第18話 リサ


 奴隷商館でリサを購入した俺は、彼女を連れて当面必要なものを雑貨屋に買いにいくことにした。


 店も近かったし、通りには人通りも多かったので転移で近道することもなく普通に歩いて子どもたち用に雑貨を買った店にいった。


「リサ、必要なものを買ってこい。金はこれくらいで足りるだろう。荷物は俺が持っててやるから渡してくれ」


 そう言って、手荷物を受け取り金貨を2枚と銀貨を数枚渡しておいた。預かった荷物はすぐにアイテムボックスの中に収納している。


「はい」。そう言って、店に入っていったリサは10分程で荷物を抱えて店から出てきた。


「これがお釣りです」


 お釣りは銀貨8枚ほどだった。高いのか安いのか皆目見当がつかなかったが、そんなものだと思うしか無い。


「その荷物も持ってやるから俺が預かろう」


「いえ、ご主人さまに荷物を持たせるなどできません」


「別に持つわけじゃない。リサは今日から俺の身内だから教えておいてやるが、俺にはアイテムボックスというスキルがある。荷物をしまっておくことができる便利なスキルだ。重さや大きさに関係なくしまうことができて、好きなとき好きなところに取り出せる」


「そんなスキルがあるということは聞いたことはありましたが、ご主人さまがお持ちだったとは驚きです。それではお願いします」。そう言ってリサは自分の荷物を俺に渡した。


 俺からするとわざわざ手渡しされなくても勝手に収納できたのだが、エチケットとして聞いただけなので、受け取った荷物をすぐにアイテムボックスの中に収納した。


「その若さで金貨150枚を簡単に支払い、アイテムボックスというすごいスキルをお持ちのご主人さまに買われて私は幸せなのかもしれません」


 幸せなのかもしれません・・・・・・・・・という表現に多少引っかかったが、彼女は何らかの理由で借金奴隷となったわけだから、それなりの苦労があったのだろう。


「ちょっと、こっちにきてくれるか?」


 リサを連れて、人通りのない小道に入った。リサが顔を赤らめていたので俺も気づき、


「変なことをするわけじゃないから安心してくれ。

 ここから、転移術という俺のスキルを使って俺の家に一瞬で帰る。一緒に転移するため俺の手を持ってくれ」


 おずおずとリサが俺の手を握った。その指の柔らかい感触に俺も驚いてしまった。居間に直接転移しても良かったが、屋敷の全体を見せた方がいいと思い転移先には前庭を選び、二人揃って転移した。


「ここが、俺の屋敷だ」


 急に目に映るものが切り替わったことで、リサはあたりをキョロキョロ見回している。


「ご主人さまはいったい?」


「俺は俺だ。いちおう錬金術師としてポーションを作って稼いでいる」


「錬金術師さま。

 今の技はたしか転移術とおっしゃいましたが、錬金術の一種だったのですか?」


「いや、今のは転移術で錬金術とは関係ない。

 それじゃあ、中に入るか」


 リサを連れて屋敷の中に入り、玄関ホールから2階に向かって、


「おーい、みんな、居間に降りてこーい」と、子どもたちを呼んだ。


 2階からすぐに「「はーい」」と、返事といっしょにバタバタと子どもたちが階段を下りてきて、俺とリサが先に居間に入って待っていたら、間を置かず子どもたちは集合した。


「料理を中心に家事を任せようと思って、お前たちを買った奴隷商館で買ってきたリサだ」


 そう子どもたちにリサを紹介したところ、


「「リサ姉さんだ」」と、子どもたちから声が上がった。一緒の奴隷商館にいたんだから知り合いなのは当たり前だった。


「みんなもよく知っているんならいいな。仲良くやってくれ」


「「はい!」」と、子どもたちが答え、


「みんなよろしくね」と、リサが軽くあいさつした。


「家事全般をリサにみてもらうことにしているが、お前たちも空いた時間にはちゃんと手伝うように」


「「はい!」」


「じゃあ、お前たち、リサを連れて屋敷の中を案内してくれ。俺はリサの寝具類を部屋に置いておく。リサの部屋は子ども部屋の隣にするから」


「「はい!」」


 子どもたちはリサを食堂と台所に案内していった。俺は2階に上がってリサの部屋に寝具と預かっていたリサの荷物を置いてやった。


 大した仕事ではなかったが一仕事終えた俺は、長いこと風呂に入っていないことを思い出したので、風呂場にいって試しに湯舟に湯を入れてみることにした。


 日本の家庭風呂は普通湯舟に直結したガス湯沸かし器でお湯を沸かし、それが湯舟にたまるようになっているが、ここでは風呂場の隣りにあるカマドで別途湯を沸かし、それを桶で汲んで湯舟にためるようだ。もちろん沸かすべき水は井戸から汲んでこなければならない。風呂に入るにも相当な手間と薪代がかかる。


 俺の場合は錬金工房という強い味方があるので、水さえあれば苦労なくお湯を沸かすことができるはずだ。


 いったん風呂場に入った俺だが、水を確保するため裏庭の井戸に回った。


 井戸はちゃんと手押しポンプ式なので手でハンドルを上下するだけで水を汲み上げることができる。井戸の湧水量はどの程度かわからないが、俺のハンドルの上下動くらいでポンプが利かなくなるほど水位が下がることはないだろう。上から覗くことができれば直接アイテムボックスに収納できるはずだが、あいにく井戸口は分厚い木で完全に蓋されており覗くことはできなかったし、なぜか井戸の中の水面をスキルで知覚できなかった。


 ということで俺は頑張ってポンプのハンドルを動かし桶に水が一杯になるたびにその水をアイテムボックスに収納していった。都合40パイ。桶には5リットルくらい水が入ったと思うので、これで200リットルだ。結構な運動になった。そういえば、台所の水もここで汲んだ水を桶に入れて運ぶことになる。台所には水をためる樽が置いてあったので、まずはその樽に水を入れてしまおうと、俺は風呂場に行く代わりに台所に向かった。


 台所には30センチほどの台の上に結構大きな樽が2つ置いてあった。新しい水から順番に使うために2つあるのだろう。その樽にアイテムボックスから水を移したら2つ目の樽の3分の1で水がなくなってしまった。


 水運びは意外と大変だ。何か工夫したいところだ。一度きれいな湖にでもいって大量の水をアイテムボックスに収納してやろう。そうすれば、飲用以外ならそのまま使えるし、飲用なら錬金工房で純水にすることも可能だから、かなり重宝する。


 材料という意味では、海水にはナトリウムその他の元素が豊富に含まれているので大量に素材ボックスに持っておきたいのだが、今のところこの世界で海を探す余裕はない。海水を収納するのなら、日本に帰って俺の知っている海に出かけていった方がよほど簡単ではある。





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