第5話


 それぞれが体を清め、お湯に浸かって体が火照ったとはいえ、未だに顔を赤くしているアリスとティリス。

 互いに互いの顔を見ることが出来ないのか、顔を逸らしている。


「お前ら、これから一緒に旅する仲間なんだし、仲良くしろよ」

「「誰のせいだと思ってるんですか!?」」

「なんだ仲良いじゃないか」


 さっきまで男か女か言い合いしてたのにな。

 代わりに、俺が恨まれてるけど……。解せぬ。


「あ、ティリスの寝袋なんだが」

「寝袋?」

「ああ。この《領域》内には悪漢も魔物も野生動物も入れないからな。安眠できる寝袋を使っているんだ」

「あ、いえ……。初めて聞いた言葉だったので」


 そうなの?

 と、アリスに目を向けるが、未だに機嫌が悪いのか頬を膨らませて顔を逸らされた。


「実物見ればわかるだろ。こういうのだ」


 《個人収納空間(ストレージ)》の中から寝袋を取り出す。

 全体的に原色の青色。

 モコモコの手足があり、フードには垂れた長い耳と紅い瞳が付いている。


「基本的に実用性重視で買い物をする俺だが、この時ばかりは疲れていてな。一度も使ったことのない寝袋だから衛生面は保証する」

「な、なんか……」


 ティリスが頬を少しヒクつかせていると、予想だにしない方向から叫び声が上がった。


「キャァー!なんですかその可愛い寝袋!そんなのがあるなら最初から出してくださいよ!」

「アリス。落ち着け。あと、夜営時に大声出すとか常識を知らんのか」

「あ、えへへ……。ごめんなさい」


 振り切ったテンションが急速に落ち込み、恥ずかしさがこみ上げてきたらしい。

 ちょっと口角が上がりつつ、顔を俯かせる。


「っつーことで、ティリスは今日からこれな」

「えぇ~?今私が使ってる寝袋をティリスに渡せばよくないですか?」

「ちなみに、アリスさんが使ってる寝袋はどんなのなんですか?」


 ティリスがそう聞いてくるので、俺はアリスの寝袋も取り出す。

 何の面白味もない、ただの寝袋を見てティリスはこっちを指さす。


「ボクとしてもこっちのシンプルな寝袋の方が良いです」

「いや、まぁ確かにこっちの方が高価だし、快適には眠れるんだが」

「ティリスがそう言ってるんですから、私が今日からそのうさ耳寝袋を」


 アリスの嬉しそうな声を遮るように俺は問題と思っていることを口に出す。


「でも、この寝袋。アリスの移り香付きだぞ?」


 固まる両者。


「まぁ、男の子としてはある意味正しい反応だけど……。アリスは本当にいいのか?いやまぁ、この夜の短い間でだいぶイメージ変わったから俺は別に気にしないけど」


 俺にしては珍しく気を使ったつもりだったのに、アリスは顔を真っ赤にして涙目になる。

 そして、ぎゅーっと怒りを溜め、盛大に撒き散らす。


「…………ッ!!!!」


 おいおい、女の子が汚い言葉を使うのは感心しないぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る