第21話 市場調査


 買い物から帰ったリサに歯磨きと歯ブラシを渡し、使い方を子どもたちに教わるように言って、そのあと子どもたちを含めポンプ式のシャンプーとボディーソープについて説明した。


 リサは昼食にハムと野菜とパンで簡単にサンドイッチのようなものを作ってくれた。それを紅茶で食べた。サンドイッチとすればパンがかなり硬かったし、マヨネーズも使われていないので、味もハムの塩味だけだったがそこそこおいしかった。少なくとも子どもたちは満足して食べていた。あとで、マヨネーズを買っておこう。


 野菜類は普通に台所脇の物入れの中に仕舞っておけばいいのだろうが、肉類がやや心配だ。もちろん買ってきてすぐに調理するのが基本だろうから傷んで食べられなくなるようなことはないのだろうが、少々不安でもある。かといって冷蔵庫もないしそもそも電気もない。おらこん〇村イヤだ状態だが、少しずつでもいいから生活環境を整えていきたい。


 冷蔵庫の代替ということに限定すれば、錬金工房の中で氷はいくらでも作れるし、ドライアイス並みに冷やすこともできる。なんなら、液体窒素も作れるはずだ。あれ? ということは絶対零度環境も作れるんじゃないか? できたとして俺ではその利用法を思いつけないがな。


 エンジン発電機が欲しいところだが、日本に帰っての俺の乏しい予算ではまともな発電機は買えないだろう。やはり先立つものが欲しい。


 俺の錬金工房内で発電できればありがたいのだが。発電できたとして、その電気を外に取り出せるのだろうか? 化学的発電である1次電池なら作るのは簡単だし、作った電池そのものを錬金工房から外に出すなら簡単だ。市販の電池を買ってくれば簡単にコピーもできる。そのかわり、懐中電灯とかに使うだけで大したことはできない。


 じゃあ物理的発電はどうだ? 発電機をくるくる回して、そこで生まれた電気を電気コードで外に出す? これは厳しそうだな。発電できたとして、電気コードをアイテムボックスから現実世界につなげたままにするってことは、いきなりコードの端っこが空中に現れるってことだからまず無理だな。コードが現れた瞬間切断されるのが落ちだ。そもそも、俺のアイテムボックスが具体的にどこに存在するのかもわからない。強いて言えば俺の体の中だ。アイテムボックスで作った電気を俺の体を媒介にして外に出す。鼻からコードが伸びてそこらの電気製品につながる自分を想像してしまった。



 やはり、発電機を購入するしかないだろう。結局は先立つものきんさくの話になってしまう。


 月並みではあるが、金貨を日本に持ち帰って、売るくらいしか思いつけない。しかしその金貨も地球上で発行されていない謎金貨なので金貨その物を売るとなると少し抵抗がある。


 あっ、そうだ! 金貨を錬金工房で加工して、純金にしてしまうのも手だな。疲れることを覚悟して作業すれば、原料の金貨以上の金も作れるかもしれないし。


 そういえば、元気が出たり疲れをとるポーションってないのかな? もしあるのならそれをがぶ飲みして作業すれば、金そのものの大量錬成も可能かもしれない。


 今まで、病気やケガを直すことだけを考えていたんだが、そういったポーションがあれば錬金作業を抜きにしても欲しいところだ。


 思案もほどほどに、忘れないうちに台所で作業していたリサのところにいって、まずはヒールポーションを飲ませておいた。


「これで今まで気付かなかったような病気なんかも治ったはずだ。

 どうだ?」


「少し体が軽くなったような気がしないでも?」


「今のを飲んですごく体の調子が良くなったりしたらそれまでかなり病気が進んでいたということだから、そのくらいでちょうどいいだろう」


「ありがとうございます」


「あと、リサに聞きたいことがあってきたんだが」


「何でしょうか?」


「今渡したのはヒールポーションだったが、元気の出るポーションとか疲れが取れるポーションって知らないか?」


「ご主人さまの言われるのはもしかしてスタミナポーションですか?」


「あるんだ。スタミナポーション」


「はい。ヒールポーションなどと比べればかなり簡単に手に入ります」


「どこで手に入る?」


「町の薬屋で簡単に手に入ります」


 しまったー。薬屋とは盲点だった。スタミナポーションに限らず販売店のリサーチは必要だった。ヒールポーションが簡単に錬成できたのだから、スタミナポーションも簡単に錬成できると思うが、薬屋にはスタミナポーション以外にも何か変った薬があるはずだ。


 リサに薬屋の場所を聞いたら、おそらく冒険者ギルドの近くではないかと教えられた。


 さっそく現地に出発だ!


 と、その前に、


「リサ、台所用の大き目の桶を出してくれるか」


「はい」


 リサが用意してくれた桶の中に、かなり冷たい氷の塊を下に入れその上に角氷を桶一杯になるように入れておいた。


「氷を使うならこれを適当に使ってくれ」


「こんな季節に、こんなにたくさんの氷。ありがとうございます。子どもたちに冷たいものを作ってやれます」


 ということで改めて現地に跳ぶぞ!



 やって来たのは冒険者ギルド横の小路。人がいなかったわけではないが俺が現れたことに誰も気づかなかったようだ。気付いたとしてもよほど近くでなければ思い過ごしとか錯覚と自分で納得してしまうだろうから問題はないはずだ。


 小路から冒険者ギルドの正面に回って、その界隈で店らしきものを探すと、入り口の上から突き出た棒の下にポーション瓶の形をした木の看板がぶら下がっていた。


 扉を開けて中に入ると、奥行きのある店の片側に縦長のカウンターがあり、その後ろにおばちゃんが一人立っていた。おばちゃんの後ろの壁一面が棚になっていて、その上にポーション瓶が並んでいた。


「いらっしゃい」。落ち着いた声のおばちゃんが迎えてくれた。


「スタミナポーションで一番効きがいいのを貰えるかな? 一本でいいんだけど」


「一番効きがいいのとなると、このスタミナポーションLv3だけど、ちょっと値が張るよ」


「少しくらい高くても問題ないからそれを貰うよ。いくら?」


「前は銀貨5枚だったんだけど、錬金術師ギルドが急に値上げして今はその3倍。だから、スタミナポーションのLv3なんて買う人はいなくなったわ」


「それじゃあ、金貨2枚。お釣りはいいから」


「あんた、見ない顔だけど、お大尽なんだね。仕事は商人かい?」


「いや、俺は錬金術師なんだ」


「錬金術師がなんでスタミナポーションを?」


「俺の知識は偏っててスタミナポーションを作ったことがなかったんだよ。そういうことで実物を見てみようとここに買いにきたわけ」


「そんな錬金術師は聞いたことないけれど、金貨2枚を簡単に出せるってことはそれなりの錬金術師なわけだ」


「そうかもな。

 ヒールポーションとスタミナポーションの他に変わったポーションってないかい?」


「やっぱりヒールポーションが売れ筋だけど、あとは、キュアポイズンとキュアデジーズかな」


「毒とか、病気もヒールポーションで治るんじゃないの?」


「伝説級のヒールポーションならそういうこともあるかもしれないけど、ヒールポーションじゃ毒も病気も治んないよ」


「そ、そうなんだ」


「あんた、ほんとに錬金術師なのかい?」


「いちおう」



 そんなやり取りのあと俺はその薬屋を出たのだが、ひょっとして、子どもたちやリサに飲ませた俺のちょっといい感じのヒールポーションは伝説級のポーションだった?


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