いぬ
バブみ道日丿宮組
お題:犬の朝 制限時間:15分
いぬ
満ち足りた。
エサ箱に残されたのはアンモニア。
脱走したのだと気づいたのは、朝日が登った頃。既にもぬけの殻になった犬小屋に愛犬の姿はない。どこにいったのかと困惑する前に知り合いにメールを送る。
『うちの犬がそっちに行ったかも知れないから、見かけたら連絡をくれ』
こんなメール内容だが大体話は伝わるだろう。
「連絡したからそんなに泣くなよ」
愛犬の脱走よりも問題だったのは、泣き止まない彼女。
「だって、あのこが外に出てっちゃったんだよ!? 愛想をつかれちゃったんだよ!? 嫌だよ、わたし絶対にやだよ」
喚き声は嗚咽混じりで言葉らしい言葉を解読するのがだんだんと難しくなってきたので、家の中へと連れてく。
犬小屋からどうやって犬が逃げたかを調べるよりも今は自分たちが慌てないことが大事。
「案外夕方には帰ってくるかもしれない。エサはほしいだろうからね」
人間であろうと、犬であろうと、虫だろうとお腹は減るものだ。餌付けされたものが戻ってこないという発想は思いつかない。
「どうしてそんなに落ち着いていられるの?」
泣き止んだ彼女はそう問い詰める。
「これでも心配してるんだ。……ただその想いを強くしたところで帰ってくることはないよ」
人間であれば、どこかで新しい生活をするかもしれない。いや……他の動物もエサがとれれば元の生活に戻る必要はないか。
「ごめん。でも、できる限りのことはするよ」
だから、
「今は学校にいこう。やるべきことが僕たちにはある」
学生の本分は学業。ペットの飼育ではない。もちろん、命を粗末にすることはいけないことだ。だが、できることとできないことがあるのは必然。
今回は“できないこと”だ。
「授業に集中できないよ。わたしには無理」
「だからといって闇雲に探して見つからなかったらどうする? より一層悲壮感に包まれるだけだ。なら、捜索依頼、知人へのお願い。この手しかない」
うんと彼女は頷く。
酷な行為なのはわかってる。
放置して普段どおりの生活をするなど、おかしいと。
だが……エサ箱に尿をされて、イラツカない飼い主はいない。
多少なりとも苦労をして帰ってきてほしい。僕たちが可愛がってるのは事実。もちろん、嫌いな部分が僕たちにあっての脱走だったかもしれない。
それでも愛犬であることには変わらない。
「じゃぁ、行こうか。もしかしたら、学校にいる可能性もある。通学しつつ捜索もしよう」
これが精一杯の愛情表現。
二次被害にあわないための限られた行為だ。
結果を告げるならば、愛犬は学校から帰ってくるともう犬小屋で眠ってた。いったい何をしてたのか気にはなったが嬉しそうに笑う彼女を見たらどうでもよくなった。
平和が一番なのだから……ね。
いぬ バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます