第24話 お出迎え準備


 雨季も終わり、夏季初旬。

 私がこの村に来て四ヶ月目となる。

 ポーションを作り、ルシアスしんの使いに渡すと新しい箱と空の薬瓶をもらえるようになった。

 そろそろ使いではなく、本人が村に来る頃合い。

 きっと新しい形に進化したこの村を、気に入ってもらえることだろう。

 それに、カーロだ。

 この一ヶ月ですごくお喋りが上手になった。


「ルシアス、来る。肉」

「うんうん、今度はしっかり準備してルシアスさんに新鮮なお肉を食べさせてあげようね」

「ロープとナイフ、万が一遭難した時用の水と携帯食料もばっちりだ」


 ロープは新品だが、ナイフは鞘を失くしたダルオブさんのお古をもらった。

 それを木の皮でぐるぐるに巻いて持ち歩いている。

 加えて携帯食料と竹の水筒で水までも。

 カーロ、とても頼もしくなったな……。


「行く!」

「「おー!」」


 タルトの号令とともに、私たちは森に入る。

 今日目指すのは前回溺れた川の向こう側。

 また溺れると危ないので、崖の国に少し近い方角にある橋で渡ることにした。

 川幅の狭い場所が一箇所だけあるんだって。

 ただ、村のみんなも「最近行ってないから腐り落ちてるかもしれない。無理はしないように」とのことだ。

 また溺れるのは嫌なので無理はしませーん。

 そして、ついでにその橋の様子も確認してきてほしいと言われた。

 必要なら直そう、ということのようだ。

 滅多に行く機会はないけれど、橋の向こう側に[ルナの木]というとても栄養価が高く、美味しい果実が実る木があるんだって。

 秋になるとそれを獲りに、各村が凌ぎを削る。早い者勝ちというやつだ。

 雨季で橋が痛み、知らずに渡って途中で踏み外し、川に落ちる人が定期的に現れるから夏季初旬にチェックしておこうと思っていたらしい。

 新たな任務も加わり、意気揚々と森を進む。

 途中で見つけた薬草や植物、見たこともない虫、きのこ、木の実、魔獣のフンなど薬作りに使えるもの、使えそうなものは手当たり次第に回収。

 最近はタルトとカーロも「これは? これは?」と素材集めを手伝ってくれるから、すぐ集まる。

 そういえば、昔[ルナの木の実]をポーションに混ぜて使った時に[肺炎特効薬]というのができた。

 肺炎は風邪が重篤化すると発症する病。呼吸困難になり、死ぬことも多い。

 ルナの木の実、実った薬の材料としてひとつもらっておこう。


「あった、橋」

「えっ」

「うわ、丸太を架けただけか……」


 そりゃ腐るわ。川に半分どっぷり浸かってる……。

 幅は狭いけど水嵩は高い場所なのね。


『おや、珍しいところで会ったな』

「え……か、風聖獣様!?」


 タルトを先頭に橋を突いて安全性を確認していたら、声がした。

 ぽてんちょぽてんちょ、短い脚で現れたのは白くて大きな毛玉。

 毛先がほんのり緑色の、風聖獣様。

 普通に森歩いてんの? うそぉ。


「風聖獣様、歩いて平気か?」

『うむ、ミーアの薬を得てから散歩できるようになったのだ。あまり長距離は無理だがな、起きていられる間はできるだけ動いて体力回復に努めている』


 タルトの質問にもニコニコご機嫌に答える風聖獣様。

 私の薬——って、あの毒かぁ。

 聖獣様には良薬らしくて本当に不思議。


『川を渡るのか?』

「はい。村に行商人が来るので、お迎えの準備をしています」

「美味しい魔獣肉を食べさせてあげようと思っています」


 私とカーロが説明すると、風聖獣様は『そうか、そうか』と頷く。

 そして膝を折ると『では川向こうまで運んでやろうな。乗りなさい』と腰を落とす。


「ええ!? 風聖獣に乗るなんて!」

『構わぬ構わぬ。このくらいはお安い御用だ』

 思わず顔を見合わせる。これ、断るの逆に失礼じゃない?

「乗る!」


 そしてタルトはなにも考えてない。

 嬉しそうに風聖獣の背中に乗る。

 嬉しそうな風聖獣様を見ると、私たちも乗らないとだめそう。


「失礼します」


 意を決して、タルトの後ろに乗る。

 私の後ろにカーロが乗る。

 あああ、この世界の四神たる風聖獣様の背中に乗る日が来るなんて。

 そしてものすごく太ももあったかくてもふもふに包まれて気持ちいい〜!


「ミーア小さい。俺、腰、掴まれ」

「あ、ありがとう」


 私の体が小さくて、バランスが悪いからよく転ぶのを知っているタルト。

 自分の腰に掴まるようにと言ってくれる。

 お言葉に甘えると、長い尻尾がうにょん、と私の腰に巻きつく。

 落っこちないように固定してくれてるらしい。

 優しいなぁ。


「ミーアばっかりいいな……タルトの尻尾……」

「……」


 と、後ろでカーロが呟いてるけど聞かなかったことにしよう。


『さて、魔獣の肉だったな。どんな魔獣がよいのだ?』


 川をあっさりと飛び越え、森の小道をぽてぽて歩く風聖獣様。

 こうしているとお体が悪いようには見えない。

 それとも、そのくらい私の作った毒……もとい薬はよく効いたということなのだろうか。

 だとしたら、お断りせずに真剣に作り直すべき?

 けどなぁ、[マナの花]は年に一度しか咲かない花だ。あの時見つけたのはたまたまだから、もし聖獣様の薬を作るとしても、新しい[マナの花]を見つけなければならない。

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