紫陽花の花がきれいだから

おちば

第1話

買い物途中の道端で紫陽花の花を1朶ずつ千切った。

青と濃い紫。

これを持って帰って生けたら

少しは気が安らぐだろうか。


途中のスーパーで買ったガーベラと、紫陽花で

花手水をしようと思った。

少し深さのある皿に水を張って、料理を盛り付けるように浮かべていく。

瑞々しい花のにおいが私をここではない何処かに連れていってくれるような気がして。

鏡を見る。いつもと表情は変わらずじめっとしている。


2人でいた部屋を引き払うことも出来ずに、もう2年が経っていて。

私1人が住んでいてもどこか落ち着かなかったけれど、そろそろこの状況にも諦めがついてきた。


私の部屋を雨宿りに使うこともないし、

それを口実に泊まることももうない。

低血圧で起きたくない朝、カップにコーヒーが注がれる音を聴くことはないし、温かい朝食を一緒に食べることもない。

天気予報を確認してはそわそわし、

窓に雨が当たるのをじっと見ていた日々はもう戻って来ない。


さっきまで暑いくらいの日差しはいつしか鳴りを潜めて、厚い雲が頭痛と耳鳴りを呼んでくる。


こんな湿っぽい日は、つい、とある誰かのことを思い出してしまう。


3時間タイマーのエアコン。

シングルベッド、汗ばんだてのひら、ぬるい指。ただ、心臓の音を聴き合うだけの関係はいつの間にかおわっていたのに。


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