第10話 カーロとタルトの秘密


 ……言われてみるとこのままでは生活しづらいかも?

 いけない、私ってば……!

 大人の時からあまりに服に興味がなくて——き、着られればボロ布でもいいとか思ってたから……今まで気づかなかった!


「ほ、ほ、ほしい、で、す」

「だよね! そうだと思った! ダウおばさんやタルトには、ちょっと相談しづらいよね!」

「うぐ」


 ダウおばさんは首にバンダナを巻いたオシャレはしているけれど、基本あの素晴らしい羽毛だ……服は着ていない。

 タルトとカーロは男の子。

 う、うん、そういうことにしておこう。


「……ルシアスさんは、えっと、獣人、なんですか?」

「そう。今は人型。獣型の方は大きくなってしまうから、見せられないけど」

「そう、ですよね」


 この村の半獣人と違い、獣人は人間の姿——人型と、完全なる獣の姿——獣型の二つの姿を持つ。

 それを使い分けてこその『獣人』。

 人間は一つの姿しか持たず、獣人のような強靭な力もない。

 だから火聖獣様は人間に火を与え、知識を追い求めよと導いた。

 そして獣人を庇護した土聖獣様と水聖獣様に、その信仰心のバランスから仲違いし——聖獣大戦が起こる。

 風聖獣様は三体の戦いを止めようとしたが、戦いの巻き添えで大怪我を負い、谷に沈んだ。

 ……聖殿で学ぶ、神話の一説である。

 そう学んできたので、本物の獣人には少し恐怖心を覚えた。

 二足歩行の獣の姿や、タルトのように人間の姿が強いけどそこに獣の耳や尾がある半獣人はあまり怖いと思わないのに。不思議。

 それにしても私が人間ってなんでわかったんだろう?


「あ、人間はね、獣臭がしないからすぐわかるんだよ」

「あ、な、なるほどー」


 獣臭……。


「これとこれとこれと……」

「?」


 立ち上がって馬車に戻ると、中からどんどん布を重ねていくルシアスさん。

 白いものは肌着。

 色のついたものは服みたいだけど……ちょっと多すぎないかな!?


「あ、このままじゃ収納に困るよね。収納箱もつけよう」

「え、あ、あの、そ、そんなにたくさん……」

「いいのいいの。その代わり、タルトとカーロをよろしくね」

「……?」


 と、言って大きな長方形の箱にそれらを入れてしまう。

 いや、ほんとに大きい箱。

 入ろうと思えばタルトと私が両方隠れられそうなくらい大きい。

 しかもそれを、ダウおばさんの家まで運んでくれるし。

 親切な人だなー、と思ったら、ルシアスさんの目的は別にあった模様。


「カーロ、体調はどう?」


 家に着くなり、ダイニングで遅めの朝食を摂っていたカーロに話しかけるルシアスさん。

 カーロはルシアスさんを一瞥したあと、暗い表情になって食事を再開する。

 む、無視はよくないんではないかなぁ?


「ミーアの部屋は、こっち?」

「は、はい」


 勝って知ったる家の中、という感じなので、ルシアスさんはこの家に入ったことがあるのだろう。

 ダイニングから出て、右の通路にある蓋部屋のうち奥の部屋——私が寝ている部屋へと運んでくれた。

 それに、タルトとカーロのことも、特別気にかけてるように見える。


「じゃあね、また来るよ」

「……」


 私の部屋をくわるりと見回して「やっぱりまだ物がないね」と言ったあと、ダイニングのカーロに声をかけて家を出たルシアスさん。

 お礼を言うためにルシアスさんについて家を出ると、不思議そうに見下ろされた。


「あれ、服の確認しないのかな?」

「!」


 そ、そうか、このくらいの年頃の女の子は服に興味が移るものなのか!

 いや、私は元々あまり服に興味がないものでして!? じゃ、なくて!


「あ、ま、まずは、その、服、たくさんありがとうって言わなきゃと思って」

「え! ……そうか。偉いな、ミーアは」


 すごく驚かれて、しゃがんで頭を撫で撫でされる。

 あれ、気持ちいい……?

 撫で撫で上手いな、この人。


「……そうか、君はとても利口なんだな」

「?」


 私の頭を撫でながら、ルシアスさんは呟いた。

 それから立ち上がり、荷馬車に戻るけどどうする、と聞かれる。

 うーん、もらった服があまり気にならない。それに私は大人の時とは違う、第二の人生についてまだ目標が定まっていない。

 前と同じく上級ポーションの上——最上級ポーションを追い求めたい気持ちはある。

 だって私の、人生の目標——夢だったんだもの。

 でもそれを追い求めれば同じことの繰り返しになりそう。

 薬作りは好きだし、風聖獣様のご希望にも応えたいけれど……どうしたものだろう。

 悩んでたら、ルシアスさんの隣を歩いていた。

 私の様子に微笑んだルシアスさんは、歩調を合わせながら——多分私にしか聞こえない声量でとんでもないことを告げる。


「タルトは僕の妹がある事件に巻き込まれた時、助けてくれた人の息子なんだ。だから僕はこの村によく来てる」

「!」

「カーロは……タルトの両親が亡くなった時に側にいたんだよ。それが原因で声が出なくなったんだ。……あの時、僕がもっと早く駆けつけていれば……」


 いや、と首を横に振るルシアスさん。初対面の私になぜそんなことを……。


「ミーアには難しかったかな。ごめんね、変なことを言って」

「う、ううん。大丈夫です」

「……いや、だからまあ、つまり……僕が言いたいのは……二人と仲良くしてほしい、ということなんだ。特にカーロは……ちょっと事情がね。君も、なにかあってここにいるのだろうけど」

「…………」

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