第41話 玉子かけご飯2、朝の団欒(だんらん)


 食事が終わったところで俺は子どもたち用に風呂の準備をしてやった。


「風呂の準備ができたぞー!」


『『はーい』』子どもたちから返事がかえってきた。


 風呂の中は今のところランプの明かりしかないが、俺は基本的に陽のあるうちに風呂に入っているので、俺の入っている時間では実際のところそこまで暗くはない。リサは夕食の後片付けが終わって風呂に入るのでその時にはかなり暗くなる。いずれ防水された照明を取り付けてもいいが優先順位はそれほど高くはない。



 子どもたち用の風呂の準備を終え、音楽でも聞こうといったん居間に戻った俺は、ソファーにふんぞり返って座り、適当な音楽CDをプレーヤーに突っ込んだ。


 目を閉じて流れる音楽を聞いていたら、


「これは、バッハの小フーガですね」


 華ちゃんが俺の隣に座っていた。


 よく聞く音楽だが名まえまでは知らなかった曲だ。


 たしか華ちゃんの第一印象は委員長だったが、やはり教養はしっかりしているようだ。


「クラッシックはお好きなんですか?」


「子どもたちに聞かせようと思って中古を買ってきたんだ。俺自身はもっと派手な方が好きだったんだが、こうやって聞いてみるといいもんだな」


「そうですね」


「そういえば、この世界にも音楽はあるんだろうが聞いたことはないな」


「そうですね。わたしも聞いたことはありません」


「機会があればそのうちみんなで聞きに行ってもいいかもな」


「はい」


 そんな話をしていたら、子どもたちが風呂から上がったようだ。


「子どもたちが風呂から上がったようだから、俺は風呂の準備をしてくる」


「岩永さん、仕事をさせるために子どもたちを買ったとか言っていたけど、それ以上に働いていませんか?」


「子どもたちの面倒を見るのも不思議と楽しいんだ。文字通り不思議なんだがな」


「岩永さん、いい人なんですね」


「そうとは限らんぞ」


「夜中わたしを襲うとか?」


「それはないから安心しろ、じゃあいってくる」



 リサと華ちゃんのために風呂の準備をした俺は、毎度のごとく大声で、


「風呂の準備ができたぞー」そう言って二人を呼んでおいて、いったん居間に戻ってプレーヤーを切り、自分の部屋に戻っていった。


 もちろんその日も金を錬成してぐっすり眠ることができた。


 

 俺の脅しが効いたのかどうかはわからないが、朝まで何事もなく熟眠できた。


 翌朝。すっきりと目覚めた俺は、リサに朝食は玉子かけご飯にするから、お湯の準備だけするように言った。俺がお湯の準備までしても良かったが、人間何もしないと居心地が悪くなるから、仕事をさせたまでだ。


 アイテムボックスからホカホカご飯を山盛りにしたボウルとスーパーで買った10個入りの玉子ケースを取り出して食堂のテーブルの真ん中に置いておいた。今回はちゃんとしゃもじ・・・・もあれば醤油の入った醤油さしもある。


 全員食堂に集まったところで、俺が人数分のお椀に顆粒式の味噌汁を入れて、華ちゃんがお湯を注いでいく。リサが茶碗にご飯を盛り、子どもたちがご飯をとみそ汁を各自のテーブルに配っていく。今回はトッピングとしてふりかけのほか梅干し、味付け海苔もある。


 しまったー。塩鮭も買っておけばよかった。ま、これだけトッピングがあれば大丈夫だろ。


 テーブルに着いたみんなの前にご飯とみそ汁と箸が揃ったところで、


「いただきます」


「「いただきます」」


 子どもたちとリサはまだ一度しか玉子かけご飯を食べていないので、みんな少し戸惑っていたが、俺と華ちゃんが普通に玉子かけご飯を作っているのをマネしながらちゃんとみんな玉子かけご飯を作ることができた。


「玉子かけご飯とふりかけは前回試したが、このスープもおいしいぞ。『味噌汁みそしる』っていうんだ。中に入っている具はワカメと油揚げだ。どっちも説明が面倒だから省略」


 子どもたちはお椀に入ったみそ汁をフーフー口で冷ましながら少しだけ口に入れ、


「ちょっと塩っ辛いけど、不思議な味。ご飯と一緒に飲むときっとおいしいよ」


 いいところに目を付けたな。その通りだ。今どき通用しない考え方かもしれないが、おかずがなくても熱々味噌汁があれば何杯でもご飯を食べられる。


「ご主人さま、この赤いのは何ですか?」と、黒髪おかっぱ頭のエヴァが俺に聞いてきた。


「梅干しって言って、ちょっと酸っぱいがそれと一緒にご飯を食べるとおいしいぞ。中に大きな種があるから気を付けろよ」


 俺がテーブルの上に出した梅干しは、ハチミツなどで甘くしたわけではない、いわゆる梅干しで、相当酸っぱいはずだ。


「自分の箸でつまむと他人の迷惑だから、台所からスプーンを持ってきてそれで掬って取り皿に入れてからだ。取り皿を使わず直接ご飯の上に乗せてもいいぞ」


 エヴァが台所からスプーンと人数分の小皿を持ってきて、スプーンで梅干しを一粒掬って小皿に移して、それから自分の箸でつまんで鼻に近づけた。箸の使い方は完ぺきとは言えないかもしれないがかなり慣れてきているのに驚いた。


「匂いは酸っぱそう」


「ちょっとだけ齧ってみろ」


「ちょっとだけ。……」前歯で少しだけ梅干しをかじって、そのとたん顔をしかめたエヴァは、いわゆる梅干し顔した。世界が違っても反応は同じなんだと妙に感心してしまった。


「慣れればどうってことないが、酸っぱいものを食べると唾液が出るだろ? おかずがないときには、それでごはんを食べるんだ」


 リサを含めて子どもたちが俺の説明に納得したのか頷いている。



 俺が玉子かけご飯を食べながら子どもたちに何かれと説明していたら、華ちゃんが俺に、


「岩永さん、ホントに子ども好きなんですね」とか言われてしまった。


 確かにいままで子どもなんぞうるさいだけだと思っていたが、こうやって一緒に暮らしているとかわいく思えてきたのも確かだ。


 そんな話をしていたら、ふと酒のことを思い出した。この世界に拉致されるまでは、毎日缶ビールを最低でも一つは飲んでいたが、拉致されて以来、酒を飲んでいなかった。この前買った缶ビールはアイテムボックスに入ったままだ。余裕がなかったんだろうな。


 ああいったものは化学反応だからコピーも簡単そうだ。


 華ちゃんに発電機の起動方法と停止方法を教えたら、スーパーに跳んでビール以外の酒を何種類か買っておこう。きんのサイコロも何個か錬成しているから換金だな。そう言えば中古屋に廃車を頼んでた。今日は盛りだくさんだ。






[あとがき]

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