男子だと思っていた幼馴染との新婚生活がうまくいきすぎる件について

はむばね

第1章

第1話 親友との結婚生活

しゅうくん、コンビニ行くけど何かいるものとかある?」


 夕食後、上着を手にしながら尋ねてくる彼女……烏丸からすま唯華ゆいかは、俺の親友である。


 俺の名前が九条くじょう秀一しゅういちだから、『秀くん』。

 その呼び方は、十年前から変わらない。


「特にはないけど……」


 親友の行動だ、なんとなく読めるってもので。


「もしかして、お菓子買いに行くつもりかな?」


「うん、よくわかったねー」


 果たして、当たりだったようだ。


「それなら……」


 リビングに移動し、昼に買っておいたコンビニの袋を掲げる。


「ご所望の品は、この辺りじゃないか?」


「わっ、ホントだ!」


 中から各種お菓子を取り出すと、唯華の目が輝いた。


「しかもそれ、私が好きなやつばっかり!」


「好みが変わってないなら良かったよ」


「ふふっ、覚えててくれたんだ」


「昔はしょっちゅう食べてたし、印象に残ってたからな」


「ちゃんと全部個包装になってるやつなのも流石だね」


「あぁ……この後の戦い・・、合間合間でいちいち手を拭くのは手間だろ」


「わかってるねぇ」


 嬉しそうに笑う唯華に、俺もニッと笑ってみせる。


「冷蔵庫には炭酸も冷やしてあるぜ」


「ほぅほぅ……おっ、ホントだ! 完璧じゃん!」


 親指を立てる俺に対して、冷蔵庫の中を確認した唯華も親指を立てて返してきた。


「~♪」


 鼻歌混じりに、唯華は冷蔵庫からペットボトルを二本取り出す。

 グレープ味とオレンジ味。


「はい」


 特に確認することもなく、唯華は当然とばかりにグレープ味……昔から俺が好きな方を差し出してきた。


「サンキュ」


 なんとなく面映い気持ちで、微笑みながらそれを受け取る。


 そして、俺たちは並んでリビングのソファに腰を下ろした。


『それじゃ……』


 お互い、好戦的な笑みを交わし合い。


『勝負!』


 格ゲーを起動する。


 そして……。


「おっしゃ、もらった!」


「ふふーん、そうはいかないよ?」


「はぁ!? 今のをガード!? どんな一点読みだよ!?」


「秀くんの考えはお見通し、ってね」


「チィッ……だがその言葉、そっくりそのままお返しするぜ!」


「うっそ、今のコンボを捌き切る!?」


 お互い、たちまち熱くなっていくのだった。



   ◆   ◆   ◆



「やった、今度は私の勝ちぃ!」


「んんっ、今のは上手かったな……しかし、今ので二十五勝二十五敗……完全に互角か」


「昔と力関係は変わってないみたいだね」


「だな。キリも良いし、ちょっと休憩すっか」


「さんせー」


 唯華の了承を受け、ペットボトルの蓋を開け口をつける。

 流石にちょっとヌルくなってきてるけど、勝負に熱くなってた身体には心地よい。


「昔も、秀くんちに泊まった時とかひたすら勝負してたよねー」


 お菓子を摘みながら、唯華が懐かしげに目を細めた。


「あぁ、いつも気付いたら夜中になってて怒られたよな」


「秀くんが、勝ち越すまでやめないって言うからー」


「記憶を捏造すんな、それ言ってたのは唯華の方だぞ?」


「ふふっ、そうだっけ」


「てか、今でも投げキャラ使いなの変わんないのな。厄介だわー」


「秀くんのトリッキーなスタイルでそれ言う? 昔はまだ可愛いもんだったけど、いやらしさに磨きがかかってるってレベルじゃないよ」


「それこそ、普通に対応しといてそれ言うか?」


「まぁ、秀くんは秀くんだからね。さっきも言った通り、考えてることはなんとなくわかるから」


「お互い、な」


 そう言って、不敵に笑って見せる。


 あの頃……十年前から機体もソフトも何世代も新しくなってるし、お互いそれなりに老獪なテクも覚えた。

 けどなんていうか、根底のところはやっぱり変わらなくて。


 唯華ならここはこう来るだろうな、っていうのが直感的にわかるんだよな。


 それが、なんとなく嬉しかった。


 唯華は、見た目は凄く変わったけど……でも、やっぱり変わってないんだなって思えて。


 とはいえ。


「にしても……ちょっと、意外だったよ」


「うん? 何が?」


 俺の言葉に、唯華は小さく首を捻る。


「唯華が、今でも格ゲーやってるなんてさ。てっきり、もう興味なんてないもんかと」


「そ? あれだけ好きだったんだし、別に不思議じゃないと思うけど」


「とはいえ、十年前の話だからな。好みは変わって当然だし、特に……」


 女の子は、自然とこういうのから離れていくものかと思って……という言葉は、なんとなく飲み込んだ。


 お互いの手が触れ合う程の距離で並んで座っている現状、彼女のことをあまり異性として意識すると何か・・が変わってしまいそうだったから。


「特に、なに?」


「あぁ、いや……」


 首を傾ける唯華を相手に、言葉に詰まる。


「特に、唯華は飽きっぽいとこあっただろ? だからさ」


「あはっ、確かにね」


 どうやら、上手く誤魔化せたみたいだ。


「だけど、これは」


 ソファに立てた片膝に腕と顔を載せた唯華は、俺の方に顔を向けてはにかむ。


「ずっと、好きだよ」


 それはもちろん、ゲームのことを言っているのであって。


 だけど、真っ直ぐに見つめられながら言われると……少しだけ、勘違いしそうになってしまう。



   ◆   ◆   ◆



 俺と烏丸唯華は、親友である。


 そして、同時に。


 今は、夫婦でもあった。


 どうしてそうなったのか……話は、少し遡る。






―――――――――――――――――――――

本作を読んでいただきまして、誠にありがとうございます。

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本日中に、第4話まで投稿致します。

よろしくお付き合いいただけますと幸いです。

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