花よりもなお君は美しき

七瀬 橙

第1話 涙のわけ

 いつものように、耀あかる和久かずひさは庭にいた。次第に暖かくなってきた風が心地よい。

 すると、大粒の雫が彼女の頬に降ってきた。

「あ、雨だわ」

 空を仰いだ彼女を、和久は強く抱きしめた。

「和久、どうしたの?」

 和久は、彼女の目が見えなくてよかったと生まれて初めて思った。

「和久……?」

 困惑している彼女を、もう一度抱きしめる。明日、自分が死ぬことを知っていた。

「雨だ。内に入ろう」

 その言葉に、耀は屈託なくうなずいた。和久は泣いていた。

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