竜王の娘はパパの隣でのんびり暮らしたい~竜族の男達は病み(闇)属性持ち~

いぶき

異世界転生したら竜族の姫になっていた。

第1話 変わった世界に転生したようです。

 ―――ヴァーミリオン王国、この世界で最も長い歴史ある大国。



 ヴァーミリオン王国は、この世界の始まりに創生神の眷属である竜王によって建国されたという。

 生物最恐種族である竜族、その頂点に君臨する竜王が治めるこの国は、世界の中心国である。

 ヴァーミリオン王国が世界の中心となり、そこから派生するように国が生まれ発展していった為、広大な領土を持つヴァーミリオン王国を囲むように立国されている。


 ――――世界を牛耳っている国。それがヴァーミリオン王国である。



 その長い長い歴史の中で、異世界から転移して来た者が数百年ごとにぽつりぽつりと存在しているらしい。

 ヴァーミリオン王国だけでなく、その周辺の他国の歴史書の中にも存在する異世界人。


 この世界と全く異なる世界から転移してきた異世界人達の事を、この世界の人達は“異界神”と呼び、繭で包むように丁重に保護し大切に扱ってきた。



 異界神は魔法の存在しない世界に住んでいたという。

 魔法の代わりに科学というものが発展した世界。

 魔力の代わりに電力という物を用いて生活においての便利な道具を始めさまざまな事に活用しているらしい。


 この世界の文明よりも何倍も発展している文明の中で生活していた為、その知識や情報を貰う事で、世界の文明は飛躍的に向上したと言われている。


 物珍しい文化や知識がこの世界では大きな商機になったりする為、異界神の知識は宝石より価値のある素晴らしい物である事は間違いなく、異界神が舞い降りた国はその瞬間から富める事を約束されたようなものである。


 異界神は、異界渡りをする際に素晴らしい祝福や加護を貰うらしい。

 何故なら、知識をそれほど持たぬ異界神であっても、異界神が滞在する国は作物も鉱物も何もかもがとんでもなく豊かになるという、世の理を無視した不思議な恩恵があるからだ。


 きっと偉大なる創造神様が、異界神を下界に降ろす時に痣無く過ごせるよう大きな加護や祝福を授けるのだろうと伝えられてきた。


 魔法も魔物も存在する世界では、神様も本当に存在しているらしい。

 ふわっとした信仰対象ではなく、実在して声もお姿も神職者なら拝見拝聴出来るという事だから、本当に居るのだろう。



 本当に凄い! 王道ファンタジーの世界だ。

 私は、小説や漫画等でしか存在して居なかった魔法や魔物の存在する世界に生まれたのだ。



 天沢璃音あまさわりおん

 日本生まれの日本育ち。

 両親は共働きで、下に弟と妹が一人ずつ。

 共働きの両親のサポートで家事全般は璃音りおんの担当だ。

 高校は進学校でまだ入学したばかりだというのに、大学受験に向かっての指導が多く毎日のように大量のレポート提出やプリント提出を求められる。

 家事と学業の両立をするには中々大変な進学校に通っていた。

 元々、料理も掃除も洗濯も大好きだ。

 家事に関してはそこまで苦ではなかったが、学業との両立となると時間のやり繰りが難しかった。

 璃音りおんは天才タイプではない。一生懸命努力して時間をかけて積み重ねる秀才タイプだった。

 それなりに時間を確保して、丁寧に積み重ねなければダメなタイプだった。


 その日、いつものように時間のやり繰りに溜息を吐きつつ家路を急いでいた。

 学生カバンに、さらにお得品を買い込んだスーパー袋を二つ持つ。

 重たい袋を持ちながら、買い出しくらいは週末にいっぺんにやった方がいいかな…と考えながら歩いていた。


 突然、車の大きなブレーキ音、女性の悲鳴、ドンっとした衝撃を身体に感じた後に走る想像したこともないような激しい痛み。

 プツンっとテレビの電源を落としたかのように璃音りおんの意識はブラックアウトした。



 それが、前世と呼んでいいのか、璃音りおんとしての最後の記憶――――


 その後、魂だけの存在になった璃音りおんは、無の空間の中で漂っていた。

 脳内…と呼んでいいのかどうか、脳に直接語り掛ける声を認識する。


 声がいうには、胡散臭い話だが自分は創生の神であり、璃音の魂の輝きを気に入ったのだそうな。

 どこら辺が気に入ったのか具体的に言っていたが、長過ぎて途中から聞き流していたので、もう覚えていないが、どこぞの世界へと魂を転生させたいとのことだった。


 無の空間の中が居心地が良かったので、断る選択肢はあるのかと聞くと、

 断る=輪廻の輪から外れる為、ずっとその無の空間を漂い続けやがて消滅する存在になってしまうとのこと。


 消滅するのはちょっと嫌だなと思ったので、軽い気持ちで転生することにした。


 この記憶は残るのかと尋ねると、記憶を残す残さないは本人の自由だというので、

 残して貰う事にした。


 夢か現実か分からないぼんやりとした空間の中、神なりに璃音がその世界で暮らしやすいように、璃音の能力や環境を整えてくれたとのこと。

 詳細は転生してのお楽しみとかはしゃいで言うので、ほっておいた。

 ちょっぴり半泣きで「ひどいっ」といじける神が、少しだけ面白かったのは秘密にしておく。そして可愛かった。


 異世界という事で、今まで転移した地球人の話を簡単に説明された後、私は転移ではなく転生という事で異界神と呼ばれる事はないだろうということだった。

 別に異界神なんてダサい渾名など付けられたくないので、逆に良かったのだけど、神は私の強がりだと勝手に解釈して笑っていた。

 いい性格をしてる神である。


 話を戻そう。 


 とまぁ創生神によって異世界転生をさせられた私は、異界神と呼ばれる者達と同じ、地球に生まれた前世の記憶を所持したまま転生した。



 先程、女性が部屋に入ってきて「ひ、ひひひひ、ひめさまっ!?だっだっだれかぁぁぁ、ひ、ひめさまがーーーっ!」と、発見される前は静かに入室してきた同じ人とは思えない大きな叫び声をあげて走り去っていった。


 りおんは「姫様」らしい。

 見慣れない室内に、知らない人々。

 叫びながら走り去った女性は、人の良さそうなお爺さんを連れて戻ってきた。

 お爺さんが私の身体を診察してくれるらしい。

 お医者さんみたいだ。


 言葉も分かるし話せそうだけど、何ていっていいか戸惑ってるうちに診察が終わった。



「うん、目立った異常はなく、問題ないですな。ああ、そろそろ来る頃でしょうなぁ、後数十秒とないったところかな? ははは」


 優しい顔で私の頭を撫でてくれたお爺さん笑い声をあげた。

 あまりに楽しそうな笑い声に釣られて璃音りおんも笑い声をたてた。

 お爺さんいい人とほんわか温かい気持ちになる。


 笑い声をあげた私を眺めて、お爺さん先生が朗らかに笑った所で、両開きの扉がバーーン!と音を立てて開いた。


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