あくま

バブみ道日丿宮組

お題:哀れな微笑み 制限時間:15分

あくま

 飛び降りる時に見えた彼女の顔は笑ってた。

 それがどうしてなのかを考える前に僕は地面とぶつかってた。

 即死のはず、誰もがそう思ってた。

 意識を取り戻した時、僕は知らない天井を見てた。それと両親の嗚咽混じりの喜びの声も聴いた。今までろくに関わってこないのにこんな風になったら対応を変えるなんてずるいと思いながら僕も泣いた。 

 しばらくは検査のため、入院となった。

 学校はかれこれ1ヶ月いってない。

 けれど、彼女が毎日のように足を運んで話題を出す。

「……良かったね」

「でも、もう歩けないって」

 ベッドにはあるはずだった両足はもうない。

「医学の進歩もあるから大丈夫じゃない。ほら私が考えてる機械化とかあるでしょ?」

「その研究まだしてるんだ。あいかわらず神童なんだね」

「そんなことないよ。たまたまお金があって、たまたま私ができるだけ」

 そして

「たまたまあなたが空を飛んだ」

 そういって彼女はタブレットを開き、僕に見せる。

「これをあなた用にカスタマイズしたからつけてみない?」

「親が許してくれるかな?」

「大丈夫よ。おばさまたちはまた歩けるようになるのなら悪魔にでも魂を売るって」

 悪魔か。

 飛び降りるー飛び降りた時、そんな顔を見た気がする。

 誰だかわからない。

 でも、僕はそこまで悪い気分じゃなかった……ような?

「どうしたの? 怖い?」

「ううん、君が作ったものなら大丈夫。いつまでも君に車椅子を押してもらってばかりじゃダメだものね」

 にっこりと彼女は笑い、

「なら、病院の先生に話してくるね。いい対象が見つかったって」

「わかった」

 彼女は立ち上がり、病室の扉へと向かいながら口ずさむ。

「これは聴いた話なんだけど、意外に足を細切れにするのは大変なんだって。キレイに肉だけを削ぎ落として骨にするのは気の遠くなる作業」

 ふふと笑いながら肩越しに彼女が振り返り、

「でも、大事なことの前には大したことないよね。自分のことじゃないしーー」

 哀れみに近い表情を見せた。

「わからないって罪だよね。それだけで犯罪者みたい。じゃ、いってくるね」

 

 彼女が戻ってきた時、既に手術の話はやる方向で決まっており僕は長々と書かれた契約書に名前を書くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あくま バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る