第40話 三千院華3
俺は華ちゃんを連れて大型スーパーにやってきた。華ちゃんの格好は少し変だし、俺は着替えずそのまま華ちゃんを連れて転移した関係で華ちゃんと似たようなものだ。
思った通り、周囲の人は誰も俺たちのことを気に留めない。掲示板に貼られた顔写真の華ちゃんは黒ぶち眼鏡をかけていたので、今は裸眼の華ちゃんを華ちゃんだと気づく者は近親者を除いてまずいないだろう。
「俺たちの格好は、向うの世界の物だけど、誰も気にしていないだろ?」
「そ、そうみたいですね」
「自分で気にするほど誰も自分を注目しない。そういうもんだ。
俺は出口あたりで待ってるから、適当に衣料品を買ってきてくれ。
10万もあれば足りるか?」
「もちろんです」
俺は華ちゃんにお金を渡し、華ちゃんはお金をポケットに入れてエスカレーターで2階に上がっていった。
「女子の買い物はある程度時間がかかるから、華ちゃん用に歯磨きとかタオルとか買っておくか」
俺も売り場に入っていき、そういったものを買いこみ精算した。
これまでは何も考えずに同じものを必要数買っていたのだが、たいていのものは錬金工房の中でコピーできるのでどれも一種類で済ますようにした。今回華ちゃんには何も言わなかったので、たぶん下着なんかは同じものを複数買ってくるだろうがそこは仕方ないな。
使用前の物を渡してもらってコピーしてやりたいが変態と思われるだろうか? いちおう恩人の俺だからそのくらい我慢するか? などと考えていたら、思った以上に早く華ちゃんが買い物を終えて帰ってきた。
華ちゃんが持つ膨らんだビニール袋を見て俺はいいことを思いついた。
「レシートとお釣りです」
華ちゃんがお釣りとレシートを俺に渡してくれた。当然か。
「華ちゃん、その荷物をかしてくれるか? 実は、俺はたいていの物品をコピーできるんだ。その荷物もコピーすれば2倍になる。下着なんかも入っているだろうから、おっさんに渡すのは嫌かもしれないがどうだ?」
「もちろん大丈夫です。岩永さんて一体いくつ能力があるんですか?」
「数はそんなにないけどな」
手渡された荷物をいったん複製ボックスに入れて、すぐに錬金工房でコピーを作ってやり、元の荷物とコピーした荷物、二つのビニール袋を目の前に出してやった。
「な? 便利だろ?」
俺の話を本当は信じていなかったのか、華ちゃんは口をあんぐり開けて俺の方を見ている。
俺は、一度コピーした物品はそれ以降何もなくても同じものを錬成できるのだが、そこは華ちゃんに話していない。華ちゃんがどういった下着を身に着けているのか興味がないわけではないが、今回のコピーでは何も考えずにコピーしたのでどういったものが袋の中に入っていたかもわからない。
もちろん、その気になればコピーを作るだけで中身を確認することができる。いや、本人に黙ってはやらんよ。たぶん。おそらく。
「それじゃあ、帰ろうか」
華ちゃんは何も言わなくても俺の手を握ってきた。
屋敷の居間に戻って、俺は帰ったことをリサに告げた。
「ご主人さま、食事は10分後くらいでよろしいですか?」
「ああ、そうしてくれ。
華ちゃん、10分したら夕食だ。荷物を片付けたら下りてきてくれ」
「はい」
華ちゃんは荷物を持って2階にある自分の部屋にいった。
陽も沈んでだいぶ暗くなってきていたので俺は居間の照明を点けて部屋を明るくしておいた。
5分ほどで華ちゃんが戻ってきたので、
「食堂にいっていよう」
「お手伝いしなくていいんですか?」
「手伝ってくれてもいいが、子どもたちもいるし、かえって邪魔になるかもしれないから、しなくていいんじゃないか?
そうだなー、華ちゃんはこの屋敷にある電化製品の管理をお願いしようか。
リサや子どもたちに任せるのは少し心配なところもあるからな」
「分かりました」
「明日、発電機を説明するよ」
「はい」
華ちゃんを連れて食堂に入ると、子どもたちがテーブルの上に料理を並べていた。
「華ちゃんは、俺の向かいが空いているからその席だ。
そう言えばご飯もあるが、もうリサが夕食の用意をしてくれているから明日の朝だな。
明日の朝は玉子かけご飯にしよう。箸もあるからな」
「は、はい!」
食堂の
テーブルの上に料理が並べ終わったところで、食事を始めた。
「いただきます」
「「いただきます」」
やや遅れて華ちゃんが「いただきます」と言った。
食事しながら、
「今日は面倒だから、俺は風呂に入らない。
子どもたちは後片付けが終わったら風呂に入れ。その間に準備しておいてやる。
リサと華ちゃんは一緒でもいいか?」
「はい」「は、はい」
「じゃあ、二人は子どもたちの後で一緒に風呂に入りな。子どもたちが風呂から出たら準備しておくから。
そうだ、華ちゃん、今まで神殿で食事してたんだろ?」
「はい」
「こういっちゃなんだが、寄生虫に感染してる可能性もあるし、日本にいた時から何かの病気にかかっていたかもしれないから、これを飲んでおけ」
そう言って俺は華ちゃんにヒールポーションを一瓶渡してやった。
ポーション瓶を受け取った華ちゃんが、不思議そうな顔をして俺を見るので、
「だから、それはヒールポーションだ。いちおうハイヒールポーションらしい。たいていの病気はそれでなんとかなるようだぞ」
「こういった物があったんですね。初めて見ました。
私の魔術レベルは4なのでヒール系統の魔術が使えるはずなんですが、周りに誰もそういった魔術を使える人がいなくて、真似することができず使えませんでした」
「俺は魔術を今のところ使えないから、そこら辺は全くわからないが、薬なら任せてくれていいぞ」
「ということは、このポーションは岩永さんが?」
「そういうことだ」
「すごい」
「ご主人さまはすごいのです!」と、ニンマリ笑ってエヴァ。
他の子どもたちもいつものようにワイワイ騒ぎ始めたので、
「そういうことだ。早く飲んでしまえ」
手にしたポーション瓶の蓋を開けて華ちゃんがポーションを一気に飲み干した。
「どうだ?」
「なんだか、胃の辺りが温かいような。今までたまに胃が痛くなることがあったんですが、何だが急にお腹の中がスッキリしたような」
「胃潰瘍か何かだったのかもな」
「日本にいたときからストレスを感じていましたが、こっちに来てからも感じてたのでそれがいけなかったのかも知れません」
「ま、良かったじゃないか。これで安心だ」
「はい。何から何まで、ありがとうございます」
「感謝の気持ちは大切だが、そうかしこまるな」
「は、はい」
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