層だと思っているけど、実際は第3層かもしれないしな」


「第1層からこの層まで階段が300段もあったから、本当の第2層が他にあるかも知れませんしね」


「その可能性は高そうだよな」


 この階層に下りようとしたとき、何かこの階層に凄いものが隠されているような気がしたんだがなー。あれは俺の思い過ごしだったかもしれない。

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