第5話


 戦闘開始から十分経過。

 巨大ヤドカリの足は半分ほど切り離され、すでに歩くことはできなくなっている。

 それでも致命傷が与えられず、彼は生きたままハサミを動かしていた。


「流石にあの巨大な殻は打ち破れないようですね」


 マットがそう言うけど、俺は即座に否定する。


「フッ……。まだまだだね」

「え?」

「あの二人が俺から教わった事だけやってるような“優等生”のはずないだろ」


 でなけりゃ、開幕早々意味のない《複製魔法(デュプリケイション)》は発動しない。

 マットはここ三日一緒に旅をしている程度の短い付き合いだ。

 気づかなくて当然。


「《加速型貫通力強化(アクセル・ペネトレイター)》」


 ティリスが発動したのは《貫通力強化(ペネトレイター)》の上位術。

 単純に貫通力を増すだけでなく、飛び道具などに対して加速作用を与える。

 その術の精度は俺の目で見ても合格点。

 《投擲》した複製ナイフが巨大ヤドカリへと進み、背中の殻の継ぎ目に突き刺さった。


「いつの間にあんな魔法を?」

「それだけじゃないぞ」

「え?」


 ティリスはそのまま継ぎ目に刺さったナイフに向けて、複数枚複製したナイフを《投擲》する。


「《連鎖爆発(チェーンバースト)》」


 継ぎ目に突き刺さったナイフの周辺に後続のナイフが当たる。

 その中の一発が継ぎ目のナイフに刺さると同時、二つのナイフが爆発し、地面に落ちたナイフも爆発した。

 《連鎖爆発(チェーンバースト)》も一応、部類は強化術に入る。

 効果は魔術に対し、爆発性能を追加するというシンプルなモノ。

 この術の面白いところは、術の中身を理解できれば連鎖させる対象を選べるようになるというトコ。


 ティリスは俺が教えた基礎を元に、どこぞの魔族から教わった魔術をキチンと自分のモノにしていた。

 その証拠にあの硬い殻に小さいながらも穴を穿った。


「次は私の番です!」


 そう言ってアリスがやったのは今までと変わらない射撃。

 破裂音と共に放たれた魔力弾が殻に命中。

 そこからが今までと違った。


「《過負荷魔力(オーバーロード)》。弾けちゃってください」


 アリスの言葉と共に魔力弾の当たったところが炸裂する。


「今のは……?」

「へぇ……。面白いこと思いついたな」


 っつーか、俺と同じことを思いつく奴初めて見たかも。

 ドヤ顔で俺に視線を向けるアリスに俺は親指を立てて、ニカッと笑う。

 アリスもそんな俺に対して同じように親指を立てて笑い返した。


 あの精度でもキチンと殻が割れているのは流石の一言だ。

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