第6話


 色々とあった翌日も、俺らの間にはちょっとした気まずさが流れていた。

 アリスは朝食の時も一言も話さず、今日の一言は寝起きの「おはようございます」のみ。

 ティリスもそんなアリスの雰囲気に呑まれ、ちょっとビクついている。

 そのため、ティリスの今日の一言は「おはようございます」と「いただきます」と「ごちそうさまでした」の三つとなった。ん?一言?


 話題を変えよう。

 いろんな魔術を持っている俺だが、移動系の魔術はほとんど持っていない。

 当然、《個人収納空間(ストレージ)》の中には自転車も、バイクも、車もない。

 なので、旅自体は快適でもこのパーティの移動手段は徒歩となる。


 キラキラと青い空の下、日除けのフードを被りながら歩き続ける三人。

 風が吹くと心地よい冷たさがあり、心が癒される気持ちになる。


 パカパカパカという音も馬の走る音みたいでいいな。

 競馬は正直好きになれなかったけど、馬が走っているところを見るのは好きだったなぁ。

 よく友達に誘われて、西船橋駅に行ってたっけ。


「よぉよぉよぉ!」


 馬の足音が止み、ブルルンと馬の声がする。


「こんなところでちんたら何やってんだ?」

「見てわからないのか。歩いてるんだ」


 俺とアリスはオッサンの声など気にせず歩き続けたが、ティリスが足を止めてしまう。

 俺はちょっと心配になり、声をかけた。


「ティリス。疲れたか?」

「えぇ!?いや、そういうことじゃなくて」

「もう二時間くらい歩いてましたかね?」

「あぁ、確かにそうかもな。お!ようやく機嫌治ったか?」

「機嫌はまだ悪いままです。でも、それで旅に支障が出るのはマズいですからね」


 そんな大人みたいな発言をするアリスに近づき、よしよしと頭を撫でる。


「ちょっと……。撫でないでください!子供じゃないんですから」


 そう言いつつも逃げないあたりまんざらでもないんだろう。

 俺は手を離し、ポケットからASDを取り出す。


「んじゃ、ティリス。ここらで休憩しよう」

「えっと……、今ボクら襲われてません?」

「「え?」」


 意図せず俺とアリスの声が重なる。

 気づけば旅の仲間がひぃふぅみぃ……七人と七匹ほど増えている。


「え、なんか急に増えてる。だれ?」

「気づいてなかったのか!?」


 ヒゲ面のオッサンが叫び、他の若い兄ちゃんたちも驚いていた。

 そんな中、キョトンとした表情でアリスが俺を見上げる。


「ピーターの知り合いですか?」

「いや、俺にヒゲ面の知り合いなんて……まぁまぁいるけど、こいつらは知らん」

「オレらもテメェの事なんて知らねぇよ!」

「ハッ……!もしかして道に迷ったのか?」

「オレらを何だと思ってるんだテメェは!!!」


 なぜか怒り心頭なヒゲ面。

 見た目は安っぽく汚らしい服装。腕と肩を守る鎧を装備し、腰には剣。

 目つきは鋭く、体はデカい。


「いかつい顔した旅人?」

「ピーター、この人たち」

「アリス。まさかのお前の知り合いか?」


 そんな俺の言葉にアリスは冷静に首を横へと振った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る