甘くて苦い

@SnowWhiteNight

梅雨

「私を抱いてよ」


潤んだ瞳で彼を見つめる。彼の顔が哀しそうに見えたのは見間違いか。妙にはっきりとした意識の中で曖昧に微笑み、彼の首に腕をまわす。近くで見る彼の顔はやっぱり綺麗で、思わず顔が緩む。


「酔ってるの?」


呆れたように言う彼に、ゆっくりと首を横に振る。長い睫毛、短い髪の毛、綺麗すぎる瞳、形のいい薄い唇。あれほど欲しくて欲しくて、何度も手を伸ばしては諦めてきたものが目の前にある。鼻先が触れるほど近づいたことなんて今までなかった。このまま進めたなら、友達としての関係すら終わることがわかっていながらそれでも私はその先に進めてしまう。

彼の頭に片方の手を回し、空いた手を彼の顔に添える。何が起こるのかを察したのだろうか、彼の表情が硬くなる。私は、彼が何か言葉を発する前に唇を優しく塞ぐ。


「一人で夜を超えられそうにないの」


掠れた声、どこか壊れそうな微笑み。優しい彼が不安定な私を拒むわけがないとわかっていて、だから私はすべてを壊そうと彼をそっと押し倒した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る