SS Extra2.5 アレの行方

 ホワイトデーのお返しにと、俺が作ったケーキを二人で食べ終えて。


「そういえば、ホワイトデーで思い出したんだけどさー」


「うん?」


 何気ない調子で切り出してくる唯華に、首を傾けて先を促す。


「秀くん、媚薬って興味ある?」


「うん!?」


 引き続き何気ない調子で尋ねられ、思わず目を見開いてしまった。

 それ、ホワイトデーとどう関連してるんだ……?


「えーと……それは、心理テスト的な何か……?」


「や、普通に媚薬に興味があるかの質問」


「普通に……!?」


 今まで生きてきて、普通にそんな質問に遭遇したことなんてないんだが……!?


「実は、余ってる媚薬があるんだけど」


 そんな状況あんの……!?


「秀くん、いるかなーって」


 嘘だろ、このまま詳細な説明のないまま進行していくのか……!?

 俺が知らないだけで、世の中の皆さんは普通に媚薬についてご家庭で話してるもんなのか……!?


「別にいらないけど……」


「えっ、いらない?」


 えっ、なんでそんな意外そうな顔されんの?

 俺、普段そんな媚薬に興味ある素振り見せてた……?


「媚薬、盛らないの?」


「逆に聞くけど、それ自分に盛れって遠回しな要求なの……?」


「ふーん?」


 あれっ? なんだろう、この獲物を捕まえた肉食獣みたいな笑み。


「秀くんは、媚薬を盛る相手っていったら真っ先に私を思い浮かべるんだー?」


「……?」


 うん? 何を言ってるんだろう?


「他の人に盛っても仕方ないんだから、そりゃそうじゃない?」


「っ……!?」


 答えると、唯華に少し動揺の気配。


 ………………。

 …………。

 ……あっ!?


「や、違っ、別に今のは唯華には媚薬を盛るつもりがあるとかそういう意味じゃなくて……!」


「あはっ」


 やらかしたことに気付いて慌てて手を横に振っていると、唯華はニンマリ笑う。


「そんな焦って否定しなくても、わかってるってー」


 と、唯華は言うけれど。

 しばらく、恰好のからかいネタを提供しちまったなーと思う俺なのだった。




   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆




「……んふっ」


 顔面が崩れないよう、どうにか『イタズラっぽい笑み』の範囲でキープする。


 そっかそっかー、私以外には意味ないんだー?

 逆に言えば、私には意味があるってことで。


 それって……私のこと、ちょっとは『そういう対象』と見てくれてるってことで良いんだよねっ?




   ◆   ◆   ◆




 ちなみに、その数日後。


「一葉ちゃん、ありがとねー。ホワイトデーのお返し、協力してくれたんだって?」


『いえいえ、お礼を言われる程のことではありません。文化の継承はオタクの喜びでもありますので』


 一葉ちゃんとの通話中、この間のことを思い出してお礼を伝えた。


 後半はちょっと何を言ってるのかわからなかったけど、このレベルで引っかかってると一葉ちゃんとの会話は成り立たないからスルーしておく。


「このお返しは、媚薬でいい……」


『媚薬をいただけるのですかっ!?』


 いいかな? なんてねっ。

 って冗談めかすはずだった言葉は、だいぶ食い気味に遮られた。


「えっ、あの、一葉ちゃん、媚薬欲しいの……?」


「無論ですが?」


 さっきの興奮状態から一転、なんかめっちゃ冷静に返される。


「あぁ、うん、じゃあ、今度持ってくね?」


「ありがとうございます」


 深堀りするのもなんか怖くて、私はただ受け入れることしか出来なかった。




   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆




 媚薬……まさか、入手できる日が来ようとは……!


 推しに媚薬、推しから媚薬、読む際にも書く際にもシチュの解像度が爆上がりで捗りますね……!






―――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。

書籍版、明後日4/1(金)に角川スニーカー文庫より発売です。

WEB版共々、何卒よろしくお願い致します。

https://sneakerbunko.jp/series/danshidato/


試し読みはこちら。

Parum様の素敵なイラストもご覧いただけます。

https://viewer-trial.bookwalker.jp/03/13/viewer.html?cid=42dbd567-3eef-41ee-bfc6-c75f83d304b7&cty=0&adpcnt=GDPL5fFh

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