【完結】ゲーム実況アイドルが何度も家に来てるけど、俺はいつも寝てるから過激アプローチを受けても気付けない

宇多田真紀

第一章 アリス

第一章 一話 弘樹とアリス

「やっぱり、アリスちゃんは超可愛いよなぁ」


 十二月一日の夜、川上弘樹はいつものようにバイトから帰ると、ゲーム実況アイドルの実況動画を観ていた。


 胡桃くるみアリス。

 今、弘樹が最も推すゲーム実況者である。


「はーいアリスだよ。みんなぁ元気しとった?」


 明るく陽気で天然な性格と金髪で小柄な容姿がマッチして、今、人気絶頂のゲーム実況アイドルだ。

 そう、彼女はアニメ調のイラストを用いるVチューバーではなく、顔出しのアイドル実況者。




 アリスちゃんて口調はたまに乱れるけど、この性格は地だよな。

 ハーフで色白で金髪、性格天然ってもうマジ天使!

 ヤバすぎだ。

 そんで得意のRPG実況は、俺の好きな防御力重視のタンク職を選ぶんだもんな。

 もう俺との相性は最高だよ!




 弘樹は寝不足にめっぽう弱い。

 夜更かしが苦手でいつも彼女の生配信と時間が合わず、アップされた動画を観ては癒される日々を送っていた。

 高校を卒業してからずっと、バイトとゲーム実況動画の視聴とネットゲームの繰り返しで寂しい毎日。


 彼は決して友達付き合いが下手ではないし、眼鏡だが見た目も悪くなく他の友人に見劣りする訳ではない。

 だが自分に自信がない。

 それで女性へ積極的にアプローチできず、今の今まで彼女ができたことはなかった。




 今年こそ、絶対に彼女を作ってやる!

 彼女ができれば人生バラ色だし、きっと自分に自信を持てる気がするんだ。




 十二月二十五日、つまりクリスマスまでには彼女を作ることが今年の目標だった。

 だが、もう既に十二月を迎えているので目標の達成は望み薄である。


 弘樹にとって、一年の行事でクリスマスとバレンタインデーだけは死ぬほど憂鬱な気持ちにさせられる日だ。

 そんな憂鬱な日を一発逆転してリア充の仲間入りを果たしてやると、なんなら聖なる夜を性なる夜にしてやると、そう意気込んで一年計画で臨んだ彼女獲得の夢は今年も儚く散ろうとしていた。




 やっぱりだめだ、俺には彼女なんてできそうにない……。

 別にドラマチックな恋愛じゃなくていいんだ。

 大好きな金髪のゲーム実況アイドル、胡桃くるみアリスちゃんみたいなゲーム好きな娘と、部屋で楽しくゲームができるだけで満足なのに。

 俺の望みはただそれだけなのに。

 世の中は本当に上手くいかない……。




 実況動画を見終わった弘樹は、先日購入した新作のMMORPGを始める。

 チュートリアルを見ながら憧れの胡桃くるみアリスを思い浮かべると、彼女と一緒にこのゲームをプレイできたらどんなに幸せか、そんな願望にばかりとらわれた。


 そして……、少しもプレイしないうちにバイトの疲れから、いつものように寝落ちしたのだが……。

 今日の寝落ちは事情が違った!


◇◇◇


「え? え? ちょっと、何よこれ……」


 風呂から出てパジャマに着替えた胡桃くるみアリスは異常発生に慌てた。

 まだ少し水分の残った金髪を頭の上でお団子にまとめて、ハマっているネットゲームを始めようと自分の部屋に入ったところでの異変。


 急に彼女の視界は真っ白になり妙な浮遊感がしたが、徐々に視界が元に戻る。

 先ほどの浮遊感が消失したようで、小さな落下と共に床に着地した。




 こ、ここはどこなの?




 戸惑いながら見渡した彼女は、自分の部屋とカーテンの色や家具の配置が違うことから、ここが自分の部屋ではないと気づく。


「うわ!」


 デスクに突っ伏して寝ている眼鏡の男を見つけて思わず声が出る。




 知らない男だわ……。

 も、もしかして間違って他人の家に入っちゃった!?




 自分の部屋に入ったはず。

 なのに、いつの間にか見知らぬ部屋にいる状況にアリスは混乱した。

 とにかく大急ぎで他人の家から出なければと、彼女は慌てて廊下に繋がる部屋のドアを開ける。




 あれ? 部屋を出ると見慣れた廊下だ……。




 もう一度部屋の扉を開けるが、自分の部屋と同じ間取りにやっぱり見慣れない家具が置かれていた。

 デスクには眼鏡の男が倒れ込んで寝ている。




 やっぱり、他人の家みたいだわ……。

 いや、確かに彼氏は欲しいわよ?

 凄くね!

 でも、記憶もなく知らない男の家に入り込むなんて、私って相当末期なのかしら……。




 本名、沢村ありす、芸名、胡桃くるみアリスは、芸能事務所の同期で友人の理沙に新しい彼氏を目の前で自慢された。

 ラブラブな様子を見せ付けられてアリスはすっかり羨ましくなった。

 それで素敵な彼氏を欲しいと強く願っている。


 ハーフで金髪の彼女は、日本人の父親に似て童顔で小柄な身体、なのにアメリカ人の母親のお陰で色白で胸が大きい。

 近所では昔からちょっと噂の美少女だった。


 おかげで、無根拠で自信だけあるチャラチャラした男が、ちょくちょく彼女にアタックしてきた。

 もちろん、そんな詰まらない奴を相手にする気なんてアリスにはない。


 できれば自分と同じで、ゲーム好きな人を彼氏にしたいと思っている。

 だが、まともな男は高スペックの彼女に気後れして近寄らず、気づいたら二十歳になるまで純潔を守ってしまった。




 ようやくゲームの実況アイドルで収入が得られるようになったけど。

 見た目は派手で実は男性経験がないなんて友達にも言えないよ。

 でも、いくら彼氏が欲しいからって、他人の家に入り込むなんてどうかしてるわね……。

 ……きっと、彼氏がいないのが問題なんだ。

 ずっと探してるのに……。

 私の運命の人。

 どこかにいる特別な人が、私といちゃラブで甘々な恋愛をしてくれたらいいのになぁ……。




 アリスは彼氏欲しさに無意識で他人の家に入り込んでしまったと勘違いしたが、何にせよ急いでこの家から出なければと玄関を目指すことにする。


 廊下の先にある階段が目に入ったので、こわごわ下りて行く。

 家の階段とよく似ているが、明り取りの窓に取り付けられたカーテンや置物が自分の家とは違う。

 階段下の玄関に着くと靴を探すが、見慣れた備え付けの下駄箱には見慣れない靴ばかりが入っていた。




 ごめんなさい! 後で返すから!




 サンダルを借りて真っ暗な外に出たが、庭の門扉もんぴの手前で何かにぶつかった。


「痛ーいっ!」


 何もないハズの家の庭には、見えない壁があるようで前へ進めなかった。

 何が起こったのか混乱してその場で立ち止まる。




 な、何か壁? みたいのがある?




 彼女の前には透明の壁があった。

 見えない壁の横を手で探ると、どうやらこの壁が自分のいる他人の庭を取り囲んでいるらしいことに気づく。




 どうしよう……、閉じ込められてる……。

 これって、いわゆる結界みたいなものよね?




 アニメや小説で鍛えた想像力のお陰で、自分が結界の様な物に閉じ込められていることを素早く理解した。


「さ、寒っ!」


 今日は十二月一日で夜は結構冷える。

 

 結界の外には出られないのに、寒風は結界の中に吹き込んでくる。

 このまま外にいて、寒風で髪が冷えてしまっては風邪を引きかねない。


「寒くてダメ……。悪いけど家の中に居させてもらおう……」


 いつ解除されるか分からない結界の前で、深夜の冷え込みに耐え続けるのは無理だと早々に諦める。

 急いで自分の家とそっくりな他人の家の玄関ドアを開けた。

 玄関から先は正面に短い廊下。

 玄関のすぐ横には階段があって、男が机で寝ていた二階の部屋に続いている。




 外からの見た目も間取りも、私の家と同じなんだけど、中身・・が違うのよね……。




 さて、これからどうしたものかとアリスは周りを見渡す。


 彼女は睡眠時間が短くても平気なショートスリーパーで、この時刻で寝ることなんてほぼない。

 生配信が夜のために夜型生活が染み付いていて、今も眠気は全然ないのだ。


 アリスは玄関でつっ立ったまま背すじを震わせた。

 玄関や廊下は外ほどではないものの、空気が冷えていて床が冷たい。

 サンダルを履いたまま玄関に座り込んだ彼女は、途方に暮れる。




 どうしよう……。

 この状況、一体どうしたらいいのかな。

 この家の人を起こして助けを求める?

 でもそうすると私が不審者扱いされるかも。

 とりあえず玄関に居て少し様子をみるしか……。

 ……でも、やっぱり寒いよ。




 胸の前で腕を組んで身体を丸めたまま、しばらくじっとしていたが、このままこうしているのも寒さでそろそろ限界が近い。

 さっきも、玄関を出て門扉もんぴの方に行ってみたが、やっぱり結界は解除されていなかった。




 あの男性 の部屋は暖かかった気がするわ。

 せめて一晩だけあの部屋に居させてもらおう。

 泥棒か変質者に間違われたら大騒ぎだけど、男の人を起こさなければ……いいよね?




 静かに立ち上がったアリスはゆっくりと階段を昇り、机で寝ていた男のいる部屋の扉をそおっと開けた。

 先ほどの男が、アリスが見たときと同じ姿勢で机に突っ伏して寝ている。




 もしかして、この男性が私の運命の人!?

 ……ま、まさかね。




 点けっぱなしのモニターを見ると、ずっと気になっていた新作のMMORPGがプレイ中のまま放置されていた。


「このゲーム、やってみたかったのよねぇ。えっと職業は……タンク! 趣味が合うわ!」


 自分と同じで、派手さよりも仲間の役に立ちたいという彼のプレイスタイル。

 好感を抱いたアリスは、警戒心がやわらいだのか自然と笑顔になった。


 とりあえずベッドに座ったアリスは、机で眠る男性を眺める。


 ゲーム好きな男性との不思議な出会い。

 彼女は何か運命的なものを感じて、じっくりと彼の寝顔を見ていたが……。

 ふと、銀縁眼鏡を掛けているのが気になった。


「私、眼鏡フェチなのよねぇ」


 アリスは大きな胸に右手を当てて軽くこぶしを握ると、彼の寝顔をのぞき込む。

 ゴクリと生唾を飲み込んで頬を染めた。




 彼ってどんな女性が好きなのかしら。

 もし急に目が覚めて不審者だと騒がれたときは、私の魅力で誘惑しちゃう?




 自分好みのゲーム男子を見つけたアリスは、誘惑でのトラブル回避を理由にして身なりを整え始めた。


 まずは髪の毛をまとめ直そうと、座ったままでお団子をまとめているかんざしを引き抜く。

 パッとお団子が解かれて長い金髪が腰まで届いた。


 引き抜いたかんざしをしげしげと眺める。


 真っすぐに伸びた箸のようで、片側に花の房飾りが付いた黒塗りのかんざし。

 アリスが幼少の頃に父方の祖母からもらった物だ。

 花の房飾りは彼女の金色の髪に良く映えて、実況配信のときは必ず愛用している。


「うふふ。寝ているあなたに金髪美女がいたずらしちゃうわよ。なーんてね!」



次回、「再開のキス」

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