第7話


 遠く離れた場所で俺らは爆風による強風と熱気に耐えていた。

 確実に10km離れた場所でも流れてくる温かい強風。

 数秒前まで俺らが立っていた場所はモクモクと煙が立ち、爆心地は僅かに見える地面が赤く煮えたぎっていた。


「間ッ一髪ッ……」


 安心と共に腰が抜ける。

 同時に、俺にしがみついていた二人も体勢を崩し、俺の上に乗りかかってきた。

 それでも俺の服を掴む手は放さない。

 程よい重さに子供体温の暖かさが体の前面に感じられ、心地よささえ感じる。

 あぁ~、人の体温って暖かいなぁ(現実逃避)。


「生きて……ます?」


 俺を現実逃避から引き戻したのはアリスの不安そうな声。

 まだ自分が生きていることが信じられないような目で周囲を見渡している。


「おぅ!生きてるぞワガママ娘とワガママ息子」


 ティリスも顔を上げて俺の方に目を向ける。

 そして、二人同時にホッとした表情を見せてから眉間にしわを寄せて、俺に向かってグーを突き出した。

 ちなみに胸ぐらを掴まれていて避ける事はできない。


 ほぼほぼ無傷だった俺の顔にめり込む二つの拳。

 後ろへと倒れ込み、地面に頭が着くと俺は抗議を始める。


「いきなり何すんだクソガキども!?」


 しかし、俺の怒りは二人の嗚咽によって掻き消される。


「ほ、本当に……死んじゃったかと」

「いや、五体満足に生きていることを感謝しろよ。主に俺に」

「アリスさんが安心してるのはそういうことじゃないと思います」

「ん?」


 首を傾げると、アリスがまた涙ボロボロな顔で俺を見上げてくる。


「ピーターが!死んじゃうかと!おぼったんですよ!」

「ンな簡単に死んでやるもんか。ふざけんな」

「自己犠牲なんて!ぜったいに流行りませんよ!?なんであんなことしたんですか……。邪魔だとか言って……!私たちを逃がしてッ!!!」


 リアルに邪魔だったからとか言えたらいいけど、そんな事を言える状況じゃないのは俺にもわかる。


「自己犠牲が流行らないって思ってんのは俺も同じだ。誰が好んで犠牲になるモンか」

「それでもボクらを逃がしたじゃないですか」

「あの兄弟に一泡吹かせるためには心残りが近くにいると邪魔だったんだ」

「それが自己犠牲だと言ってるんです!」

「自分が助かる事も想定済みだ!」


 嘘だけど……。

 それこそ自己犠牲みたいに聞こえてくるから絶対に言わない。


「それでも……」


 アリスはまだ泣いている。

 けれど深呼吸をしてから涙を拭う。

 そして、落ち着きを取り戻し、いつものトーンになる。


「何かあった時に残された私とティリスの気持ちも考えてください」


 先ほどよりも感情的でない分、ストレートに心に刺さる言葉。

 はぁ……、観念するしかないか。

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