(現時点で)九十三回死んだ蛾の話

 向こう側に移行してからもう何年経った

 なんて思考自体無効 何故ならこの小童こわっぱには

 数えられる年じゃない ここでの時間は

 外れてる蝶番ちょうつがいに訊いてみな いま何時か

 なんせ両手の指の数が素数になった

 って時点で観念しとくべきだ このド軟派が

 情夫いろ気取りで来た言霊の鉄火場は

 蛾の死骸が街灯になった路地の裏さ


 さあ張った張ったちょうはんか あるいはその中間か

 飛蝗ばったばっか跳ねた結果崩れた天井が

 雨合羽あまがっぱ擦った輩の頭に降り注ぐが

 あにはからんや床のほうが先に浮かび上がった



 ここじゃ雨は縦に降らない

 5+5は10にならない

 された蛾たちの果敢はかない

 終わってから気づくんじゃ物笑い

 正真の智慧は死なない

 阿呆の愚行には果てがない

 人間だけが何も知らない

 知らないからには学ぶしかない


 天辺てんぺんに繁る撥々ぺんぺん草は煮ても焼いても喰えやせん

 フランキーがハリウッドに行って唄う「月まで飛ばしてん」

 天気予報が clowdy なネブラスカで暮らす Gretchen

 雲の誘いには乗りますまい まい まい……

 my foolish heart の乱歩 小林少年が好きなの

 でも大人が子供を好きになるのよくないことだと解ってるの

 少林寺拳法を習わそう 小林君に拳法を習わそう

 もっと強い人になって僕なしで生きていけるよう

 I’m a fool to want you まるで弱い昆虫

 蛹のままで死んでいった甲虫かぶとむしための喪服

 モスクワにはずっと前から韃靼人だったんじんが居たんだった

 なら今からでも遅くないさパンアジアのカンパニーは……


 ダメだった ダメだった そう簡単に混じらないから文化なんだ

 あいつらはこっちが思ってるほどヤワなやつらじゃなかった

 fusion 無しの confusion でチックは南北に分割され

 ハンコック旗は千切られる



 ピンク色の鱗粉

 紅茶 opium people



 何という努力!

 犬であるための馬の何という努力!

 燕であるための犬の何という努力!

 蜜蜂であるための燕の何という努力!

 馬であるための蜜蜂の何という努力!

 そして馬と無関係の娘たちが馬的うまてきでありつづけるための何という努力!


「人の顔をしているから愛することができるなあ」

 ああ君はまた行くのか偶像崇拝でくあがめの御殿に

 それはさながらカテーテルとケツアクメのおでん煮

 君自身の手で作りあげた相続人のこけし氏は

 似はじめる 似はじめる 君以外のものに似はじめる

 着はじめる 着はじめる 見たことがないコーディネイト

 そして美において足元にも及ばない君をはずかしめる

 君は君でいつか見た親の死顔に似はじめる

 豚は豚に似はじめる 人は人に似はじめる

 虫は創られた後で然る虫に似はじめる oh

 というのに運命さだめ歪めてまで最善のさがに逆らおうとする賢しら顔下げた被造物の何という努力!


 La mar oh Qu’on voit danser

 陸に生きるモノはダメね



 また死んだ? また死んだ?

 懲りない人ねあんたもまた死んだ?

 あっ人じゃなかった、けど死んだのは確か?

 粗忽を御免ね なれば其許そこもと何方どなた


 蛾だ? 蛾だ? 宿命的な蛾だ?

 雄か? 雌か? 見た感じあんた婀娜あだ

 姉? 懺悔? そうねあんた弱そうね

 焼かれ? られ? ながら続くカンツォーネ


 ならば立ち止まっている暇はない筈だ

 弟の蛾が死に続ける鉄火場に

 我等は居合わせることになったのだから

 しかと見届けることにしようではないか さあ蛾よ出発だ


「93回から先は数えていないが

 もう正直そんなことはどうでもよくなってきた

 僕はもうつらを失くして誰にも似ていない

 それでも一つ前の死顔に似続ける」


 姉よ おお聞こえるか姉よ

 弟はまたお粗相をした



 ピンク色の鱗粉

 紅茶 opium people


 コウチヤマ・ユリとマルコムXのような

 友情関係を決してお前は持ち得ない

 何故ならお前は肌の色も血の色も越える気がないから


 あとはずっとマンボ・ジャンボ


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