神代スキル【森羅万象】で、勇者パーティー追放から3日で英雄に。〜お前らなんかもう知らない。そんな事より、【予言の巫女】よ……。もしかして俺の事好きなの?〜

プロローグ



「其方らに魔王討伐を命じる」


 大国「エデン」の王であるアレクサンダーは高らかに宣言する。王の後ろには一つの空間が設けられており、そこはある人物の専用スペースとなっている。


 それだけで、その人物がこの国、いや、世界中からどれだけ重宝されているかが容易に想像できる。


 まだ15歳の淡褐色の瞳を持つ、その人物は立ち上がり、ゆっくりと口を開いた。


「勇者エドワード、聖盾騎士ブルック、魔導士ハンナ、聖女アリステラ、『調整者』アダム・エバーソン……。『神の言葉』によって集められたあなた達の活躍を心よりお祈りしております……」


 勇者エドワードを筆頭に、皆が即座に跪き、了解の意を示したが、俺ことアダム・エバーソンは(『調整者』……?)と首を傾げた。



 この国がなぜ大国であるのか?


 この国が裕福で美しい都市がなぜ多いのか?


 この国になぜ戦争がないのか?


 なぜこの国は魔物の脅威に怯えずに済んでいるのか?


 なぜこの国に災害による被害がないのか?


 それら全ては先程口を開いた少女……。「予言の巫女」イブ・アダムスの『予言』が関係している。


 通常では15歳の「成人の儀」にて、スキルを与えられ各々が自らの望む職に就くのだが、「予言の巫女」は生まれながらに「神代スキル『予言者』」を有していた。


 幼少の頃よりあらゆる事象を予見し、的確に物事の核心に触れ、最適解を導き出す彼女のスキルは、文字通り「『神』の『代わり』に人々を導く」とされており、国を問わず、全世界で絶大なる権力を有しているのは周知の事実なのだ。


 実際、俺も幼い頃、『予言』により命を救われた経験があるので、巫女様の存在が他と異なると言う事を重々理解している。


「アダム……さんは残りなさい。他の者はお下がりください」


 世界最重要人物に名指しで指名された俺は、さらに困惑する。王もこれから仲間となる勇者パーティーのメンバーも姿を消し、広い王宮の間に「予言の巫女」と2人きりになる。


「アダム…さん。あなたは『神代スキル』を有していますね?」


 俺はあまりに衝撃的すぎる内容に心の中で絶叫する。


(やばい! やばい! これダメなやつだ!)


 頭の中で警報がなる。「成人の儀」にて、俺が与えられたスキルは「神代スキル『森羅万象』」。万物の創造、操作、変換を自分の意のままにできるスキルであるが、俺の脳内に一つの言葉が駆け巡る。


「バレたら、『ヤバい』よ? わかった?」


 と言う、女神に言われた言葉だ。何でバレたらヤバいのか?は教えてくれなかったし、その「やばい事」がなんなのか?はわからないが、女神のあまりにフランクな口調に煽られて、


「わかった!」


 と言ってしまったのだ。3日前の出来事なので鮮明に覚えている。女神様の豊満な胸も、形の良い胸も、胸の中心が尖っていたことも……。


 スキルを与えられ、3日でバレてしまった……。いや、まだバレたと決まった訳ではない!


 何とか挽回しなければ……。何がどうヤバいのか知らないが、あの思わず顔を埋めたくなる胸を持っていた女神が「ヤバい」というのだからヤバいのだろう。


「み、巫女様は冗談がお好きなのですね……?」


 俺は引き攣った表情で、巫女様に伝える。巫女様は少し拗ねたような顔をして、ふぅーっと小さく息を吐いた。


「私にはバレても平気です! 『神様』から聞いてますので……安心なさって下さい。でも……私以外にバレたら『ヤバい』らしいですよ?」


 悪戯に笑顔を向ける巫女様。深緑と茶色が混じりあった瞳の美しさに少しドキッとしながらも、巫女様も同じ「神代スキル」持ちだし、神様から聞いているなら、別に大丈夫なのかもしれない……と俺は安心なさる事にする。


「……はい。……で? それがどうしました?」


「ふふっ。あなたのスキルがあれば、何の苦労もなく、余裕で魔王の討伐は叶いますが、それはどうやらダメなようです。相手の魔物を弱体化させたりして、パーティーメンバーの成長を促して下さい」


「……それ、めちゃくちゃめんどくさくないですか?」


「……………………えぇ」


「何でそんな事をするんです?」


「わかりません……。それが今回の『神の言葉』だからです」


「それを無視したらどうなるんですか?」


「……『ヤバい』事になるみたいです……」


 俺は、(またコレか……? いま天界では『ヤバい』が流行っているのか?)と苦笑しながら口を開いた。


「……お互い大変ですね」


「……ええ。私以外にスキルを教えてはいけませんよ?」


「わかりました。2人だけの秘密です」


 巫女様は少し頬を赤らめ、嬉しそうに笑った。純情な心を持っている15歳の俺も思わずつられて頬を染める。


「では、魔王討伐、よろしくお願いします。どうかご無事で……」


「はい。ふざけた『力』を持つ者として、お互い頑張りましょう。……それから、俺はあなたの『予言』で命を救われた事があるんです。7年前のフィアリアでの、大災害を『予言』してくれて、ありがとうございました」


「……いえ、それが私の成すべきことなので」


 巫女様は少し困ったように笑い、王宮から去る俺を見送った。


 ふぅ〜っと大きくため息を吐きながら


(これから自分の力を使って悠々自適の生活を送ろうとしていたのに、めんどくさい事になってしまったな)


 と心の中で呟きながら、仲間となる勇者パーティーの元に向かった。

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