SS23 おもしれー女は好きですか?

「九条くんってやっぱり、おもしれー女が好きなんですかー?」


「……うん、あの、今の一瞬で言いたいことが大渋滞起こしちゃってるんだけど、まず『やっぱり』って何……?」


 とある平日の昼休み。

 おにぎりをモグモグしながら何気ない調子で問いかける高橋さんに、秀くんはなんだか頭痛を覚えたみたいに軽く眉間の辺りを揉んだ。


「上流階級の方って、おもしれー女が好きじゃないですか?」


「なんでそれは当然の前提ですよねみたいな話し方なの……?」


「いやー、実は私アレなんですよ。高校に入ってからモテ期? みたいな感じで? 色んな方から、『おもしれー女』って言われるんですよー。皆さん、やっぱりおもしれー女が好きなんだなって」


 でへへ、と緩んだ笑みを浮かべる高橋さんだけども。

 それはもしかすると字面通りの意味で、オブラートに包まれた評価という可能性が……いや、これ以上はやめておこうね……。


「それで、九条くんはどうなのかなって」


 ……ていうか、その認識を踏まえた上でさっきの質問に戻ると。

 自分が秀くんの好みに合ってるかどうかの確認、ってことにならない?


「いや、俺は別に面白さは求めてないかな……」


 ふぅ……良かった、高橋さんと敵対せずに済みそう。


「じゃあ、どんな女が好きなんです?」


「女って……」


 苦笑する秀くんだけど、これは私も聴き逃がせない話題だね。


「あっ、ちなみに特になければ好きなおにぎりの具の話でも……」


「んんっ! 私も興味あるかなー、その話!」


 おにぎりの話が始まってしまう前に、素早くインターセプトしておく。


「おにぎりの話ですよね?」


「じゃない方!」


 ていうか高橋さん、やっぱりおにぎりの話がしたいだけなんじゃ……?


「うーん、強いて言うなら……」


 秀くんは顎に指を当て、思案に入った様子。

 こんな話題でもちゃんと真剣に答えようとする真摯なところが、とっても秀くんらしいと思う。


「一緒にいて楽しい人、かな?」


 そうして出てきたのは、シンプルな答え。


「ほら、やっぱりおもしれー女が好きなんじゃないですかーっ」


「だいぶニュアンスが違うんだよね……」


 笑って指差す高橋さんに対して、秀くんはまた苦笑する。


 ふーん……一緒にいて楽しい人、ね。



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



 その夜。


「秀くん秀くん、ちょっとそこに立ってみて?」


「うん……?」


 壁際を指してそう言ってくる唯華に、意味はわからなかったけどとりあえず言われたた通りに立ってみた。


「よっ、っと」


 すると唯華が俺の正面に立って俺の顔のすぐ隣、壁に手をつく。

 ……いわゆる、壁ドンってやつだろうか?


「どう?」


「どう、とは……?」


 意図をはかりかねて、問い返すことしか出来なかった。


「や、昼の話だけど。そうは言っても、秀くんもおもしれー女が好きなんじゃないかなって思って」


「だとしても、それはおもしれー女が好きな男のムーブだろ……」


「ふふっ、ホントだ」


 最初からわかってるだろうに、唯華はわざとしらいくそう言って笑う。


「でも、壁ドンって確かに結構良いかも? 秀くんを追い詰めちゃってる感じ?」


「そっち側に良さを見出すのか……」


 ……というか、さっきから思ってるんだけども。


 ちょっと、近すぎないか……!?

 身長差から唯華が手を伸ばしきる形になっており、そのせいでほぼ密着状態だった。


 お風呂上がりの唯華の香りが間近に感じられて、呼吸するのもなんか申し訳ない気分になってくる……。


「えーと、いつまでこうしてるんだ……?」


「んー、私の気が済むまで?」


「俺様系主人公みたいなこと言うじゃん……」


「ふふっ、なかなか様になってない?」


「ははっ、確かにイケメンに見えてきたわ……」


 なんて、だんだん笑えてくる。

 おもしれー女云々はともかくとして。


「唯華といると、退屈とは無縁だな」


「あれれ? それってもしかして、告白?」


「えっ……?」


 一瞬意味がわからなかったけど、昼の会話のことかと思い至る。


「や、そういうわけじゃ……!」


「えー? じゃあ私、秀くんの好みの女の子じゃないんだー? 残念だなー?」


 あからさまな誘導である。

 ここは、「ははっ、いやいや好み好み」くらいのテンション感で……。


「いや、あの、好み……なのは、確かだけど……」


 んんっ……! 動揺が残りすぎて、なんかガチ感が出ちゃってないか……!?


 うん、まぁ、しかし実際のところ、好みかどうかで言えばそりゃ……。



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



「ふふっ、なら良かった」


 はい、言わせました。

 今のは、完全に言わせました。


 だから、ちゃんと心の準備もしてました。


「それじゃ、おやすみぃ……んふっ」


 だからと言って、耐えきれるかは別問題だよねぇ……!


 あっぶない、背中向けるのがもうちょっと遅かったらこの緩みきった顔を見られるところだったよ……若干間に合ってなかったんじゃなかった説もちょっとあるけど……。


 だってただでさえ壁ドンの距離感にドキドキしてたのに、あんなに照れながらの言い方じゃ……ホントに、私のことが凄く好みみたいじゃない……!


 あぁもう、すっごくニヤニヤしちゃってる今の私はある意味ではおもしれー女になっているかもしれない……!






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ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。

書籍版、明日4/1(金)に角川スニーカー文庫より発売です。

WEB版共々、何卒よろしくお願い致します。

特設サイト:https://sneakerbunko.jp/series/danshidato/

試し読み:https://viewer-trial.bookwalker.jp/03/13/viewer.html?cid=42dbd567-3eef-41ee-bfc6-c75f83d304b7&cty=0&adpcnt=GDPL5fFh

関連情報まとめ:http://hamubane.blog.fc2.com/blog-entry-6596.html


また、明日よりWEB版の本編を再開させる予定です。

長々とSSにお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

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