ナント勅令再発布 (La Ré-Promulgation de l'édit de Nantes)
自分が信じているものを説明しようとする時
その者は既に 狂気に近い
何故なら「信じる」という動詞は欺瞞でしかなく
そもそも 人は自明のものしか信じない
手に持った箸が落ちるとき その重力は単に自明であり
「私はこの重力が箸を落とすと信じた」とは言わない
よって 誰かが自らの「信じ」を説明するとき
その者は自分自身に信じ込ませようとしているにすぎない
例えば ネクタイや靴紐の結び方を知っている者は
いちいち毎日 結び方を検索などしない
ネクタイや靴紐を結んで外出することに慣れた者にとって
それらの結び方は単に自明だからだ
しかし もし毎日 ネクタイの結び方を新たに調べ直し
「ひょっとすると真の Dr. Matin ユーザーにしか許されない靴紐があるのでは? 私は素人の結び方をしているために常に周囲から
その者は自らのネクタイや靴紐の結び方に自信が無いのだ
執拗な確認強迫がその証拠であり 端的な表出だが
同様に 自らの何らかに自信が無い者は 常に外部からの承認を必要とせざるを得ない
「あなたの靴紐の結び方は間違っていません そんなことを
誰かが書いたり言ったりしたものを 常に 繰り返し求めたがり
ついには他人からの意見が自分のための鎮痛剤となる
言うまでもなくそれは中毒である
君は本を読んで感銘を受けたふりをするが
その本にはあらかじめ知っていたことしか書かれていない
君は外の世界に出て社交するが
自分のネクタイや靴紐の結び方が気になりすぎて最初から他人の話なんか聞いちゃいない
そんな日々の最中で蓄積した他人からの意見 a.k.a. 鎮痛剤だけが君の不安を癒してくれる
いつのまにか君自身の内面にしか通用しない名言集が出来上がり
君は毎晩それを読み耽る 新聞で 本で タイムライン上で 無限の名言集バリエーションが形成され 日々更新される
しかし それでも君は安心して眠れない
何故なら 鎮痛剤をくれる他人そのものが君にとって最大の恐怖の対象だからだ
親や教師や友人や批評家の顔をした、知ってはいるが理解の及ばない誰かたちの存在が、けりをつけないまま引き伸ばしにした君自身の欺瞞を暴いてやまない
そうして君は明日の朝からもネクタイや靴紐を気にし続け
「その結び方は間違っていないよ」と言ってくれる人々だけを求め……の繰り返し
かくして 誰も
ナントの勅令が再発布される
君自身が王であり 臣民であるので
無闇に刺激を与える
君が恐怖する誰か 君が依存する誰か
君を加毒する誰か 君を治癒する誰か
それらは全て同じであるが
君は自身と似た他人だけをしゃぶり尽くす
薬だと思って飲んでいるものが 実は誰かの血で
汚物ですらあるかもと知りつつ君はやめられない
かくして 誰も触れない君だけの国では
完璧な信仰の自由が享受される
何も信じていないふりをしつつあらゆる動詞の主格となることを拒絶する「何か」の働きによって
次から次から次へと自分ではない自分への不信を埋め合わすために他人ではない他人からの救いを
何年か前に打った Fear Inoculum も long overdue
嗚呼、なんと凄惨な自由
好きなことを信じなよ
好きな物事を信じなよ
しかし その「信じる」を行為しているのは
決して君自身じゃないよ
好きなことを信じなよ
DJ Aoki が remix した『君が代』
しかし それでも 小僧ども
他人のせいにだけはするなよ
ドナルド・トランポがイタリア系アメリカ人のみを非課税にするためにやってくる
そしてダルトン・トランボがポーランド人と連帯するために立候補する
どちらも同じニュージャージー州で
そう、どちらも同じニュージャージー州で
ワルシャワではまだ生きてたレフ・ヴァレンサがピケットラインを防衛する
「このままではポーランドは中国またはハンガリーになってしまう」と
「中国またはハンガリー」という並置され方の物凄さに誰も突っ込まないまま
スターリニズムには戻れないが資本制にも迎合できないロシア人たちがなんとツァーリズムに復古する
中国そしてロシアという、モンゴル帝国によって甚大な心的外傷を負わされた両大陸が
どちらも自身の傷の
過去無し現在無しで未来だけを望む子どもたちが
コイン1枚すら持ち合わせないままガチャガチャを回したがる
カプセルの中から出てきたフェイスハガーがまた新たな宿主を抱きしめる
実はそのエイリアンですらアメリカとイングランドとアイルランドとスイスの合作で、コングロマリットン調査団が匙を投げた満洲国でロシア正教徒が奏でたリタニーの版権をウェイランド・ユタニ社が独占し旨味を貪る
しかしそうは
武満 straight outta
気違った奴らが刺し違えるべく
漢人と韃靼人とマジャル人とロシア人が
そこでふと気がついたみたい
「ねえ、私たち全員アジア人じゃない?」
「このまま全員で侵略したらいいんじゃない?」
「どこを?」
「西のほうを」
「君が眠っている間、聖人たちはずっと嘆き悲しんでるんだ
なぜなら 君が “死んだ” と呼ぶのは “まだ生まれてさえいない” ものだからさ」
いま俺が読んだのは何だと思う? スキャットマン・ジョンだ
スキャットマン・ジョンの、彼の一番よく知られた曲のヴァースを日本語訳して引用しただけだ
信じられないって? お前たちはそうやって、何でも先入観で決めつける
「スキャットマン・ジョンがまともな歌詞なんか書いてるわけない」って、耳すら傾けずに決めつける
彼がどれだけ偉大な歌手だったか Wikipedia レベルの知識ですら知ろうとせず、ずっとあの素晴らしい一節を眠らせたままにしている
お前の音楽はお前自身が窒息させているんだ
世界は素晴らしい音楽で満たされているから何の問題も無いんだ
そして俺は、この場所で、聖人たちを再び蘇らせようと思う
もうあの人々が嘆き悲しまずに済むように
俺の声で また新たに唄い直す
君が “死んだ” と呼ぶものを再び生まれ変わらせるために
俺はラッパーだ それくらいのことはやってやるさ
掟は言う、「この自由に従わない者は死刑に処す」と
君はなりたい自分になれるし、既になった
あとは君を脅かす他人を殺しにいくだろう
なりたかった姿を少しでも損ないかねない誰かを君は
自身の不安と同様に消滅させようとするだろう
何故なら君を脅かす誰かたちは、自由に従っていないのだから
デューク・エリントンに絞られたビリー・ストレイホーンの不思議な醸造酒
もはやイギー・ポップにたかるしかなくなったジム・ジャームッシュ
ケツの肉が付くほど軽くなる火星由来の反物質
これで戦争とはおさらばだと思っていたNASAの職員をヴェトコンがアンブッシュ
あの時のブッシュのほうがマシだったね、と評される3人目のアイリッシュ
3つ目のキュクロプス
21世紀のユリシーズ
独り暮らしのルチア・ジョイス
好きなことを信じなよ
好きな物事を信じなよ
しかし その「信じる」を行為しているのは
決して君自身じゃないよ
好きなことを信じなよ
DJ Aoki が remix した『君が代』
しかし それでも 小僧ども
他人のせいにだけはするなよ
そして俺はといえば いま4人組のバンドにいる
Roadburn も Coachella も Knebworth もウドーフジソニックパークも全部俺らの単独ライブ
Iron Butterfly の In-A-Gadda-Da-Vida だけを10時間以上やる
それ見りゃ Grateful Dead の奴らも全員失業するから直後に俺らが再雇用
21世紀に全然適応できてない20世紀のミュージシャンどもと
20世紀の知識全然無しにやってる21世紀のミュージシャンどもを
即座に廃業させて全員再雇用
そんで Smoke On The Water ってタイトルで Deep Purple とは全然関係ない演奏を9,360時間やる
ニュルンベルクのワグネリアンを全員シェーンベルクに弟子入りさせ
パリ大学のドゥルージアンを全員ニーチェの墓の前で土下座させる
神々のたそがれ またはヴェロニカ・フォスのあこがれを
北東西が消し飛んだ南ドイツで単独上演
移民だけの国で California Dreamin’
The Land of Fin で乱獲されるムーミン
南アフリカで歓迎されるデヴィッド・バーンと無視されるデーモン・アルバーン
半可通だけが
Blur のツアーは失敗したから いざ家に帰らん
Drool Britannia by Frank Zappa
「ねえパパ、わたしイラストの仕事をするようになったの。大好きなバンドの絵をツイッターに上げてたらね、その絵を気に入ってバンド公式のTシャツにしてくれたの。今でも物販のデザインを手伝ってるのよ。わたしが絵を上げるとね、あの人必ずコメントくれるの。きれいな奥さんとかわいらしい娘さんがいて、とってもすてきな人。ミュージシャンだけど、その人も絵を描くの。もしかしたらパパに似てるかもしれない。ねえパパ、わたし小さい頃パパが運転してたパジェロのバンパーをこっそり蹴ったりしたけど、今になってわかるようになったの、どれだけパパに助けられてたか。パパが絵の先生で、小さい頃から画材をたくさん買ってくれてたおかげで、わたし絵を描くのが上手になったんだもの。あのすごい数の色鉛筆セット、いまだに思い出せるわ。わたしがちゃんと結婚して家庭を持ててるのも、きっとパパとママが良い環境で育ててくれたおかげ。ねえ憶えてる? わたし小さい頃、ママのピアノのコンサートで楽譜をめくる手伝いをしてたのよ。あれって誰でもできる体験じゃないわよね。パパは絵を、ママは音楽をくれたおかげで、今のわたしがあるのかも。周りの人々から数え切れないほどの贈り物をもらってたのね。それは今も同じ。わたしの絵を気に入ってくれたあの人に恥じないくらいの絵描きにならなきゃ。ねえパパ、あの人もパパに似てるの。とっても愛妻家なのよ。家族を大事にしてるの。そんな夫婦って最高よね。いまツイッターなんかやってるとね、なんかフェミニズムとかトランスジェンダーとかいって、まともな女にさえなれない人たちが偉そうにしてるんだけど、ああいうのを見るたびに吐き気がする! わたし、ちゃんとした女性になれたことを誇りに思うわ。誰にも依存してないし夫も娘も仲良いもの。わたしと同じこと考えてる人たち、ツイッターにいっぱいいるのよ。見せてあげようか? わたしのツイッターにいっぱいお気に入り登録してるんだから。わたしと仲良くしてる人たちが普通で、あの変な人たちが異常なの。わたしは間違った人たちとは違う生き方をしてるのよ。ねえパパ、今のわたしをどう思う? わたしはパパがくれたものをすべて活かしたわ。そのおかげで今のわたしがいるの。ちゃんとしたママになれたわたしを見ていてね。そしたらいつかわたしを愛してくれるよね。ママみたいに」
好きなことを信じなよ
好きな物事を信じなよ
しかし その「信じる」を行為しているのは
決して君自身じゃないよ
好きなことを信じなよ
DJ Aoki が remix した『君が代』
しかし それでも 小僧ども
他人のせいにだけはするなよ
ママみたいに まともな女にさえなれない わたし に 吐き気がする
パパ みたいに 数え切れないほどの贈り物を くれた すてきな人 と だけ 仲良く する!
今のわたしは 間違った人たち から の すごい数の コメント に いっぱい 依存して る
わたしは わたしに 似て ない
いつ の ま に か わたし は 間違った わたし を愛して 異常 になれたわたし と 結婚 する
次のニュースです。
西暦1651年、チャールズ2世の軍をイングランド領内ウースターで撃退した功績を認められ、ロンドンにて多くの群衆から歓迎されたオリヴァー・クロムウェル氏は、副官たちに次のような発言を行なっていました、「自分が絞首台に上る時の観衆は、もっともっと多いだろう」、と。
当時の議会派および王党派の人々は、おしなべてクロムウェル氏の発言に問題性を認めておらず、なおかつ現在においても「なぜ彼があのような発言を行なったのか理解できないし、その意味も不明だ」との見解を一様に述べているとのことです。
このニュースを伝えるわたくしとしても、クロムウェル氏の発言は問題というよりは単に意味不明な内容であり、したがってこのように報道される必要性も皆無であると考えます。
それではトム、西暦1894年10月15日のパリの天気予報をどうぞ。
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