第6話
ここで少しだけ魔術の事を話そう。
魔術には適正魔力量というものがある。
この適正魔力量は術発動のための“下限”とも言い換えられ、この使用量を下回ると術が発動しないか、性能が半分以下となる。
これは先日、俺がアリスたち二人に対して発動した《緊急脱出通路(エマージェンシー・ゲート)》とかがいい例だ。
魔力が足りなくて転移先が10kmを大幅に下回った。
次にゲームなどのように消費魔力量を数値で表すと《下級炎弾魔術(ファイアボール)》の適正消費魔力量はMP2となる。
この消費量が下限。
つまり、魔力消費量が多ければ多いほど威力が高く、範囲が広くなり、効果が上乗せされる。
最初の頃のアリスがやってた強化術とかがこれに含まれる。
魔力消費量が通常よりも多かった分、非殺傷攻撃を殺傷攻撃にまで強化していた。
けど、残念な事に消費量を無限に上乗せすることはできない。
下限があれば、上限も存在する。
仮に魔術の消費魔力量の上限を超えたらどうなるか?
それが今、アリスがやって見せた現象に繋がるのだ。
「魔力の過剰付与による魔術の暴走だ」
「きょ、強化術で!?」
マットが驚くのも無理はない。
だって、強化術の上限ってほぼ無いに等しいし。
けど、やり方はある。
「試行錯誤を重ねてるうちに見つけたんだろうなぁ」
「え?」
「強化術の重ね掛けをした上で、重ね順の早い方の魔法に魔力を上乗せするとあぁやって少ない魔力でも暴発するんだよ」
「え、なんで……?」
「それは知らん」
キチンと説明すると、風船みたいな感じ。
風船のゴム部分が上に重ねた方の魔術。中に吹き込む息が先に発動していた強化術。
魔力操作で《貫通力強化(ペネトレイター)》の配分を大きくし、代わりに《切断力強化(シャープネス)》を希薄にしたんだろう。
そのせいで風船の膜が内部の膨張に耐えられず破裂。
同時に《切断力強化(シャープネス)》のかかっていた《貫通力強化(ペネトレイター)》や魔力弾自体も暴発した。
ちなみに、マットに対して詳細な説明しなかったのは備えの一つ。
大まかなのでも致命傷とか言わないで。
理解はしているから。
「それでもやるなぁ。アイツら」
殻を攻略できれば、時間はかからない。
っつーか、自分たちの力量を見てもらうために時間かけた感があるな。
RPGとかやってると新術覚えるたびにそればっか使ってた思い出あるけど、そんな感じだな。
そこから数分と経たずに巨大ヤドカリは自慢の殻をボロボロにされ、その命を落とした。
それでも二人は沈んだヤドカリから目を離さず、時間を置く。
そして、動く気配が全くないヤドカリに安堵のため息を漏らし、二人は俺の元へと駆け寄ってきた。
犬かお前ら。
「「どうでしたか!?」」
そんなに輝いた目で見上げて、しっぽを振るんじゃない。
二人には無いはずのしっぽと耳が見える。
「よ~しよしよし。よくやったなぁ」
思いっきり子供を褒めるように頭を撫でたんだけど、この時ばかりはアリスも素直に受け入れていた。
なんだこの可愛い子供。
「えへへ」
「やりましたね!アリスさん!」
「はい!ティリスも!」
二人が拳をコツンと当てて、お互いを褒めて労う。
この辺はどこの世界でも似たようなもんなんだな。
共に頑張った仲間同士が喜びを共有する瞬間。
俺も味わったことあるけど、一人で勝つ時よりも嬉しかったりするんだよな。
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