僕に世界は救えない
@fuziokahuzi
序章 闇
暗い、とても暗い所だった。
方向感覚を失わせる暗黒は一寸先の光も存在を許さない。いや、本当は自分が何処にも存在していなかったのかもしれない。自分に何の感覚もなく、前後左右上下、どれがどうなっているのかもわからない。
腕、足、どの感覚もない。視界は闇。一体自分は、どうなっているのだろうか。意識・・・、そう、この自分という意識だけが自分がそこに存在していると認識している。
「さて、そろそろいいかな??」
その声は言った。
言った、というのが正しいのかはわからない。まるで自分が存在を認識するのを待っていたかのようだ。
「君は、自分がそこに存在していると認識していればいい。今はそれ以上君には何も求めない」
男のような声と女のような声が重なり合って聞こえる。耳の感覚もないので聞こえるというのも可笑しいが、そう認識するしかない。どこかのSFみたいに、脳内に直接話しかけているとか言ってくれると助かるのだが、残念ながらその声は何も言うことはなかった。
嫌な感覚だ。ふわふわしているようでそうではない。自分が魂みたいな存在になって、その場に浮いているように思っていれば良いだろうか。認識はしているが自分の存在が不安ではある。
何処かで、人間は他者から観測される事で自分の存在を確認できるみたいな事を聞いたがまさにその通りだと思う。誰かがいなければ自分という存在はひどく曖昧で、霞のように消えて無くなってしまいそうだ。不安。喉がカラカラで、心がざわざわする。
徐々に意識がぼやけていく。自分の存在が擦れていくのがわかった。
「・・・大丈夫。君は確かに存在している。残念ながら肉体は存在しておらず精神のみがここに存在しているのだがね」
『・・・精神のみが、存在??』
その言葉に、再度自分の意識を確認した。先程までの擦れはなくなっている。
「そう、君が思うように、魂、というのが相応しい。その方が君も納得するだろう」
その声に感情はなく、淡々と言ってみせた。自分の存在が消えないように自分がいると教えてくれた優しさがあるように思えたが、それは定かではなかった。
『どうして・・・、どうして俺はこんな事になっているんだ!? 俺の身体は・・・』
声にならない声で、精一杯叫んだ。
わかっている。口がないので叫ぶことにはならない。
しかし、先程もこの声の主は自分の考えを読んで自分を魂と例えた。ならこの思考の声も叫びとなって届くはずだ。そう信じるしかなかった。
「そんなに自分の体について執着しなくていい。君は今、魂という精神体としてここに存在している。それが事実だ。それに・・・」
その声の後、一粒の光が目の前に現れた。
目があるかどうかなどもうわからない、しかし自分の前に現れた光は脈打ち、徐々にそれを増し、巨大になっていった。
そして完全に光りに包まれる時、
「時間はたっぷりとある。少しずつ解説していこう・・・」
今、自分に何が起こっているのか。
今から、自分に何が起こるのか。
疑問、不安、焦燥がめぐる中、光に溶けていった。
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