第12話
「よし。何にも把握できてないが、お前の要求を呑もう。ティリスに旅を続けさせて、アリスから差し伸べられた手を突っ撥ねればいいんだな?」
「そこまで酷い申し出はしてないけど、まぁそんな感じで頼むよ」
「んじゃあ、前金寄越せ」
手を出すと、なぜかキョトンとしていた。
「あれ?」
「あれ……じゃねぇよ。依頼受けてやるから有り金を全部寄越しな」
「それ盗賊側のセリフだろう」
「それで依頼を受けてやるんだ。願ったり叶ったりだろ」
「いや、これから叶えて欲しいんだけどね」
そう言いながら、エストはポケットから金貨を一枚取り出し、俺に投げ渡した。
「おッ前、渡し方……」
運良くキャッチできたものの割と暴投気味。
あと、依頼出す側なんだからキチンと手渡ししなさいな。
「別にいいだろ?本当に有り金全部渡したんだ。ありがたく思って欲しいね」
「ぜってぇ依頼する側のセリフじゃねぇ」
ため息と共に出てきた言葉は闇の中へと消えていく。
そんな俺を見て、エストは手を叩く。
「あぁ、そうだ!忘れる前に成功報酬も提示しておこう」
「やる気に繋がるモンにしてくれよ」
「わかってるわかってる。これはあらかじめ考えていた内容だしね。もし、ティリスが無事に用事を済ませることが出来たら」
今までにない強い風がエストの言葉を遮る。
そして、次に出てきた言葉は訪れた静寂の中で酷く響いた。
「キミがこの世界に呼ばれた理由を教えよう」
あぁー……、クソ。
まさかそれを報酬とするなんてな。
プライバシーの侵害も甚だしいが、俺の過去を見て知ったんだろう。
正直言えば、知りたくない。
知らずにいた方が気が楽だから。
だけど、知らない方が良いなんてことは無い。
クソ面倒くさいけど。
「わかった。それでいい」
ニヤリと笑むエストを見て、俺は悔しさを覚える。
しかし、何故かエストの笑みはすぐに消え、顔を真っ赤にして慌て始めた。
「ちょちょちょ!キミはなんて破廉恥な奴なんだ!」
「は?いや、何を言ってんだ?」
顔を隠して恥ずかしそうにこちらに視線を向けてくる。
断じて今現在進行形で俺がセクハラをしているわけじゃない。
「意味わからん。誰もついていけないからな。っつーか、何を見た。俺は何をした?それは未来の話か?過去の話か?」
「言う訳ないだろう!僕の見た未来が外れるのはそりゃあ楽しみだが、言えばキミは嬉々としてやるだろうからね!!!」
真面目に意味わからん。
コイツ、コミュニケーション能力が低すぎるだろ。
いつもこの調子だと友達いないな?
「余計なお世話だ!」
「おい、ナチュラルに心を読むな」
ツッコミを入れる頃には酔った気分など既に抜けていて、自分の選んだ未来に一抹の不安を抱き始めていた。
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