第32話 屋敷購入


 円盤には思わぬ落とし穴もあったが、子どもたちも満足したようだ。リサだけはまだ見ていないのはかわいそうだが、どうせ明日には新しい円盤を買ってくるので問題ない。


 円盤はいいとして発電機の方が心配だ。現状ガソリンタンクの容量の関係で10時間程度しか連続発電できなかったと思うので、せめて24時間、余裕を見て30時間は連続運転したいところだ。


 となるとガソリンタンクの容量を今の3倍、約50リットルにする必要がある。


 容量のほかに、設置場所も問題だ。現状雨曝あまざらしなのはかなりマズい。業者を呼んで小屋でも作らせるか?


 理想を言えば日本からこの世界に電気コードを引きたいところだが、さすがに無理だろう。日本の俺のアパートのコンセントにコードを繋いでそれを途中でアイテムボックスに収納したらそこで切れちゃうものな。


 業者で思い出したが電気屋さんをなんとかしてこの世界に招聘して、屋敷の中にコンセントを付けてもらってみるか。今日は開き直って人前で自動車を収納した上転移までしてしまったんだ。電気屋さんの一人や二人連れてきても問題は起きないだろう。発想は神殿の拉致召喚と同じだが、俺は連れてきた人間を必ず元に戻すわけだから天と地ほども違う。と、主張したい。


 とはいえ、そもそもこの屋敷は借家なのであまり手を加えることはできない。どれくらい手を加えてもいいのかちょっと商業ギルドにいって聞いてみるか? それとも、この屋敷を買い取るとしたらいくらなのか聞いてみてもいいかもしれない。



 今回購入した発電機はガソリンエンジンだったので、たしかにあまり大きなタンクでは危険なのだろう。ジーゼル発電機なら大きなタンクのもの売っているだろうし、外部タンクに直結しても安全な気がする。まあ、それは、だいぶ先の話だな。明日まず、商業ギルドで交渉してからだ。


 いったんエンジン発電機を停止して、ガソリンを満タンにしておいた俺は、それから風呂に入り、夕食をとった。


 もちろんその日も寝る前に金を錬成してそのままぐっすり眠った。




 翌日。日課のポーション作りを終えた俺は、借家の買取の件で商業ギルドに立ち寄ることなどすっかり忘れて、再度アパートに跳んで時間調整をし、貴金属屋に跳び金を売却した。これで今回も数百万口座に振り込まれる。来年の確定申告のためにお金は残しておかなければならない。店で聞いた税金の説明だと、わずかばかりの控除はあるものの、それを超えた分はそのほかの所得と合算されて課税されるという。


 この調子で金を売っていたら所得税最高税率を覚悟しておかなくてはならない。ということは金の値段が半分になったようなものか。しっかしこの国は税金取り過ぎじゃないか。これじゃあ江戸時代の5公5民だぜ。



 昨日俺は、金属素材用に中古車を購入したのだが、欲を言えばもっと素材が欲しい。理由は、そこらに駐車している車をいったん拝借して、錬金工房でコピーが作れそうだと思ったからだ。コピーができたら元の場所にオリジナルを戻しておけば問題ない。


 駐車中の車にはもちろんキーは付いていないだろうが、車本体を生成する以上、キー程度簡単に生成できると俺は踏んでいる。もちろんコピーした車を日本で乗り回すことはマズそうだが、ニューワールドでなら余裕で乗り回せるはずだ。ニューワールドの道路事情を考えればオフロード車が最適だ。


 廃車を纏めて10台ぐらい購入できないものか?


 昨日の中古屋にいってまた廃車を買ってくるか。


 ということで、俺はいったん銀行に跳んで100万ほど現金を下ろし、そこから中古屋の前に転移した。昨日の12万のセダンはちゃんと売れ残っていた。


 俺が中古車置き場を回っていたら、中古車屋のおっさんが俺を見つけて、


「あっ! あんた、昨日車と一緒にいなくなったんでびっくりしたんだが、どういった手品を使ったんだい?」


「人生いろいろってことです」


「分かったような分からないような。それで今日は何の用だい?」


 おっさんは俺の転移を手品か何かということで、頭の中で目の前で起こった不思議現象と折り合いをつけたようだ。これならちょっとくらい無茶なことをしても問題ないかもしれない。


「また廃車の出物があれば買いたいんだけど、あるかな?」


「手品で持っていくんだったらそれでいいけど、何台くらい欲しいんだい?」


「何台でも」


「それはまた豪気だねー。

 いまヤードに5台あるから全部持っていっていいよ」


「値段は?」


「1台10万じゃ高いか? その5台はある程度仕入れコストがかかってるんだ」


「大丈夫です。

 また何台かあれば1台10万で買うから取っておいてくれるとありがたいけどな」


「あんまり大量には置けないから10台が限度だけどそんなに買うのかい?」


「多ければ多いほどいいんで。でも限度があるからあと20台くらいにしておくか」


「あんた、東南アジアかどこかに輸出してる業者なのかい?」


「そんなんじゃないんですけどね。

 それじゃあ50万。領収書は不要だからこのまま車を貰っていきますよ」


「そうしてくれ」


 おっさんの見ている前で5台の自動車が消えてなくなった。そして俺も「それじゃあ」と、言い残して、今度はレンタルビデオ屋に跳んだ。



 レンタルビデオ屋の入り口わきに置いてあった店のカゴを持って、また中古販売コーナーに回り18禁シールの貼ってない円盤を探して適当にカゴの中に入れていった。


 これはどうだ。


『ピ〇グー』とか言うソフトがあった。クレイアニメって何のことか最初分からなかったが見ると粘土細工のペンギンたちの絵が載っていた。クレイって、そう言えば粘土のことだった。


 その後、目に付いた『ライオ〇キング』もカゴに入れてやった。


 子ども向けの基本は動物アニメだ! もともと動物は喋れないんだから、動物の動きを見てればそれだけで十分だ。


 動物ものを中心に20枚ほどカゴに入れたところで、


「音楽もいいかもしれないな」


 そう思いついて、中古クラシックCDを適当にカゴに入れていった。


 レジで精算した後、商業ギルドに顔をだすことを思い出したので、円盤をアイテムボックスに収納した後、商業ギルドの近くに転移した。



 受付で来意を告げたら、前回同様応接室に通され、前回の担当者の女性が対応してくれた。


「今お借りしている屋敷なんですが、手を加えてもいいんでしょうか?」


「間取りが変わるようですと詳しくお話を伺う必要がありますが、わたしたちギルドも間取り以外正確には記録しているわけではありませんので、退去時に明らかに家屋が傷んでなければ問題ありません」


 といかにもな答が返ってきた。


 確かに写真があるわけでも、コピー機があるわけでもない世界で、賃貸物件の内部のチェックなど容易でないことは理解できる。


「ちなみにあの屋敷を買い取ることは可能なんですか?」


「築50年を過ぎた物件は、家賃の3年分でお譲りしております。あの物件も50年は経過しておりますので、お売りできます。あの物件の家賃は金貨250枚でしたので、売却価格は金貨750枚になります」


 金貨750枚なら手元にある。


「今からでも購入できますか?」


「1年分の家賃をお支払いしていただいていますので、まだ1カ月も経っていませんから、金貨20枚だけこれまでの使用料としていただき、残りの金貨230枚はお返しする形で代金から差し引きますので、売却価格は金貨520枚となります」


「いまここでお支払いしてもいいんですよね?」


「はい?」


「今払いますので、手続きしちゃってください」


 俺は金貨500枚の山と、10枚の小山2つをテーブルの上にだしたところ、さすがにたまげていた。


「さ、さっそく書類を書いてまいります」と、言って担当の女性は部屋を出ていった。


 書類を持って帰ってきた彼女が、俺に注意事項の説明をしてくれた。全くそんなことは頭になかったので勉強になった。


「ご存知と思いますが、市内の土地の権利は使用権だけですので、土地の売買はできません。また、来年度から土地の使用料を役所に納める必要があります。えーと、あの土地の使用料は年間金貨30枚です。当ギルドでも土地使用料納付の代行を行っていますのでご利用ください。手数料は納付金額の5パーセントになります」


「それじゃあ、その納付代行もお願いしようかな? 来年の分をここで払えばいいんですよね」


「来年分に限らず10年分までお引き受けできます。10年間一括ですと1割引きとなります」


「それじゃあ、それで」


「10年分ということで金貨300枚の1割引で金貨270枚。それに手数料金貨13枚と銀貨5枚ですので、金貨283枚と銀貨5枚になります」


 言われた金額をテーブルの上にドン!


 担当の女性はその枚数を確認して、


「これが売買契約書となりますので、こちらにお名前を。

 こちらが10年分の土地使用料納付証明書になります」


 書類にサインして、証明書も手に入れて俺はギルドを後にした。


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