第86話 あなた好みに
まぁまぁ色々あった、二学期初日の夕方。
「秀くん、次これお願いねー」
「あいよー」
俺は、唯華が取り入れてくる洗濯物をせっせと折り畳んでいた。
「わわっ、降ってきたっ」
ベランダから、唯華のちょっと焦った声。
「そっち、手伝おうかー?」
「大丈夫、これでラストだからっ」
尋ねると、今度は頼もしい言葉が返ってきた。
「ふぃー、ギリセーフ!」
ベランダから戻った唯華が、ドサッと洗濯物を置く。
「台風が来るからって、早めに取り入れ始めといて正解だったな」
「ほんそれ、神タイミングーっ」
と、俺たちは小さく笑みを交わしあった。
それから唯華も加わって、二人で黙々と洗濯物を畳んでいく。
会話がなくても気まずいなんてことは少しもなくて、むしろこの空気感が心地良……ん゛んっ!?
「ちょっ……!? これ、唯華の……!?」
バスタオルを手に取ったところ、下からブラ……らしきものが見えてしまい、慌ててもう一度バスタオルで覆い隠した。
「あっ、ごめんごめん。そっちに紛れ込んじゃってた?」
当然ではあるけれど、下着なんかのデリケートなものについては各々で管理することになっている。
今回は慌てて取り入れたもんで、混ざっちゃったんだろう。
「んふっ……じゃ、ついでに畳んどいてもらえるー?」
ん゛んっ……!? 各々で管理することになってましたよね……!?
「や、畳み方とかわからないし……」
そういう問題もないけども……!
「あっ、そっか。そりゃそうだよね」
けれど、唯華も納得してくれたようで密かにホッとする。
「えっとね、まずこうやって裏返してー」
「ん゛んっ……! 畳み方をレクチャーしてほしいという意味ではないのですが……!」
傍らの洗濯物の山からブラを抜き出し畳み始める唯華から、俺は咄嗟に目を逸らした。
「出来れば、その辺りはいつも通り自分の部屋で畳んでいただけますと……!」
「んー? 洗濯前ならともかく、洗濯後のこれなんてただの清潔な布でしょ? 秀くんだって、自分のを私に見られても恥ずかしくなくない?」
「それはまぁそうかもだけど……!」
確かに逆の立場になって考えると、俺も唯華に洗濯後の下着を畳んでもらうことにそんなに抵抗はない……けども!
えっ、これ同列に語っていいやつなの!?
男のパンツと女性のブラ、ホントに一緒!?
あと、さっきチラッと見ちゃったけど……唯華、あんなの付けてるの……!?
前に見た……トラブルによって見ることになってしまった下着よりも、なんと言うかこう……大胆過ぎはしないでしょうか……!?
「んふっ」
視界の端で、唯華がニマッと笑うのが見えた。
それから、唯華はなぜか俺の耳元に唇を寄せてきて。
「秀くん……こういうのが、好きなの?」
そっと、ささめいた。
「別に……そういうわけでは……」
一方の俺は、なんと答えるのが正解なのかわからずゴニョゴニと言葉を濁す。
「下着の好みは、ちゃーんと言ってね? 私、秀くんが好きなやつを着てあげるし……それを秀くんはいつだって、見たい時に見ていいんだからっ?」
「っ……!」
その蠱惑的な囁きに、思わずさっきの下着を身に付けた唯華の姿を想像……しかけて、慌てて頭の中から追い出す。
「だから、俺相手だからってあんまそういうこと言うなって……!」
この手の注意をするのも、何度目か。
勿論『親友』である俺なら絶対に『間違い』なんて起こさないって信頼の上のことで、それ自体は嬉しいんだけども……!
先日の新婚旅行では、少しだけ
今後、アレを超えるような『何か』でもない限り大丈夫だとは思うけど……流石にもう少し、仮にも男を相手にしているんだという警戒心を持っていただきたいと申しますか……。
……いや、こんなことを考えてる俺の方が不埒なのか?
確かに、『親友』の下着にドギマギするなんておかしい……いや、これホントに俺がおかしいの!?
「はいはーい、それじゃ残りは自分の部屋で畳むねー」
俺の葛藤を見て取ってくれたからか、唯華は自分の下着を集めて自室に向かうようだ。
ホッとしつつ、その光景を視界に入れないよう細心の注意を払う俺なのだった。
♥ ♥ ♥
ふふっ、秀くんったら……たかが下着を見ちゃっただけで、あんなに照れちゃって。
ホント、可愛いんだからーっ。
さっき言った通り、今のこれはただの布。
見られたところで、恥ずかしくなんて……恥ずかしく……恥ず……いや、なんか今になって結構恥ずかしくなってきたかも!?
だって洗濯後だろうと下着だもんね!?
しかもさっき秀くんに見せたブラ、適当に取ったけど……よく見たら、私が持ってる中で一番エッチなやつ……!
買ったはいいけど付けるタイミングもなくて、とりあえず一回洗濯だけしとこって思った日によりにもよって……!
違うの秀くん!
私、エッチな下着ばっかり持ってるエッチな女の子じゃないんだからねっ……!
……でも。
もしも秀くんが、その方が好きなんだったら……エッチな下着も付けてあげるし、エッチな女の子にだって。
なって、あげるけどねっ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます