第78話 夜這い、来ちゃった♡
風呂では
別荘に戻ってから三人で雑談していたらいつの間にか結構遅い時間になってたんで、今日はもう解散という運びとなった。
「……くぁ」
ベッドに寝転がると、途端に眠気に襲われる。
今日も朝から色々あったもんな……うん、特に今日はホント色々あった……。
──コンコンコン
もう少しで眠りに落ちようかというところで、部屋のドアがノックされた。
「はーい、どうぞー……?」
唯華から何か連絡事項でもあるのかと、俺は顔だけ少し起こしながら返事する。
「おっじゃまっしまーっす」
すると、入ってきたのは華音ちゃん。
「どうしたの……?」
「あっ、起き上がらなくていいよーっ」
身体を起こそうとしたけど、ススッと寄ってきた華音ちゃんに肩を押し留められた。
「このままの方が、都合いいから」
「……?」
意味も意図もわからず、俺は眉根を寄せる。
「お義兄さん」
なぜか、俺の上に跨ってくる華音ちゃん。
浴衣の裾がめくれて顕になった太ももを見ないよう目を逸らし、華音ちゃんの顔の方に視線を向ける……と。
なんだろう、さっきまでとちょっと雰囲気が違うような……?
「夜這い、来ちゃった♡」
「えっ……?」
冗談……ってことで、いいんだよな……? 当たり前だけど……。
「ねっ……最初に私が言ったこと、覚えてくれてる?」
「最初……って」
思い当たる印象的な言葉と言えば、これかな?
「二番目に愛してほしい、ってやつ?」
「うん」
正解だったらしく、華音ちゃんはニコリと微笑む。
「だから……愛してもらいに、来たよ」
今度も意図を測りかねて、俺は再び眉根を寄せることになった。
そんな俺の上で、華音ちゃんは浴衣の胸元を大きく開く。
そこに目をやらないよう、俺は華音ちゃんの目を真っ直ぐ見つめた。
「お姉とは『こういうの』、してないんでしょ?」
流石に、その言葉の意味がわからない程に俺も純情じゃない。
けど、確信を持った様子でそんな風に言うってことは……。
「私、知ってるよ。お義兄さんとお姉が、ホントの夫婦じゃないってこと」
「そう……なんだ」
唯華も、華音ちゃんには話してるってことだよな。
「だから、お義兄さんはお姉に手を出したりはしないんでしょ?」
「それは勿論」
だって俺たちの本当の関係は『親友』であり、男女のそれじゃないんだから。
「でも、お義兄さんもオトコなんだしさ。色々
「別に、そんなことは……」
ない、と断言出来ないのが本音ではある。
特に今日は、なんか唯華とのそういうトラブルが多かったし……。
「それ……私で、発散しちゃおっ?」
「えっ……?」
「ムラムラした時に抱いてくれるだけでいいよ? お義兄さんの立場じゃ、大っぴらに浮気なんてできないでしょ? その点でも、私なら一緒にいても不自然じゃない」
それは、つまり……。
「お姉さんの代わりに、君が犠牲になると……?」
「へ……?」
尋ねると、華音ちゃんはいかにも意外そうに目を瞬かせた。
「ふふっ……お義兄さんは、ちょっと自己評価が低すぎるよねー?」
次いで、おかしそうに破顔する。
「私がしたいから、言ってるんだよ? 他ならない、お義兄さんと」
至近距離で真っ直ぐ俺の目を見ながら……その表情が、徐々に真剣味を帯びてきた。
「私、お義兄さんのことが好きだから。あっ、勿論LIKEじゃなくてLOVEね」
出会った直後にも、そういうのを匂わせるようなことを言われた。
あの時はただの冗談だと流したけど、この目は……まさか、本気……って、ことなのか……?
「呼んでくれれば、いつでも来るよ。お義兄さんのしたいこと、なんでもしてあげる。そんな『都合の良い女』で私はいいから」
本気で、こんなことを言っていると……?
「一番は、お姉で良いから」
ゆっくりと、その顔が近づいてくる。
「二番目で良いから……お願い、私のことも愛しむぐっ」
言葉の途中で、俺はそっと華音ちゃんの唇に手の平を押し当てた。
「ごめん、ちょっとまだ状況が上手く飲み込めてないんだけど……」
華音ちゃんが本気だろうと他に意図があろうと、一つだけ言えること。
「それに応えることは、出来ないよ」
「……どうして?」
少し顔を離した華音ちゃんが、小さく首を傾ける。
「お姉とはホントの夫婦じゃないんだから、私とそうなっても問題ないでしょ?」
「唯華を裏切るような真似はしないって、自分に誓ってるんだ。たとえ夫婦って関係が、表面上だけのものだろうとね」
「そのお姉から、ちゃんと許可も取ってきてるんだけど?」
「だとしても、変わることは何もないよ」
「私のこと魅力的だって、可愛いって言ってくれたよね? それでも……ダメなの?」
「そうだね……それだけじゃ、ダメなんだと思う」
「……そっか、わかった」
コクンと一つ頷いて、華音ちゃんは俺の上からどいてベッドを降りた。
「そんじゃお義兄さん、おっやすみーっ。良い夢見ろよっ?」
ニッコリ笑ってあっさり部屋を出ていく様は、さっきまで俺に迫っていたのとはまるで別人のようだ。
パタン、と扉が閉まって……しばらく。
「……結局、何だったんだ?」
俺の呟きは、夜の静かな空気に溶けていくのみ。
勿論、答えはどこからも返ってこなかった。
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