ティリス 3
【王立魔法研究所】。そこの最下層に住みついている友人の部屋に行ったけど、珍しく留守だった。
いつもなら僕が来ることなんて見通してるはずなのに。
まぁ、すぐに戻ってくるだろうって思って、いつものように部屋をサッと片づけ、発掘した埃っぽいソファに腰を下ろす。
そこから僕が睡魔に襲われ意識を失うまで、そう時間は掛からなかった。
ふと、意識が覚醒する。
いつの間にかソファに寝ていたようだ。
背中が痛い。
「やぁ」
身をよじり、目を開けると幼馴染の顔が目の前まで迫っていた。
横に逃げようにも頭の両側に手を置かれていて逃げられない。
「何してるの?」
「寝起きにドキッとした目覚めをと思ってね。どうだい?寝ている時に女の子に襲われてドキドキしているかい?」
「何をされるのかわからないっていうドキドキなら感じてるよ。それより退いて」
「はぁ……まったくつれないねぇ」
よくわからないけど、物凄く機嫌がいいらしい。
不満げな声と裏腹にすぐに解放され、ボクはソファに座り直し、服の乱れを正す。
「今日は良いことでもあったの?」
「まぁね。とびきりの色男に会えたのさ。待って。その表情はおかしい。熱はないし、病気になったわけでもない」
エストがそんな女の子みたいなことを言うなんて……。
「あ、変なものでも食べた?いくら日持ちがするものでも腐るんだよ?」
「いくらなんでも失礼すぎるだろう!」
腕を組んで頬を膨らませている仕草を見ても信じられない。
え?あのエストが?
「おいおい、失礼なことを思い出そうとするんじゃない。それより人の部屋で居眠りとは珍しい。それもアポ無しで来るなんて初めてじゃないか?」
「あぁ、うん。ちょっと事情もあってね。正規の手続きは時間がかかるから」
そこまで言うと、エストはニヤリといつものように意地悪そうな笑みを浮かべた。
「無事にウサギと出会えたようだね」
「多分……だけどね」
「それで次の神託を受けに来たと」
「うん。信用してるわけじゃないけど、今のところ行く当てもないから参考にって思って」
「うんうん。相変わらず信用されてないなぁ」
そうは言いながらも嬉しそうに口元が緩んでる。
そして近くに積んである本の山に腰かけてボクに人差し指を向けてきた。
「次にキミがやるべき事は【巡礼】だ」
「巡礼って……。四年に一回やってるあれ?」
国内各地にある精霊の祠を巡る王族の行事。
とは言っても、ボクは王女として育ったから付いて行っただけ。
「ああ。今回はウーゼルには黙って行う」
「いいの?」
「構わないさ。彼も戴冠式の前の年に同じことをしてるしね」
父上も?
「一つ忠告するなら、これはキミの成長を手助けする試練だ。だから……という訳ではないが、何が起こっても巡礼だけは止めてはいけない」
「何が……起こっても?」
嫌な予感を払拭したくて聞き返したけど、エストはいつになく真剣な表情でこう言った。
「ああ。どれだけ大切な仲間が困っていても手助けしちゃいけない。キミは巡礼を完遂することだけ考えるんだ。それでどんなに冷たい人間となじられようとも……ね」
エストの言葉を聞いて、ボクは口の中に溜まったつばをゴクリと飲み込む。
ボクに……出来るだろうか。
状況を正確に把握して、決して情に流されず、判断を下す。
そんな父上のような人間に……なれるんだろうか。
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