第五章 最終前話 ハーレムパーティ

※クライマックスなので長いです。ごめんなさい。


「うう。眠い……」

「あ、弘樹、起きたわね」

「おはよう、弘樹さん」


 パソコンの時刻表示を見ると午前二時。


「……なんか時間、早くない?」

「パーティの相談は終わったし、集合が昼だからすぐ解散したわ」

「私も寝ます。おやすみなさい」


 まだ目が覚め切らないうちに、朱音と里美がさっさとログアウトした。




 女同士でパーティの相談ってなんだろ?




 朱音と里美と三人でパーティの買い出しに行く約束をしているが、待ち合わせの時間はまだずっと後だ。

 弘樹はもうひと眠りするかと、目覚ましをセットしてベッドへ横になる。


「並行世界から来てる彼女たちと俺は、話ができないのか……」


 弘樹はようやく気づいた。

 『寝落ちスキル』で召喚している彼女たちが別世界から来ているなら、自分が起きている状態で出会えるすべはないのだということを。

 会話はおろか、一緒に買い物をしたり映画を観たりプールに行ったりご飯を食べたり、そんな好きな人との胸が高鳴るイベントは何もできないのだ。


 当初は楽観していた。

 その気になれば『寝落ちスキル』以外でも会える、寝落ちせずに普通の待ち合わせをすれば会えると。

 ただ、彼女たちを誘う勇気があればいいだけだと、そう考えていた。


 いつか自分に自信がついて、思い切って彼女たちを誘えるようになれば、そのときこそ彼女ゲットに動き出そうと。

 それはゲーム実況アイドルたちに限らず、同じバイトの里美に対しても同じ気持ち。


 そんな弘樹の消極的な気持ちは、彼女たちのたくさんの好意に触れ続けることで徐々に変化した。

 彼女たちの愛情の力で、彼は自分に自信を持てるように、前向きになれたのだ。

 すべては好意を向けてくれた彼女たちのお陰。


 今こそ動き出し、彼女たちをデートに誘って、たくさん話してどんな女性なのかよく知るために一歩を踏み出そう、弘樹はそう強く思った。


 その矢先、アリスたちが並行世界の住人なのかもしれないと気づいたのだ。

 本当に彼女たちが並行世界から来ているなら、『寝落ちスキル』を使わなければ会うことは叶わない。


 弘樹は、召喚が切っかけで彼女たちからあれこれされて、すでにどの娘にも惹かれている。

 みんな個性的で、可愛くて、ちょっとエッチで、そしてとても素敵な女性たち。

 なのに起きて会うことは決して叶わないのだ。




 くぅ、ちくしょう!

 なんとか……、なんとかできないのかよっ!




 ベッドで横になった弘樹は、真剣にそのことへ思考を巡らし、答えの出ない悩みにうんうんうなった。

 そしてなんと弘樹は、いつもの様に普通に二度寝したのではなく、一生懸命考えながら『寝落ちスキル』で寝落ちした。


◇◇◇

◇◇◇


「ぷはぁ! な、何だ今のは⁉」


 ベッドで二度寝をしていた弘樹が飛び起きた。


 意識があるのに身体を動かせない、そんな恐怖体験を長時間味わったのだ。

 目覚ましが鳴っても起き上がれず、ようやく手足が動いて身体を起こせたことに安堵する。

 あまりに異常な体験で滝のように汗が出たため、下着がビショビショになった。




 しかし、一体何だったんだ今のは。

 何かに憑りつかれたみたいに、身体が全くいうことをきかなかった。

 それに身体が動く直前、何かが聞こえたような……。

 なぜだか、今すぐにゲームセンターへ行かなきゃいけない気がする。




 鳴り響く目覚ましを止めて時間を確認する。

 パーティの買い出しで、里美と朱音と約束した待ち合わせの時間にギリギリ。

 大急ぎで支度して駅前へ向かった。


「一番寝ている弘樹さんが最後ですね」

「もう弘樹はしょうがないな! 遅いよ?」

「ちゃんと時間には間に合ったよね?」


 時間ギリギリで到着したのに遅刻のように扱われたが、里美も朱音も笑顔なため弘樹も笑顔で返す。

 アリスたちとは起きたまま会えないと判明したが、いつまでも悩んでいられないと弘樹は気持ちを切り替える。


 今日のパーティにみんなを誘ったのは弘樹自身。

 なので、自分から積極的に動くつもりなのだ。


 駅前のスーパーでジュースやお菓子、ケーキなどを購入する。

 成人男女の集まりなので缶ビールにワイン、ピザや冷凍枝豆なんかもそろえた。


 買い物が終わり、さあこれから帰って『寝落ちスキル』を使うだけというところで弘樹が声を上げた。


「ごめん。帰る前にゲームセンターへ寄ってもいいかな?」

「弘樹さん?」

「急にどうしたの?」


「なんだか、ゲームセンターの装置でスキル診断をした方がいい気がするんだ」

「え? でも早く弘樹さんの部屋に行かなきゃ」

「スキル診断? いや、後でもいいでしょ?」


 弘樹は難色を示す二人へ上手く説明できなかった。

 合理的な理由が何もないからだ。

 これから用事があるというのに、何故だか大人気で行列ができているスキル診断を、今すぐやるべきだという強い衝動に駆られる。

 強迫観念のように逆らいがたいもの。

 その理由は説明できない。

 理由のはっきりしないことを強く主張するのは、彼自身もおかしいと感じた。

 それでもとにかく、今朝二度寝してから今までの間、ずっとそんな衝動に強くかられているんだ、と二人に訴える。


「頼む。クリスマスパーティの前に診断した方がいい気がするんだ」

「弘樹さんがそんなに言うなら待っててあげるわ」

「里ミンは弘樹に甘いわね。まあいいわ。じゃあ、診断装置が見えるところで二人で待っててあげるから。さ、早く並んできて」


 長い行列に並んだ弘樹は、四十分かかってスキル診断を実施した。


「悪い待たせた! 遅くなったところ悪いんだけど、早速、診断内容を確認してもいいか?」

「今はダメです! 早く弘樹さんの部屋へ行ってみんなを召喚してもらわなきゃ」

「ねえ弘樹、今はマジで急がなきゃダメなんだよ! このままじゃ完全に遅刻しちゃう! アリスちゃんたちは夕方から生配信の予定があるんだからね!」


 せかされた弘樹は診断内容が書かれたプリントを確認することなく走って家へ向かい、朱音と里美を家の中に招き入れる。


「お邪魔しまーす。あ、おばさん朱音です。覚えてます? 後から他のメンバーも来て賑やかになるんですけど、クリスマスパーティなんで許してくださいね」


 弘樹の母親に挨拶した朱音が、弘樹に続いて階段を上がる。

 そのあとを会釈した里美がついて行く。

 弘樹の母親は、その光景をなんだかとても嬉しそうに見ていた。


 予定より十五分遅れで弘樹の部屋に到着した三人は、急いでパーティの準備を始める。

 会場の準備をするのは朱音と里美。


 弘樹はゲーム実況アイドルたちを召喚するために、ネットゲームを始める。

 MMORPGとバトロワと麻雀の三つを必死にかけ持ちプレイした弘樹は、いつも通り無事寝落ちした。


 かのように見えた。


◇◇◇




 あれ? 俺は寝落ちしたハズだが?

 変だな、眠れてない。

 寝落ちできなかったのか?

 ならゲームを再開しなきゃ!

 ゲーム中に寝落ちしないと彼女たちを呼べないし。

 え⁉ あれ⁉

 おかしいな、身体が動かない……。

 クソ……目が覚めているのに身体が動かない!

 ……。

 もしや! 朝の二度寝と同じ状態か!




 弘樹は慌てながらも、デスクに突っ伏すいつもの寝落ち体勢のまま、意識だけがはっきりしている今の自分の状態を把握する。




 どうやら朝と同じで目だけは見える。

 動くのはまぶただけか……。




 彼は机に突っ伏したまま身動きが取れずに思案していたが、限られた視野で部屋が猛烈に明るくなったのを感じた。


「トンッと。さてさて、みんなはいるかな?」


 真っ先にデスクを見たアリスは、寝落ちする弘樹を確認して笑顔を見せた。

 彼女の今日の恰好はいつもの冬用パジャマとは違い、なんとサンタコスチューム。

 お団子の上から赤い三角帽子を被り、上着は赤い生地でフチに白いフェルトがつけられた肩出しのセクシーなもの。

 同じテイストの膝上スカートで合わせている。


 当然、机で突っ伏して身体の動かない弘樹には、アリスがどんな格好をしているかなんて分からない。

 ただ、彼女の声を聞いて召喚の成功は把握した。

 つまり意識があっても身体の動かないこの状態は、寝落ちなのだと理解する。


「ア、アリスさん、ちょっとセクシーすぎません⁉」


 ベッドに座っているせせらぎが、アリスの姿を見て目を丸くする。


「えー、普通に駅前のダンキで買ったパーティ衣装だよ?」

「胸元がちょっとエッチだと思います」


「あーこれね? 私の身体が小さいから、ウエストに合わせてSサイズにしたんだよ。だから、ちょっと胸がきついの」


 確かにアリスが買った衣装は、上着が肩出しのノースリーブで、スカートは膝上の可愛らしいもの。

 ただ、Sサイズを胸の大きすぎるアリスが着ているので、製作会社が本来想定した様相とまるで変ってしまっている。

 もともとタイトで身体のラインが分かるデザインだが、赤い生地がこれでもかと前方へ突っ張ってぱつんぱつんになり、おへそは見えているし、胸の形状もハッキリでてしまっている。




 お、おい、待て。

 アリスちゃんはどんな格好してるんだ?

 今日はパーティだから普通の服だとは思ってたけど、ダンキで買ったパーティ衣装だと⁉

 あ、あれか?

 クリスマスパーティだから……サンタ衣装か⁉

 しかも胸元がエッチって……、もしや! 女性用のセクシーサンタ衣装なのか!

 み、見たい……。




「そういうせせらぎちゃんだって、そのコスはワンピースの丈が短すぎると思うよ」


 せせらぎもアリスと同様に、パジャマではなくサンタコスチュームである。

 赤い三角帽子を被った彼女が着るのは、短い袖のある赤い生地のワンピース。

 スリムな体型に合わせたシルエットの綺麗なデザインだが、ワンピースにしてはちょっと、いやかなり大胆なスカート丈だ。

 下着がなんとか見えないほどに丈が短く、座ったときには太ももに物を置くなどパンツが見えないように注意が必要なレベルである。


「こ、こ、これは……。理沙さんがお前の武器は細い脚だ! 限界まで太ももを見せろって言うものですから……」


 大胆な服など来たことないのか、せせらぎの顔は耳まで真っ赤になった。




 やった! せせらぎちゃんもコスチューム衣装!

 やっぱサンタ衣装なのか?

 ワンピースの丈が短いって、清楚系の彼女が今日は攻めてる?

 そもそも限界まで太ももを見せるってことは、あのスリムなせせらぎちゃんの肢体したいがあらわにッ!

 み、見たい見たい!!




「細かいこと気にすんなって。配信では見せパン穿けばいいんだから。それに生配信で着る服をパーティに着て来たのは、弘樹に見せてやるためだろ?」


 珍しく缶ビールを持っていない理沙が、床に座り両手を後ろにして身体を支えながら、二人を見上げている。


「理沙さん⁉ 服ですらないし!」

「どうして水着なんでしょうか!」


「うるせぇなぁ。ちゃんとサンタ帽子被ってるだろ。それにパンツじゃないから恥ずかしくないし」


 セクシー路線で売るという事務所の方針もあるが、当の理沙が悪ノリしたために今夜は赤いビキニ水着で麻雀の配信をする予定らしい。




 この声は理沙さんだな?

 そうか! みんな、今夜の生配信で着る予定のサンタ衣装を着て来てくれたんだな?

 しかも俺らに見せるためだなんて!

 っていうか理沙さん水着なのかよッ!

 真冬にサンタ帽子の水着娘が自分の部屋にいるってエロすぎんだけど……。

 だいたい水着がパンツじゃないから恥ずかしくないって、どんな理屈だよ!

 見たい見たい見たいッ!!!




「え! みなさんそんなエッチな恰好なんですか⁉」


 部屋の扉を開けた里美が三人の恰好に呆然とする。


 昨夜、女性同士で相談して女子全員でサンタ衣装を着ようと決めていた。

 なので里美もさっきの買い出しついでに購入しており、この家のトイレで着替えた。


 だが、里美の着る衣装は赤い帽子は同じでも、上着は肩を出さない可愛らしく羽織るタイプで、スカートの丈もヒザちょい上くらい。


 これでも里美はこんな可愛い衣装を自分が着ていいのかと購入をためらっていたくらいである。


「ま、負けるもんですか!」


 つぶやいた彼女は、スカートのウエスト部分をクルクルと巻き上げてアリスより丈を短くする。

 可愛いいからと理沙に勧められて白のニーハイソックスを穿いているが、さらにその上までスカートの裾が上がった。


「白ニーハイとスカート! 里ミンの絶対領域……」


 貴重なものを見たとばかりに朱音が反応した。


 これには里美と長い付き合いの弘樹も反応する。




 里美さんと朱音の声だ。

 控えめな里美さんが、アイドルたちのセクシー衣装に張り合ってる⁉

 武器は白いニーハイとスカートの間の絶対領域か!

 ゆ、夢だ!

 夢の世界がそこにある!

 でも俺には後ろが見えないんだよッ!

 くそう、なんで俺の身体は動かないんだッ!

 あああ! 見たい見たい見たい見たイィィ!!




「ねぇ! 朱音ちゃんってば、それサンタコスとは違うよね?」

「う、うん。一応トナカイ……」


 朱音は、ツインテールを低い位置で束ねて、カチューシャで小さな角の飾りをつけていた。

 茶色で丈の短い、シックなデザインのワンピースを着ている。


「可愛いー!! 背中丸見えだぁ。肩甲骨がいいね!」

「う、あ、アリスちゃんあんまり言わないで……」


 そんなこんなで、クリスマスパーティの準備が完了した。


 だが、アリスがつまらなそうにデスクの弘樹を見ている。


「うーん。やっぱり弘樹が寝てるのが寂しいなぁ」

「女子会って考えれば、私は十分に楽しく過ごせていますよ」


 リアルではパーティの経験が少ないのか、せせらぎが楽しそうに返事をする。


 それを聞いた理沙がヤレヤレと言いながら、立ち上がって弘樹に近づいた。


「せっかくだし、弘樹をローテーブルの近くへ動かした方がパーティらしくなるんじゃないか? ほら、床に座らせてベッドに寄りかからせようぜ」

「え? でも弘樹さん、寝てるだけだから横に倒れちゃいますよ?」


 里美が冷静に返すとアリスが急いで弘樹に近寄る。


「平気だよぉ。両側から密着して弘樹を挟み込めば支えられるよ」


 それを聞いたせせらぎと里美が慌てて駆け寄った。


 ややあって、女性同士でひと悶着しながら、弘樹を起こさないように床へ移動させてベッドにもたれさせ、その両側をアリスと朱音が密着して支えた。


「むふー、弘樹げっとぉー」

「じゃ、じゃんけんとはいえ、朱音が弘樹の横!?」


 美女二人に挟まれた弘樹の興奮は最高潮に達した。




 キ、キタッーーーー!!

 これ以上ない天国モードが、つ、ついに俺に訪れたぁ!!

 やっとだ、やっとだよぉー!

 バレたら気まずいから目閉じてたけど、薄目開けて見るなら気づかれないよな?

 んん? おいおい!!

 みんな、生だとこんなに可愛いかったのか……。

 さすがアイドル、可愛いすぎる!

 そんな天使に両隣から密着で支えられてるよ。

 アリスちゃんに組まれた俺の腕が彼女の胸に……。

 あ、朱音が俺の横に密着する日が来るなんて……。

 みんなコスチュームがエロすぎる。

 あ、頭がどうにかなりそうだ……。




 満足そうなアリスと朱音とは対照的に、せせらぎと理沙、里美は不満そうだ。


「近くじゃないと嗅げないじゃないですか!」

「お前ら、乾杯してしばらくしたら交代だかんな!」

「順番は守ってくださいね!」


 アリスが弘樹と腕を組んだままでグラスを上げる。


「はーい! じゃあみんな、乾杯するよ? 準備はいい? メリークリスマスっ!」


 そんな感じで無事にパーティが開催された。


 不意に弘樹の鼻腔をくすぐる、コンディショナーの香りが広がる。


 弘樹を挟んで右側にいる朱音が、彼の目の前に顔を出して左側のアリスの胸を覗き込んでいた。


「アリスちゃん、む、胸が見えすぎと思うよ……」

「そうなんだよねぇ。Sサイズは生地が小さくて上から胸がほとんど見えちゃうんだよ。でも大丈夫だよ。乳首はギリ見えてないから」


 会話につられた弘樹は、薄目を開けながら左側にいるアリスの胸元を盗み見る。




 うぉおおおお! 全然大丈夫じゃねぇって!!

 アリスちゃーん!!

 ほとんど見えちゃってるよぉ!




 アリスのあまりに暴力的な胸元に、弘樹は顔に出さずに心の中で叫ぶ。


 そこへニヤニヤ笑った理沙が近づいてきた。

 四つん這いになって背中を反らせており、ひょうのように弘樹へにじり寄る。


「おいおい、なんだ朱音。水着のあたしの方がずっとセクシーだろう? なあ?」

「え? そりゃ理沙姉さんは水着だもん。ダントツでセクシーよ。てかエッチすぎ!」




 目の前へ迫る理沙に、弘樹の興奮レベルはすでに生まれて初めての領域へ到達していた。




 ああああ!

 い、い、色気のある理沙さんが水着で間近に!!

 っていうか理沙姉さんのそのポーズ、エッロ……。

 しゃ、写真集のポーズだよ、それ!

 理沙さん肌綺麗! 身体細っそ!




 弘樹は心配した。

 興奮のし過ぎで、実は目が見えているとバレるんじゃないかと。

 召喚が解除されないので寝落ち状態なのは間違いないし、身動きできないのも事実。

 しかし、目が見えて音が聞こえるのをみんなに知られたら、それは何だか気まずいと考える。


 これ以上の興奮は危険だと、弘樹はあえて視線を逃がした。

 だがその視線の先には、ありえないほど丈の短いワンピースを着たせせらぎがいたのだ。

 彼女は姿勢よく立っていて、弘樹に集まる女性たちが羨ましいのか、胸の前で両手を組んで祈るようなポーズで彼の様子を見ていた。


 床に座る弘樹からは、当然見上げる角度。


 そのせせらぎの様子を朱音も見たのか、彼女が声をうわずらせる。


「し、し、し、師匠! パ、パンツが見えて絶対空域から光が!」


 それを聞いたせせらぎが、急いで股を手で隠す。

 彼女の指の隙間から、金色の光が漏れた。


 パンツからの絶対空域、パワーワードに負けた弘樹が自然とそれを確認する。




 ひ、光が見える!

 ご、後光……め、女神様……。




「み、見ないでください! お願いですから! だめですっ、だめぇだめなのぉ。み、みちゃらめぇっ!」


 せせらぎの必死の懇願を聞くや、寝落ちしているはずの弘樹は、その状態からさらに鼻血を出した。


 アリスたちを羨ましそうに見ていた里美と理沙が、弘樹の異変に気づく。


「きゃー、弘樹さん鼻血出てますよ!」

「おいおい、こいつ、寝ながら興奮してんのか?」


 きゃいきゃいと女子全員が弘樹の周りに集まり、甲斐甲斐しく弘樹の世話をする。


 周囲を美女に囲まれた弘樹は、今この瞬間で死んでもいいと思うほどに幸福を味わった。


 その後、弘樹に見せようと里美がスマホを立てかけて集合動画を撮ったりした。


「ねぇねぇ、朱音。この数値がいっぱい書かれた紙は何なの?」


 撮影が終わって弘樹の横を里美に譲ったアリスが、パソコンデスクに置かれた紙を見つける。

 同じく弘樹の隣を理沙と代わった朱音が、アリスの持つプリントを覗き込んで思い出したように手を叩いた。


「あ、それね! 弘樹のスキル診断の紙だよ。バタバタして忘れてたわ」

「スキル診断が今、人気なんですよ。今日は買い出しで時間がないのに、弘樹さんが急にやりたいって言い出して。それで四十分も待ったんですよ」


 里美がみんなに召喚が遅れた理由を説明すると、弘樹を挟んで反対側にいる理沙が、寄りかかる彼を密着して支えながら不思議そうに首をかしげる。


「なんだ? スキル診断って?」


 朱音と里美が説明したが、彼女たちはスキル診断装置のことを知らなかった。

 向こうの世界ではスキル診断装置が発明されていないようである。


「へー! 凄いねぇスキル診断! ねぇねぇこの診断結果のプリント、弘樹がみんなで見ていいって言ったんだよね?」


 アリスがスキルの診断結果のプリントを手に取ると、習得スキルの項目を楽しそうに読み上げた。


「あはは、何これー? 『寝落ちスキル』11レベルだってぇ! この限界突破って何? しかも、弘樹は人間の限界を超えてるって書いてあるよ? おもしろーい!」


「な! なな……、何ですってぇぇええっっ!!」


 陽気に笑ったアリスに対して、朱音が叫び声に近い奇声を上げた。


「ちょっと朱音さん。弘樹さんのおばさんがビックリするから!」


 里美が慌ててたしなめたが、朱音は全く意に返さずにアリスへ飛びつくと、彼女の持つプリントを奪い取った。


「あ! 朱音ヒドイよ!」


 突然のことにアリスがむくれる。


「ごめんねアリスちゃん。悪いけど朱音に読み上げさせて! 前に弘樹から聞いた話と違うのよ」


 朱音が改めて弘樹の習得スキルを確認する。




 習得

 『寝落ちスキル』

 熟練度:11レベル(限界突破)

 ※称号『人間の限界を超える者』




「11レベル……。限界突破……。称号『人間の限界を超える者』……マ、マジなの……⁉」


 朱音は目をむいてつぶやいた後、診断結果が記載されたプリントと弘樹を交互に見ている。


 弘樹は薄目を開けていて状況を把握しながらも、急展開する事態にただただ驚くばかりだった。




 何だと……。

 スキルレベルって10がMAXだっただろ⁉

 そもそも10レベルだって自分以外に聞いたこともないのに、11レベルかよ……。

 しかも、限界突破って!!

 称号って何だよ!

 『人間の限界を超える者』って寝落ちがだよな?

 喜んでいいのかコレ……?




 弘樹が衝撃を受けたように、朱音も相当に困惑した様子でプリントを片手に生唾を飲み込んでいる。


「弘樹が言うには、確か裏に付与された特殊効果が書いてあるんだ」


 朱音は震える手でゆっくりとプリントを裏返した。


次回、最終話「希望」

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