第11話

「キミの旅の仲間である“ティリス”。彼の旅に付き合って欲しい」

「別にお前に頼まれんでもそうするつもりだぞ」

「できれば、同行者の彼女よりも優先度を上げて欲しいんだ。ほら、キミは女の子優先な所があるだろう?できれば、男の娘の優先度を上げて欲しい」

「そりゃ別に構わないけど」


 どうせアリスの方は追手から逃げる事くらい。

 行先に指定がない分、ティリスの用事を優先することが多いだろう。


「随分と念押しする言い方なのが引っかかるな。何を企んでる?」

「企むだなんて人聞きの悪い」

「その無い胸に手を当てて数十秒前の自分を思い出せ」

「わざわざボクの身体的特徴を声に出さなくてもいいだろう」


 やれやれと手を挙げてから、エストは真剣な表情で俺の目を見つめた。


「旅の途中、彼女の状況が変わってもキミはティリスの手を取ってくれるのかい?」

「状況が変わっても……って」


 そこで俺は嫌な未来を想像する。

 ハンプティ・ダンプティ兄弟だけでなく、他の殺し屋も向けられた場合。

 もしくは……、アリスが誘拐などをされた場合だ。


「そんなことティリスが放っておくとも思えないんだがな」

「そうだね。でも、やるべき事とやりたい事は分けて考えるべきだ。そうは思わないかい?」

「そうだな。けど、その時にどっちを取るかは本人次第だ。お前が強制する事じゃない」

「確かにね」


 口では肯定しているモノのエストはどこか諦めたような笑みを浮かべてる。

 話をはぐらかしていることくらい俺にもわかる。

 そもそも……アリスの現状を知らないはずのコイツは今の状況が変わることを想定している。


「お前、何を知ってるんだ?アリスの事も含め、どこまで知ってる?」

「そうだね。何でも……は知らないよ。ボクが知っているのはこの目で見た者の過去や未来くらいなもんだ」


 左目に手を当てながらそんな事を言っていると、ただの厨二病にしか見えない。


「もちろんキミの過去も知っている」

「タチ悪いな」

「だろう?」


 無理して笑ってんのがバレバレだ。

 黒幕だとすると失格の烙印を押されるレベル。

 それよりもあんまり知られたくない赤裸々な過去がバレてしまっている事の方がツラい。

 ハッ!?


「まさか、もう既に脅しに入ってるのか?」

「いや、流石に脅しはしないよ。キミの恥ずかしい過去を周りに暴露したところでダメージなんてたかが知れている」

「んじゃあ、ティリスにあんま良くない未来が見えていてそれを回避して欲しいとかか?」


 俺の言葉に初めてエストは言葉を詰まらせた。


「ッ……いや。そういう意味合いもない。ただ」


 そこで軽く深呼吸をし、エストは詰まっていたであろう言葉を吐き出す。


「ボクは未来を変えたいんだ」

「悪い方向に」

「良い方向にでもいいよ」


 他人の軽口に渇いた笑みで返してくる。

 やりにくいなぁ。


「とにかくね。ボクはボクの見えているこの未来をどうにかして変えたいんだ。そのためなら手段は選ばないし、そのせいで誰が傷つこうと構わない」

「普通に酷い話だな」

「ああ。本当にね」


 そうやって肯定するエストの表情を見ているとかつての友人の事を思い出す。

 なんで諦めるんだよ。

 なんで悩みながらも強くなろうとしないんだ。

 “絶対に勝てない”だなんて決めたのは他ならないお前だってのに……。


 それでも俺の目の前にいる彼女の瞳からは諦めと同じくらいの期待感が見えた。

 んな持ち上げられても俺にできる事なんてそう多くはないってのに……。

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