初期装備イワシだけって舐めてんのか!

粋狂

第1話

 2xxx年


 いつしか人間は月への移住を成功させて、まだまだ足りないとその他の様々な惑星への移住も検討されている頃の話。


 人類は着実に技術を進歩させて机上の空論でしかなかった仮想現実を実現させて買い物、仕事、パーティー。

 生活のほとんどが仮想現実で可能になった。


 そんな時代に生まれたのが僕。

 加藤翔太かとうしょうた

 高校三年生。

 今までしてこなかった仮想現実でのゲームをプレイする事になった。

 理由は置いといて、今から始めるゲームはDifferent world世界 virtual仮想 reality現実という、いかにも自分がVRMMOの代表作だ! と言いたげな名前をしているが、あながちこれも間違いじゃない。

 それもこれもどこかの誰かが「仮想現実出来たならインターネット上に異世界作れるんじゃね?」と言い出したことがきっかけらしい。

 なんとも荒唐無稽な話だと誰もが思ったものだが、実際に出来てしまったのだからおかしな話だ。

 テレビで自信満々にデタラメ言うな! と批判していた人たちにとっては笑えない話だが。


 メディアによると世界中の国々のゲーム制作や仮想現実を作るためのプログラムを書いていた人やらを集めたプロジェクトだったらしい。

 「だった」と言うのも誰も信じていなかったから、誰も興味を向けなかったプロジェクトがいつの間にか成功していたからだ。

 「例え成功の見込みがなくてもどうして世界規模のプロジェクトを誰も取り上げないのか」だったり「仮想現実が出来るなら異世界云々の発言をした人物がリーダーらしい。だとしたらなぜ名前が出ていないのか」とかの議論をされているのがいつかのお昼時のテレビで見た光景だった。

 長々と話したが要は謎だ。

 どうやって作ったのかは本人たちにしかわからないし、その本人たちもゲームを発売してから雲隠れしたかのように表舞台からいなくなった。


 ちなみに、なぜ僕がよくわからない技術で出来たゲームをプレイするという。

 そんな未確認生物と接触するような危険な真似をするかというと。

 既にゲームを始めた人がいて安全が保証されているのもあるが最大の理由は

――そこに異世界があるからだ。


 ………言い方が悪いか。

 山があるからと山に登る登山家の言葉も他者から見るとおそらく理解不能だ。

 もっと分かりやすく言うなら、ロマンだ。

 ゲームのプレイ方法からして撮影ができないゲームであるため、実際にプレイした人の話を聞くしかないが、「異世界に召喚された」とか「あれはもう1つの現実だ」ついでに「ドラゴンがいた」、「魔法が使えた」などと言われて確かめなければ、ずっと昔から男子たちに夢を与え続けている○ラゴンクエストに申し訳が立たないだろう。

 ここでやらなきゃ男が廃るってもんだ。


 とは言ってもゲームが発売されてから早3年。

『ゲーム内では人間の使っていない残りの90%の脳を活性化させてその中にある時間認識能力を〜』といったとりあえず、すごい技術で加速がされているので…………向こうの暦がわからない為何年とははっきり言えないが3倍の差があるらしい。

 現実世界と暦が同じならすでに9年が経過していることになる。

 


 と向こうに何年いれば精神的に成人になるかと皮算用をしているうちにロードが終わった。

 いまの時代のゲームにはほぼロードでの待ち時間は存在しないので新鮮な感覚だ。

 このワクワクを味わえたなら文句も出なかっただろう。


『あなたの名前を教えてください』


 名前は[ガラム]だ。

 ゲームに使う名前はこれと決めている。


『あなたのスキルを選んで下さい。

 200/200 P

 《戦闘》

 《生産》

 《魔法》

 《その他》』



 スキルを選べるらしい。

 ここで余談だが。

 なんとこのゲーム。

 お金さえかければ体をコールドスリープさせて食事もトイレに行く必要もないゲーマーの夢を体現したサービスがある。

 とは言ってもきっとかかるお金は莫大だろうことは想像に容易い。

 金だけはある世捨て人だったり、どっかの隠居した元お偉いさんとかが使うんだろう。


 大きな声では言えないが僕もそのサービスを利用する。

 ちなみにお金は親が出してくれるそうで。

 正直僕もよく分かってない。 

 よく分からないけど、ゲームは楽しんだもの勝ちって知り合いのゲーム好きが言ってた。

 ということで全力で楽しもうか。



 そんなことより、ゲーム世界に僕が24時間いるとすれば人生を左右するかもしれないのがスキルだ。

 始める前に調べて決めていた構成がある。

 

 まず大前提として、基本ソロプレイになる。


 ………友達が少ないことは否定しないが、そういう問題ではなくて、リスポーン地点は選べるけど、その前に大陸はランダムらしい。

 選ばれた大陸の中で何処に行くかを決められる感じだな。

 だからどうしても友達同士でやるには、大陸を越える手段が必要で、それはとてもとても面倒だ。

 え? その場で友達作ればいいじゃんって? 僕は不確定要素は嫌いだからね。うん。


 そしてこのゲームにはパーティ制度が存在する。

 経験値が分配されたり、パーティ内専用で使えるスキルが有ったり。

 当たり前かもしれないが、同じレベル帯同士だとソロよりパーティの方が断然強い。

 だからどうにかソロプレイでパーティを作りたいが、そうすると必然的に取りたいスキルは決まってくる。


 《召喚術》 50P

 《テイム》 40P

 《愛嬌》  20P

 《カリスマ》30P



 そう。これだ。

 ………言い訳をさせてもらうと、人に好かれるっていうのは生来の性質だと考えていて。もちろん現実世界からそういった部分があれば、このようなスキルは必要ないとは考えなくもないんだけども。現実世界では多くの学友に恵まれなかったというか、友好を司る女神に微笑まれることが無かったというか。いや、分かっている。分かっているんだ。これは僕がこれからのゲーム人生を左右する大きな決断だって言うことには。だけど高校三年生とはいえまだまだ現役の日本男児なものだから、ゲームの中だけでもモテ期が来ないかなとか。そういった願望が出てきてしまいまして、それでもフェロモンが出るようなスキルとか美形になるようなスキルはなかったものだからこれを取ったと言いますか。それと、これからはポイントを使ってスキルを選択して所得できる機会がこれから無いという情報を手に入れたもので、そうするとこれからこのスキルを取ることは出来ないのかなと思った次第でありまして。あとから学べるような可能性がある魔法よりもいい感じに常時発動してくれるスキルが必要だと考えまして。そう思い至ったときに先程の願望が出て来ただけでですね。これは決して遊び半分ではなく。自分自身でこれからコミュニケーション能力に苦労するかもしれないと嫌な想像が浮かんできてそれを少しでも払拭出来ないものかと………………………………………………………………………………………………………………


 

 ……うん、次に行こうか。


 140も使ったから残りの60をどうするかだけど。

 これはお得な感じのスキルと必要になるだろうスキルを揃えておこう。


 《魔法の才能》20

 《魔力量増大》 5

 《適応》    5

 《共感覚》  10

 《テレパシー》10

 《身体操作》 10



 とてもいい感じにコスパが良さそうなのを見つけた。

 《魔法の才能》と《適応》はリスポーン地点によってスキルを得られるものみたいだ。

 スキルを得られるパックみたいな? それもこれも街の中にリスポーンするなら必要ない物みたい。

 《適応》は高地に行けば酸素関係のスキルがもらえたりするらしいから人が生きることが厳しい場所では必須のスキルだ。

 《魔法の才能》はもともと一つだけでも50ポイント消費する《火魔法》《水魔法》《風魔法》《土魔法》《光魔法》《闇魔法》のうちから必要な魔法を一つ取るスキルだ。

 森の中だと《火魔法》は取らないし、水の補給が難しいなら《水魔法》を取る。

 みたいな感じで一番効果がある魔法を自動で取ってくれるらしい。

 掲示板にはとりあえず《魔法の才能》と《適応》は取った方がいいと書いてあった。

 消費ポイント5とかなり低い理由は多分だけど《適応》は適応する必要が無ければスキルを取らないから、《魔力量増大》はそれほど効果が無いか、無くても頑張れば同じ効果を得られるか。

 とかが理由かも。

 あとから頑張れば魔法が取れるのは聞いたから多分間違いじゃない。

 どれくらい頑張ればいいのかは知らないけど。


 ちなみに《共感覚》は使役した生物の感覚を共有。

 《テレパシー》はそのままの意味でコミュニケーションを取れるスキルだ。

 《テイム》か《召喚術》を持っていないと意味がないスキルだからか、もともと40だったのが《テイム》で半減の《召喚術》でまた半減して、10だけになった。

 《身体操作》はどうしても取りたかったスキルで、ほんのちょっと運動神経が良くなるのと、身体を使うスキルを取れる可能性を増やす効果があるらしい。

 消費ポイントからしてお得だし、これから剣術とかが取れるかもしれないなら諦めて魔法系を強化するよりも、いいかも知れないと思ったからだ。

 ……体育は苦手だったから。


 ともあれ、これで200ちょうどのスキルが取れたし次に行こうか。






『選ばれたスキルによる特殊プログラムが発動しました。

 《召喚術》《テイム》どちらか、もしくは両方所得している為、ユニークモンスターのルーレットを行います。』


 これはもともとあることは知ってた。

 初期装備をランダムで決定するシステムらしい。

 多分魔剣士みたいなスキルなら最初の魔剣の効果のルーレットがあったりするんじゃないかな?

 《召喚術》と《テイム》には他のスキルと違って専用の装備がないからモンスターがルーレットになるって掲示板で言ってた。

 あ、掲示板も仮想現実世界からしかログイン出来ないのと、仮想現実と現実世界からのどちらからもログイン出来る掲示板があるけど、僕がやってたのは後者のほうね。


『ルーレットを始めます』


 目の前でくるくるとルーレットが回り出した。

 多分一番上にある棒が重なった部分が僕のモンスターになるんだろう。

 色が緑、空色、水色、茶色……などなど色がたくさんある。

 空色は翔ぶ動物、緑は森の中の動植物、水色は海の中生き物だったりするんだろうか。


『ボタンを押してルーレットを止めてください』


 ここで出るモンスターは必ずユニークモンスターらしい。

 唯一のモンスターで、ユニークモンスターだ。

 他の職業の武器もモンスターも、ずっと使えるくらいの高性能なものらしい。

 ただ、上位互換はそこら中にあるし、人と似たようなものが出てくることもあるので慢心は出来ない。

 ちなみに、同じモンスターを元にした別のタイプのユニークモンスターが2体同時に存在することを確認した人がいるので、ユニークモンスターは珍しいモンスターではなく文字通りの唯一無二無二のモンスターだと言われている。

 色違いの○カチュウは珍しいだけだけど○イコウや○ンテイは一体だけ。

 それと同じように変異種なる色違いの立ち位置の普通より強いバージョンもあるが、ユニークモンスターは伝説や幻枠。

 そしてユニークモンスターは希少性だけでなく、能力面もかなり高くて、固有の能力や伝説並みのステータスがあったりするということだ。

 僕だけのモンスター…………ワクワクするね。


 胸に期待を抱いて、ポチッとな。



 ぐるぐるとしばらく回ったあと水色の場所に止まった。

 十中八九海の生き物だろう。

 あ、そういえば《魔法の才能》と《適応》をおすすめしていた人は僕と同じテイマーを選んで、海の中でしか生きられないモンスターを引いたから苦労したって言ってたな。

 なるほど僕みたいなのは2つが必要だったみたいだ。

 もし出会ったら感謝しておこう。


『決定しました』


 おお! 


『あなたのユニークモンスターはイワシです』


 おお?

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