第7話 錬金術師
新しい朝が来た。希望の朝だ!
冗談はともかく、夜の間、目が覚めることも無く、懸念された襲撃もなくぐっすり眠れた。あの連中、俺のメッセージを理解してくれたかね。
食堂に下りて、あまりおいしくない朝食をとった。いずれ食事については考えないといけないな。
「おばちゃん、向こうに大きな屋敷だか神殿があるよね」
給仕のおばちゃんに話しかけてみた。情報収集は大事だ。
「ああ、アキナ神殿のことかい。なんでも、昨日の夕方、えらい音がして神殿の一棟分の屋根が吹き飛んだそうだよ」
ニトログリセリン(仮)の威力、パないです。というか瓶を三つ分まとめて屋根の下で爆発させたんだろうな。密閉された場所で爆発すれば威力は増すからな。
「あそこはアキナ神殿っていうのか。俺の部屋からでもすごい煙が見えたよ。なにがあったのかねえ」
「私なんかじゃわからないけど、何かの神罰でもあたったのかね。いや、これは内緒だよ」
「誰にも言いやしないよ。
おばちゃん、ちょっと聞きたいんだけど」
「なんだい?」
「ここらで、青空市場って言うか、適当に個人で品物を売ったりできる場所ってあるかな?」
「青空市場なら、表に出て通りを5分ほど歩いたところに広場があるから。場所が空いてさえすれば誰でも物を売ることができるよ」
「ありがと」
俺は早々に朝メシを済ませた。次は金策だ。
部屋には何も置いてないので、鍵を返してすぐに宿を後にした。金ができたらもっとメシの旨い宿をとるぞ。
やってきました、青空市場。まだ場所は埋まっていない。これなら俺も商売人の仲間入りできる。
市場でまず目についたむしろを二枚購入した。値段は二枚で銅貨六枚。空いた場所にむしろを広げて、その上に昨日いただいた食器や燭台の銀製品を並べておいた。その後にもう一枚のむしろを敷いてその上に
値札はあえて出さない。
少しすると、身なりのややましなおっさんが声をかけて来た。
「この皿はいくらだい?」
いくらと言われても、面倒だから全部銀貨一枚にするか。どうせ頂き物だしな。
「どれでも、銀貨一枚でいいよ」
「ほんとかい。それなら、全部買いたいところだが。あれ? この女神の横顔のマーク、アキナ神殿の紋章じゃないか。こんなもの買えるわけないだろ。何を堂々と盗品を売ってるんだ!」
「えっ! 俺も知らなかったんだよ。教えてくれてありがとう」
「見回りに見つかる前にどっかに行くんだな」
そそくさとむしろの上に並べていた銀製品をまとめる俺でした。おっさんのおかげで助かった。あんがとさん。
神殿でいただいた物をそのまま売るわけにはいかないようだ。早いうちに知ってよかった。
ならば銀製品は銀貨に加工してしまうか。
貨幣の私鋳はかなりの犯罪だと思うけど、異世界ならオーケーだよな。見つからなければどうってことないし。
まずは銀製品をアイテムボックスの中の素材ボックスに移しておく。
手持ちの銀貨二枚をアイテムボックスの複製ボックスに移し、作ったコピーを複製ボックスに移してを繰り返して、倍々で銀貨をどんどん作っていった。素材ボックスの中の銀製品をわずかに残して、結局2048枚の銀貨ができ上った。
多少疲れたような気がする。意識したわけではないが、銀貨の中に混ぜ物が入っていたところを素材錬成で穴埋めしたようだ。錬金術LvMaxとんでもなく高性能だ。やる気になれば錬金術の最終奥義である純金錬成もできそうだが、さすがに何もないところから金を作るのは相当気疲れしそうなので、挑戦するとしても、元気いっぱいの時だな。
時刻は、9時の鐘がまだ鳴っていないので、9時前だ。
次の金策手段はポーションだ。ポーションは錬金術で作れる高額商品のはずだからな。ラノベ知識が元ではあるが、冒険者ギルドにいけば中の売店でポーション類を売っているはずだ。
今朝宿屋の食堂のおばちゃんに試しに聞いたところ、この世界には、文字通り冒険者ギルドがあるらしい。まずは冒険者ギルドに行ってみよう。
二枚のむしろを筒に丸めて、アイテムボックスに仕舞った俺は、道を聞きながら、冒険者ギルドを目指して歩いていたらすぐに見つかった。
そこはそれなりに大きな建物で、両開きの扉は開け放たれていた。
ホールに入ると、正面がカウンターで、係りの人が数人向こう側に座って、カウンターの前の人の対応をしている。
ホールの左手に俺の予想通り売店があった。冒険者が普段に使う消耗品などを扱っているはずなのだが、ポーションを売っているだろうか?
俺は売店までいって陳列棚を覗いてみたのだが、どこにもポーション類は見当たらなかった。
棚の掃除をしていた店のおばちゃんに、
「ポーションは売ってないの?」
「ごめんね。ポーション類は全部売り切れなの」
「明日なら売ってるかな?」
「それが入荷の予定はないのよ。うちの冒険者ギルドでは、決まった値段でポーションを仕入れて、定価で売っているのだけど、仕入れ元の錬金術師ギルドが、うちの売値よりも高い値段でポーションを買い占めてるの。そのせいで、錬金術師ギルド以外でポーションは売ってないのよ。ちなみに錬金術師ギルドでは今までの定価の三倍でポーションを売ってるわ」
「それはまた。無茶苦茶ですね」
「そうはいっても誰も止められないの。錬金術師ギルドに逆らったらいくらお金を積んでもポーションが買えなくなるから」
「ちなみに、ポーションの定価はいくらくらいですか? 俺、田舎者で、都会の物価に
「Lv1のヒールポーションで銀貨十枚、Lv2だと銀貨二十枚、金貨二枚よ。その7割が仕入れ値ね。差額の三割のうち一割がギルドの手数料。二割が税金ってとこ」
「錬金術ギルドだとその三倍ですか? 分かりました。ありがとうございます。ちなみに私はヒールポーションを今持ってるんですが、銀貨7枚で買ってくれますか?」
「品質がLv1相当ならもちろん買うわよ」
「ポーションの瓶の見本ってあります? 私の持ってるポーションの瓶と違うとマズいので」
「これが標準的なポーション瓶。今は空だけど」
ポーション瓶は100シーシーくらいの陶器の瓶で蓋の縁に蝋が付いていたので、中身がある時には蝋で封がされているのだろう。
ポーション瓶をじっくり見た俺は、錬金工房の中で一本ヒールポーションを作ってみた。ヒールポーションの作り方も材料も分からなかったが、なにせ錬金術レベルマックスの俺だ。ヒールポーションの効能だけは想像できるし、簡単にヒールポーション錬成可能に思え、その通り簡単に錬成できた。もちろん、ポーション瓶も封用の蝋も簡単だった。
ヒールポーションLv1がどの程度の物かわからないので、その辺は適当だ。ポーション瓶用の陶器の材料以外何も材料はなかったので、不足分を俺の気力だか体力で補ったはずだが、この程度では疲れを感じなかった。
「これが、ヒールポーションです。お調べください」
上着のポケットから取り出したように見せながら、ポーション瓶をアイテムボックスから取り出して、蓋を開けておばさんに渡した。
おばさんはスポイトをカウンターから持ってきて、わずかにポーション瓶からポーションを吸って、手の甲に1滴落としてそれを舌先で舐めた。
おばさんは舌を動かしながらしばらく黙っていたが、やがて、
「……?!。これは、Lv3ヒールポーションじゃないの。めったに出回らないものだけどどうしたの?」
まずい、レベルを落とすか? もう一度レベルを落としてポーションを作ってみる。
「間違えました」
おばさんから先ほど渡したポーション瓶を受け取って、
「売り物はこちらです」
そう言ってレベルを落としたポーションを渡した。
おばさんはスポイトの先をハンカチで拭いた後、同じようにポーションを1滴舐めて、
「これも相当高品質。Lv1とLv2の間くらいの効果がありそうだけど本当に売ってくれるの? あなた、高位の錬金術師なの?」
「高位かどうかはわかりませんが一応錬金術師のつもりです。ポーションについてはもちろんお売りします。これがあと九本ありますからよろしくお願いします。それと俺のことは詮索しないでくれるとありがたいです」
「わかったわ。それじゃあ、ヒールポーション十本で銀貨七十枚だから金貨七枚ね。持ってきてくれれば、何本でもヒールポーション買うわよ。できれば、Lv2以上のポーションも欲しいのだけれど」
「そのうち用意しますよ。ところで、食事のおいしい宿屋をご存じありませんか?」
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