威圧強すぎ

音を立てることなく、地面に着陸した。

着陸した瞬間、【透明化】と【消音】を使って物陰へさっと身を潜める。


見回す。

特に気にすることはない。

リズミカルに滴る水の音だけが空間を支配している。


『ウチの弟子はね、めっちゃ可愛ええで』


ふと、リナの言葉が俺の頭をよぎる。


『目の色は茶色で、髪の色は黒。胸のないぺちゃんこちゃんやけど、大人しい性格をしてて大人と話してるみたいやな。あ、それに犬耳がついとる』


つまり、その見た目をしている人物を探せってことなのだろ。

もう一度周りを見回す。


やはり何も見えない。

とりあえず進もうか。

決めると、俺は歩き出す。

リナんところみたいに長い階段を下りないといけないみたい。

周りが暗い。

しかし人の気配がまだはっきりと感じられる。


この照明レベルだと目に頼れないよな。

そのために俺は感覚を研ぎ澄まして、感じられる魔力を追求しながら進むことにした。


そして下りること1分。

やがて本館であろうところに入った。


場所を一言で表すと、【デカい】。


天井も高く、どこにも窓がない。

まあ、そりゃそうだけど。

地下だもんね。


でもここって換気がないよね。

どうやって息ができるんだ?


なにか魔法装置でも使っているだろうか。

それに違いないだろ。


っていうかそもそも、ここを知っている人の数が少ないよな?


幸いなことに、本館にも遮蔽物が多い。

また物陰に隠れると、感じ取れる魔力を辿る。


すると5分。

受付みたいな空間についたのだ。

物陰に隠れているので、俺の存在にまだ気づいていない。


もし俺が暗殺者だったらお前はすでに死んでいる。


さて、どうしたもんかな。

間違いなく、ここにいる奴隷が数多くて、リナの弟子を探すのも時間がかかるに違いない。


見回すと、小さな空間にいることに気づいた。


男の後ろ壁には扉があり、その扉の裏に魔力を感じられる。

おそらく扉の裏に奴隷がいるだろ?


そして、感じている魔法からして、何人も。


ここで、【暗殺者の日記】から取得した魔法を使ってみるか。


どれがいいかな。


俺は魔法画面を開いた。


どうやら魔法は、クラスに部別されている。

例えば【殲滅の猛火】の魔法クラスは破壊で、【透明化】の魔法クラスは幻惑だ。


俺は幻惑クラスにある魔法に目を通す。


─────────────────

幻惑魔法


《取得済み》

【透明化】

全身を透明化させる魔法。使うと魔力がどんどん減っていく。

【恐怖】

相手を恐怖させる魔法。

【消音】

足音を消す魔法。

【扇動】

相手を扇動させる魔法。

【狂乱】

相手を狂乱させる魔法。

【威圧】

相手を威圧させる魔法。自分よりレベルが低いなら成功率上昇。

【激昂】

相手を激怒させる魔法。

【魅力】

相手を魅力する魔法。相手は異性、それに自分よりレベルが低いなら功率上昇。

─────────────────

記述わかりやすいな。


となると、一番使いそうなのは【威圧】だな。


相手が異性だったら【魅力】の方を使っていたが、残念ながら相手が異性じゃなく同性だ。


それに、


─────────────────

ジョナ レベル15

性別 男性

年齢 45

職業 店長、商人、奴隷売買施設のオーナー

種族 人間


スキル

【説得】

─────────────────


うん、俺よりレベルが低い。

つまり成功率が100パーだな。


そう、確認すると物陰から出る。

男性は俺を見た瞬間あっけに取られたが、なんかを言う暇を与えることなく、【威圧】を起動する。


すると男は、【威圧】の気圧に押し付けられ、恐怖に満ち溢れている眼差しで俺を見つめながら後ずさりをする。


「な………なに??」


「このブタ野郎が」


とりあえず、あのアニメのキャラを演じようか。


「へぇぇぇぇ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 殺さないでくれ!!!!」


男は俺の存在に気づいた瞬間土下座をして命乞いをし始めた。


マジで便利だな、この魔法。

これで戦わずに済む。


「さっさと教えろ! オマエが昨日拉致した獣人の女、どこに隠したんだ? いや、むしろ女のとこまで俺を案内してもらう。そうしないと……まあ、言わなくてもわかってるだろ?」


俺がそう言うと、土下座をしている男は怯んだ。


「わ……わかりやした」

吃って言うと、慌てて立ち上がる男性。

すると身を小さくしながら扉まで歩き、開けると中に入る。


中に入ると、黴の臭いが鼻に侵入する。

そして目に入ったのは、並べて連なっている幾つかの檻。


檻の中に、人間か?

それとも人間の姿をしている様々の種族がいる。


見るところ、全員は完全に理性を失っているようだ。


……………コノヤロー、コロシテモイイノカナ。


そう本気で思っていたところだったが、やめることにした。


長時間にわたって、動物のように檻に閉じ込められたせいか、理性を失ったのだろう。

解放してもすぐ死ぬに違いない。


その事実に気づき、俺は歯を食いしばるが、口を開けようとしなかった。


悔しいけど、任務はリナの弟子を助けることだ。


しばらく通路を歩くと、やがてひとつの檻の前についた。

檻の中に、目の色は茶色で、髪の色は黒、それに胸のないぺちゃんこ犬耳の少女がいる。


俺らの存在に気づいたか、少女は顔をあげると、こっちに視線を投げつける。


その目には恐怖しか映っていない。


この少女、もしかしてリナの弟子なのか?

見た目はピッタリ。


俺は隣に震えている男性に視線をやると言う。


「こいつを解放しろ」


すると男性は反論しようとするかのようにこっちに目をやるが、俺の目を見た瞬間酷く怯んで反論する気を失った。


「……わ、……わかりました」


男性が頷くと、魔法を使って鍵みたいなものを顕現させる。

そしてその鍵を檻の穴に入れて、カッチャコッチャという音とともに檻を開く。


少女はまだ動いていない。

代わりに震えが増した。


まあ、それはそうだ。


自分を拉致した人と赤の他人にアプローチされた。そりゃ震えるだろ。


俺はやさしく、少女の方にほほ笑みかける。

すると、

「お前がロリ………いや、リナのやつの弟子か?」


そして想像通り、リナの名前を聞いた時、大きく目を見開いた。


「俺は楓。リナに頼まれてお前を助けに来た者だ」


そう言うと、少女の目には光がきらきらと輝き出す。

無事そうでよかったな。


声は小さいけど、沈黙に支配されているこの空間で、大きく響いた。


「ほんと………ですか?」


また疑っているようだが、それもしかたない。


「うん、本当だよ。リナと俺はなんというか、仲がかなりいいからかな。会った瞬間、「頼む! ウチの弟子を助けてくれ」みたいなもんを言ってきたんだ」


そう、リナの真似をすると、少女は小さく笑う。


「リナ師匠っぽいですね」


言うと、少女はやっと立ち上がり、躊躇いながらも俺の元に歩いて来る。


「うん、じゃあ、お兄さんの言うことを信じます。よろしくお願いします」


マジで元気そうな子だな。

リナもきっと喜ぶだろ。


と、そんなことを思うと、まだ隣に恐怖に満ちた視線で俺を見つめている男性に視線をやる。


男性は俺の眼差しを見ると、怯む。


【威圧】はマジで強えなぁ。


「よかったな。これで、命を保つことができたな」


それだけを言うと、少女の手を自分の手でつかんで踵を返して出入口へと歩く。





無事にルナのとこに少女を連れ戻したその後、俺はギルドに報告すると、男性は刑務所に送られ、理性を完全に失わなかった奴隷達は解放されたのだった。

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